軽減税率は弱者救済になるという神話

2018年10月17日 06:00

今や単一税率が世界の主流

安倍首相が来年10月に消費税を10%に引き上げることを表明しました。このことは消費税法に明記されている既定路線で、目新しさはありません。意味があるとすれば、社会保障財源の確保のために、3度は先送りしない、もう逃げないと、首相が退路を断ったことでしょう。

10月9日のブログで「消費税10%を確約する首相声明を出せ」と、私は主張しました。株式市場が動揺しだしたので、予算編成期ぎりぎりまで首相は待つのかなとも思いました。声明というより意思表明であっても、経済目標をずるずる引き延ばすことが多い首相にしては、評価に値する決断です。

今回は、メディアが避けている問題点を指摘したいのです。軽減税率導入にはシステム、レジなどの変更という煩雑な作業が必要であり、さらにだれもが納得する標準税率と軽減税率の線引きは至難です。それが流通現場の準備の遅れをもたらしていることを知るにつけ、今や国際的に主流になっている簡素な単一税率制が正解だったと思います。

低所得者対策は給付金で解決

消費税が上がり、生活が苦しくなる低所得者対策としては、単一税率のもとで、当初からあった給付型措置(生活補助金の支給)を導入することが正しい選択だった。高価格商品を含め、消費金額が多い高所得者が軽減税率によって、低所得者よりも得するともいえます。

準備がここまで進んでしまうと、軽減税率の導入をはもう止められません。できることは、どのような経緯で軽減税率という道に迷い込んでしまったのかの検証です。

メディア、特に新聞は「付加価値税(消費税)の導入で先行した欧州では軽減税率(複数税率)が定着している。新聞は軽減ないし非課税の対象になっている。言論の多様性、民主主義を守るのに軽減税率が不可欠」と、強調してきました。軽減税率の対象に含めてもらいたいという底意があったのでしょう。

「複数税率は消費者の負担軽減、民主主義にとって必要な装置だ」というのは、メディアが作り上げたある種の神話のようです。税制に詳しい学者によると、「遅く消費税を導入した国ほど、煩雑な複数税率(軽減税率)を避けるために、単一税率制を採用している」とのことです。

複数税率国は少数派

1989年以前に消費税を導入した国では「複数税率36か国、単一税率12か国」、89年以降かつ94年以前の導入国では「複数税率15か国、単一税率31か国」、96年以降の導入国では「複数税率5か国、単一税率25か国」だそうです。複数税率は少数派、単一税率が多数派になってきました。

財務省OBで税務畑を歩んできた税制学者の森信茂樹氏は、2014年に開かれたOECD、IMF主催の専門家会合に言及しています。「欧州の軽減税率、非課税制度は消費税制の効率性を損なっており、縮小すべきだ」、「低所得者を救済する方策としては、対象者を限定した給付型措置(補助金支給)に比べ、複数税率制は非効率だ」との結論だったそうです。

さらに同氏は「複数税率が欧州で定着しているという表現は正確でない。政治のポピュリズムにより、軽減ないし非課税を導入させられている」との見解を示しています。新しい品目が生まれるたびに複数税率の対象にすべきかどうかが議論になり、煩雑だとの指摘もあります。

こうした流れは日本では、あまり伝えられていません。新聞は「軽減税率こそ、弱者対策、言論の多様性の保護につながる」という神話ばかり報道してきたように思います。新聞協会は「知識に課税させない」とまで言い切りました。NHKの視聴料、新聞社が提供している電子新聞は軽減税率の対象外という矛盾を承知の主張です。

さらに政治にも責任があり、「軽減税率こそ弱者対策になる」という幻想をふりまき、それが選挙対策に使えると考えてきました。飲食料は軽減税率の対象であるため、低所得者には無縁の「1万円のメロン」、「100㌘2千円の高級和牛」までが含まれ、金持ちが得するとの分かりやすい批判があります。

「こしょう、みりんはともに調味料なのに、軽減税率では、みりんは酒類扱いされ、税率は10%」といったような矛盾が数多くでてきます。「定期購読の紙の新聞は8%、電子新聞は電子的サービスなので10%」というのも矛盾しています。将来は電子新聞が増えていく。新しいサービス、製品が登場するたびに、軽減税率の硬直性が問題になります。単一税率が正解であったと考えます。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2018年10月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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