トランプ大統領は、FRB議長を解任できる?

2018年10月13日 06:00

トランプ大統領が、ここに来てパウエル議長率いる米連邦準備制度理事会(FRB)への口撃を強めています。この10~11日の2日間でダウはざっと1,300ドルも急落するなか、トランプ大統領がFRB議長を解雇するリスクが一部で取り沙汰されました。ここで、最近のトランプ大統領によるFRB批判を振り返ってみましょう。

7月19日
「利上げは好ましくない」

10月9日
「Fedが利上げを急ぐ必要性を感じない」

10月10日
「Fedは間違いを犯しており、Fedは頑な過ぎる」
「米株安の責任はFedにある」

10月11日
「Fedには失望した、Fedは制御不能である」
「(Fedの利上げは)積極的過ぎる」
(パウエルFRB議長を)解任する気はない

というわけで、トランプ大統領が猛烈に批判しようがパウエルFRB議長をお役御免にする予定はなさそうです。ロシアゲートで大統領解任を画策したとされ、去就が取り沙汰されたローゼンスタイン司法副長官も、結局は更迭しませんでした。

トランプ大統領の胸三寸を読み解くには、経済政策のスポークスマンたるクドロー国家経済会議(NEC)委員長のコメントに耳を傾ける必要があります。そのクドローNEC委員長、トランプ大統領の口から過激なFed批判が飛び出すなかでも「Fedの独立性を承知しており、政策に関与するつもりはない」と火消ししていました。

前任と比較するとイマイチ存在感に欠ける彼ですが、トランプ大統領とは旧知の仲であり、忠実な政権メンバーであることを踏まえれば、クドローNEC委員長の言葉は無視できません。11月末開催のG20首脳会議を舞台にした習首席との会談も、1週間前から可能性をちらつかせていました。トランプ政権の高官は大統領の放言の後始末処理班との印象が強いものの、本来は政権の推進する政策の旗振り役ですからね。

意外に、お得意のツイッター砲でのFed批判は直近でみられず。ハリケーン”マイケル”関連が目立ちます。

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(出所:Twitter

いくらFedを非難したところで、トランプ大統領がパウエルFRB議長を解任できない理由もございます。FRB議長の更迭は法律上では可能ですが、ハードルは極めて高いのですよ。連邦準備法の10節2項に基づけば、大統領がFRB議長を含め理事を罷免するには「正当な理由(for cause)」が必要で、「任意(at will)」ではありません。

では、「正当な理由」とは何か?連邦準備法で定義されていないものの、独立機関のトップと大統領との間の政策不一致でないことは、歴史が証明しています。

ルーズベルト大統領(当時)は1935年、ニューディール政策を支持しなかったとして、独立機関である連邦取引委員会(FTC)のウィリアム・ハンフリー委員長を解任しました。しかし直ちに司法が介入し、最高裁判所は全会一致で罷免の無効を決定しただけでなく、「独立機関の高官は、行政府の支配から解放されていなければならない」との判断を下したのです。

そもそも、政権の高官とFedやFTCのような独立機関では、存在自体が異なります。国務省など省庁の長官からホワイトハウスのスタッフなどに関しては、大統領の任意で更迭可能で、憲法第2条に盛り込まれています。しかし、独立機関は立法府すなわち米議会が法律の名の下で設立した機関であるため、米議会が定めた法律に則し職務を遂行している限り、その機関のトップを解任できない仕組みとなっているのですよ。ハンフリー委員長解任問題では、「非効率的行為、職務怠慢、不正行為(inefficiency, neglect of duty or malfeasance)」によってのみ、解任されると規定されており、それに該当していなかったというわけです。

ちなみに、FRB議長やFTC委員長、証券取引委員会(SEC)委員長などは就任の際に宣誓を行いますよね?あの宣誓こそ、行政府に属さず、独立性を担保する証です。法律の合憲性を支持すると宣誓しているだけに、大統領による「正当な理由」に乏しい解任は法律の合憲性に抵触するもので、転じて「憲法違反」と判断される理由を与えたも同然でしょう。

実は、全米で大きな論争を巻き起こしながら最高裁判事に着任したブレット・カバノー氏も、独立機関のトップの解任に「正当な理由」が必要と判断した一人なんですね。ワシントンD.C.での連邦控訴裁判事時代、ドッド・フランク法の下に設立された消費金融保護局(CFPB)の構造が憲法違反であるとの見解を表明しつつ、長官の解任は大統領の「任意(at will)」とすべきと主張、つまり解任に「正当な理由」が必要であることを認めたわけです。CFPBをめぐる法律にも、長官の解任は「非効率的行為、職務怠慢、不正行為(inefficiency, neglect of duty or malfeasance)」が該当する場合との条文が盛り込まれ、即ちこれが「正当な理由」となります。

カバノー氏など最高裁判事にも、大統領権限は及びません。
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(出所:The White House/Flickr)

カバノー最高裁判事を指名したのはトランプ大統領その人ですから、この事実をよくご存知のはず。トランプ大統領のFed批判は、米株安や金利上昇の直撃を受ける有権者の目線をかわす狙いがあるのでしょう。

(カバー写真:The White House/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年10月12日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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