「交戦権」問題の本質、佐々淳行様ご逝去など

石破 茂

石破  茂 です。

先週のブログは、私のパソコン操作ミスにより、途中で切れた形で終わってしまい、大変失礼致しました。

パソコンのワードプロセッサー機能は、かつてのワープロ専用機に比べると私にはとても使いにくいものです。ポータブルのワープロ専用機はとても使いやすく、その場で印刷も出来て実に便利だったのですが、今や絶滅状態。どこかもう一度発売してくれないものでしょうか。

あの後に申し上げたかったのは、日本国憲法上、明確に交戦権が否定されているのは、明らかに日本国の主権制限条項であるということ、交戦権が否定されていることが日本の安全保障にとってどのような影響を与えているのかを、法律論とは別に検証する責任を保守・革新(当時はそのような分け方がされていました)共に有しているという認識を江藤淳氏は持っておられ、それは今でも正しいということでした。

交戦権の問題の本質は、集団的自衛権や日米安全保障条約・日米地位協定と並んで「日本国は果たして主権独立国家なのか」という一点にあるのですが、この議論は最近全くと言ってよいほどになされません。

日本国憲法の三大原理の一つである国民主権については小学生の時から徹底して教わるのですが、国家主権については全く教わらない。従って「国家主権を守ることが国の独立であり、それを果たすのが軍隊の唯一の役割である」と言っても、それは一体何のことだかほとんどの人が理解できない。

日本国憲法が制定された時に日本国は連合国の占領下にあり、主権独立国家ではなかったので、憲法に国家主権も軍隊も書かれていないことは論理的には当然のことだったのですが、サンフランシスコ講和条約が発効して独立を回復した時に当然憲法を改正しておくべきところ、これを怠ったまま今日に至り、意識すら風化してしまったのが現実です。

大切なものは努力しなければ守ることは出来ないのであり、その価値を見失い、それがあたかも所与のものであるかのように思ってしまったとき、それはいつの間にか自分の手から離れてしまうものなのだ、といったことを論じていたのは、中学生のころ読んだイザヤ・ベンダサン(山本七平)氏の「日本人とユダヤ人」であったように記憶していますが、国家主権・国家の独立はその最たるものでしょう。

そして、憲法前文も、第9条第2項もそのままにして、第3項に自衛隊を書く、という摩訶不思議な論に自民党内から異論が噴出せず、マスコミもこれを政局的な観点からしか報道しないのは、風化がそこまで進んでしまったということなのでしょう。

政府が連綿として構築してきた憲法論には、「それがいかに精緻であったとしても、日本に手を掛けようとする国にはどのように映るのか」という意識が決定的に欠けているように思われます。政府の一員として何度も答弁してきた自分自身の責任を痛感しつつ、これは一種天動説的という思いがしてなりません。そのツケは、政治ではなく国民や自衛官たちが負わねばならないことを思うとき、慄然たる思いにかられます。

自分の使命はいまなお終わらないと強く思う所以です。
江藤氏の「1946年憲法 その拘束」は容易に入手できますので、多くの方にお読み頂きたいと切望しております。

佐々淳行さん(公式サイトより:編集部)

今月十日に逝去された初代内閣安全保障室長・元防衛施設庁長官 佐々淳行氏の葬儀が今週執り行われ、参列してまいりました。慶應義塾大学での講義録である「ポリティコ・ミリタリーのすすめ 日本の安全保障行政の現場から」(1994年・都市出版)を読んで蒙を啓かれて以来、何度かご指導を賜ってきたのですが、愛国心と使命感を持たれた立派な方でした。

今週は元内閣官房長官 仙谷由人氏の訃報も報じられました。「赤い官房長官」などと酷評され、野党時代の私も何度か追及質問に立ちましたが、立場は全く異なるものの、教養の深い、行動力に溢れた方であったと思います。

官房長官時代「自衛隊という暴力装置」との発言が問題となりましたが、私は内心秘かに「この人はマックス・ウエーバーの『職業としての政治』を読んでいる」と思ったことでした。総裁選直後にTBSの「時事放談」でご一緒したのが最後となってしまいました。お二人の御霊の安らかならんことを切にお祈り申し上げます。

週末は地元に帰り、自民党鳥取県連会長として来年の統一地方選や参議院選に向けた会議を主催する他、いくつかの地元後援会の会合やお祭りに顔を出す予定です。

季節は急速に秋になりつつあります。皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。


編集部より:この記事は、衆議院議員の石破茂氏(鳥取1区、自由民主党)のオフィシャルブログ 2018年10月19日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた石破氏に感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は『石破茂オフィシャルブログ』をご覧ください。