交渉の成否

BUSINESS INSIDER JAPANに以前、「交渉が苦手な人に送る、9つのアドバイス」(18年7月1日)という記事がありました。そこには「専門家のアドバイス」として様々書かれているわけですが、第一に挙げられている『「交渉」は「ケンカ」とは違う』とは明らかで正にその通りだと思います。

交渉の基本は現代風に言えば、Win-Winの状況を如何に作り出すかということです。は、相手の立場を思い遣る「仁(じん)」の思想に通ずることです。あるいは、正反合(…ヘーゲルの弁証法における概念の発展の三段階。定立・反定立・総合)と進む中で、互いに納得できる妥協点を見出し行くものと言えましょう。中国古典的に言えば、より高次元の中庸に達すべく為され、物事の平均値や中間点の類として捉えるものではありません。

交渉において私が一番大事だと思うのは、「巧詐(こうさ:上手く誤魔化すこと)は拙誠(せっせい:下手でも真面目)に如かず」と韓非子が言うように、自身の利益だけを考えるのでなく相手の立場に鑑み真心を尽くして向き合っている、といった誠実さが相手に伝わるということです。

『「兵は詭道なり」。つまり戦争・戦略というものはいかに相手をいつわるか、ということが根本である』とし、「敵」である交渉相手を如何に上手く騙すかと常々考えていたら、交渉などというのは失敗することはあっても成功することはありません。交渉を纏め決着をつけようと思えば、拙誠が何よりも大事になるのです。

また、グローバルなビジネスをすると、肌の色や言葉あるいは顔付き等々全く違う人間とよく対峙します。例えば白人に対し、英語で話さねばならないというプレッシャーもあって、中々自分の意見を十分言えない日本のビジネスマンも多いですが、そんなことを気にする必要は全くないと思います。

相手は母国語ですから、英語が上手くて当たり前です。「辞は達するのみ」(衛霊公第十五の四十一)と『論語』にもあるように、上手い下手関係なしに言葉の意味が通じれば、それで良いのです。勿論、色々な知識を鏤めながら滔々(とうとう)と話が出来たらば、それに越したことはありません。

しかしそれも、誠実さには及びません。一人の人間が他の人間と接した時最も大事になるのは、言葉はたどたどしくとも、礼儀正しく謙虚に振る舞いながらWin-Winを模索するということであります。対人交渉においては、人間として立派だと相手に思われることが第一です。上手く巧みな言葉を幾ら使ってみたところで立派な交渉とは言えず、終局誠実さには及ばないのです。

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