ヘイリー国連大使辞任がトランプ政権に与えるリスク(特別寄稿)

2018年10月11日 06:01

ニッキー・ヘイリー国連大使が年内で辞任することが公表された。半年前からの辞任の意向を受けてのことであり、トランプ政権の辞任劇としては他の閣僚の辞任と比べて淡々と処理されたかのように見える。

ヘイリー氏公式ツイッターより:編集部

しかし、実はヘイリー氏の辞任は他の閣僚辞任よりもトランプ政権に与える潜在的なリスクは大きいものと推量される。それは何故であろうか。

トランプ大統領は閣僚の中で軽々しく批判を口にしないメンバーがいる。ペンス副大統領やマティス国防長官などがそれにあたる。実はヘイリー氏もそのうちの一人であり、辞任を公表する段階になってもトランプの対応は極めて紳士的なものだった。

このメンバーの共通点は2020年の大統領選挙で共和党内からトランプに対して反旗を翻す可能性がある潜在的な競合相手であることだ。ペンス副大統領は常にトランプ大統領から一定の距離を置いており、トランプ政権の不測の事態に備えた準備をしているように見える。

また、マティス国防長官は2016年共和党予備選挙でトランプが共和党指名を確実にした際に、共和党内の反トランプ派の人々が共和・民主以外の第三の大統領候補者として担ごうとした経緯がある。結局、マティス氏は出馬を断ったものの、彼の国防長官人事は能力面も然ることながら、その論功行賞と閣内封じ込めの意図もあったことは疑い得ない。

ヘイリー氏は日本ではあまり知られていないが、共和党内では将来の大統領が嘱望されるホープである。共和党保守派の年次総会であるConservative Political Action Conference で、2016年に副大統領候補者に相応しい人間として投票で1位に選ばれたほどだ。同イベントで保守派有権者からの信任を得ることは、共和党で頭角を現すために必要なプロセスであり、彼女は既に共和党内で誰も認める確固たるポジションを築いたと言える。

たたき上げの経営経験、知事経験、女性、インド系、ルックスという全てを兼ねそろえたヘイリー氏にとって足りないものは国際舞台での経験だけだった。政権発足に際して、トランプ大統領は国連大使のポストを彼女に与えることで、彼女のキャリアと共和党の未来にコミットし、共和党保守派を満足させた上で潜在的なライバルを閣内に取り込むことに成功したのだった。

そのヘイリー氏が敗色濃厚になりつつある中間選挙前にトランプ政権からの離脱を表明することは様々な憶測を呼んで当然だろう。自身は2020年大統領選挙出馬の憶測を否定しているが、それを額面通りに受け止めることは難しい。

ヘイリー氏は2016年大統領選挙時も予備選挙で当初はマルコ・ルビオを支持し、その後テッド・クルーズを推薦した上で、最後にはトランプ政権に入閣した変わり身の早い人物である。米国のメディアではペンス大統領候補・ヘイリー副大統領候補としてトランプへの対抗馬として報じる記事も度々出ている。

ヘイリー氏の業績は共和党の国連大使としての公約達成への貢献は非の打ちどころがなく、トランプ大統領と衝突した他の外交関係の閣僚とは立場が異なっている。そのため、彼女は共和党内で尊重され続けられるだろう。

したがって、トランプ大統領はヘイリー氏が国連大使を辞任したことを受けて、彼女に対して将来的なポストの空手形を実質的に切ることになっただろうと推測する。具体的には、トランプ氏は自らの再選のためには2020年大統領選挙前後における国務長官ポストを餌にヘイリー氏の行動を抑制し、彼女の狙いを2024年の大統領選挙に向けさせることが必要になるはずだ。

当面の国連大使の後任者はディナ・パウエル元副補佐官、リンゼー・グラム上院議員、トム・コットン上院議員、場合によってはイヴァンカ氏またはクシュナー氏などの多様な候補者名が上がっている。しかし、誰が選ばれたとしてもニッキー・ヘイリー氏よりも国連大使として成果を上げることは難しく、彼女は今後もその動向を最も注目すべき共和党関係者として注目され続けることは間違いない。

日本人の知らないトランプ再選のシナリオ―奇妙な権力基盤を読み解く

渡瀬 裕哉
産学社
2018-10-10
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渡瀬 裕哉
国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員

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