文章力は向上する:ある学生のビフォーアフター

2018年10月30日 06:00

二つの写真を見比べていただきたい。

参考までに文字にしてみると、次のような具合である。

①ヨッシャー!やるぜ!!

この人いっぱい知ってんなー。俺もいっぱい知りたい!社会の情勢知るには「週に一回でいいから新聞を隅から隅まで読む」。先生のおすすめ。よし、やってみよう。今まで新聞なんて面倒くさくて読まんかったけど、たくさん知れるなら読もうという気持ちが湧いてきた。

新聞の話で興味深かったのは徳富蘇峰が出した国民新聞の話だ。新聞には感じの横にルビを振っていて、誰もが漢字を覚えることができたという。ルビを振っている新聞を読むだけで大人も子供もみんな自然と漢字が読めるようになる。スガイ発想だな。国民は漢字読めるようになっただけで、見える世界が広がっただろうな。どういう社会が広告しているか、その社旗の広告をのこしておくと時代の変わりようが分かって面白いと言っていた。パナソニックは前までバンバン広告出してたけど、今全然出してないよねって。なるほど確かに面白いかも。海外放送は国々の庶民の関心を知れるからぜひ見てほしいと言っていた。 以下略。

②『流されない読書』書評

「少にして学べば則ち壮にして為すこと有り。壮にして学べば、則ち老いて衰えず。老いて学べば、則ち死して朽ちず」と喝破したのは、漢学の雄、佐藤一斉だった。若き日に学べば、壮年時代に役立つ。さらに壮年時代に学べば、年老いてから気力が衰えることはない。そして、老いてなお学べば、死んだ後にも朽ち果てることはない。人間は一生涯、学問を続けていく必要があることを彼は説いているのだ。その学問をするための一つの手段が読書だ。

なぜ、読書をする必要があるのだろうか。筆者は自分自身に変化を求めているからだという。

「今ある自分が、より成長していく、より深みのある、より思考力のある人間となって現実を眺めてみたい、生きていたいと望むからこそ、本を読むのです」

ゆえに、『論語』や『孫子』といった古典やドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』のような難解な書物に挑み、自らを成長させていくのだ。

善き行いをする者は報われ、悪しき行いをする者は報われない。サミュエル・スマイルズは『自助論』、ディケンズは『クリスマス・キャロル』において、こうした因果応報の哲学を説いた。願わくば、善行を積む者が救われる世界であってほしい。だが、因果応報の論理が必ずしも成立しないのが我々の生きる世の中なのだ善き人が不幸になることもあり得るのである。 以下略

驚く人が多いかもしれないが、この二つの文章を書いたのは別人ではない。同じ人物である。

① の文章は、ある学生が入学直後に書いた文章、②の文章は今月書いた文章である。

私のゼミでは文章を書くことを重視している。他者が読んで理解できる文章、そして、自分の思いが可能な限り読者に伝わるような文章が大切だ。独りよがりで、何を伝えたいのかわからないような文章は意味がない。

週に一度、課題図書の要約、批評を書かせ、私自身が添削を行う。この添削はかなり徹底した添削だと自負している。この単純な作業を何度も繰り返しているたびに、自然と文章力が向上する。当たり前といえば、当たり前のことをしているだけなのだが、現在の小学校、中学校、高校で、こうした指導がなされていないようだ。

学生に聞いてみると、「読書感想文を書け」といわれたことはあっても、どのような文章を書けばいいのかが示されることはないし、丁寧な添削も行われていないという。

大学時代に文章を書く力だけは身に付けさせておこうというのが、私の小さな志だ。多くの場合、偏差値で評価されてしまいがちだが、文章はしっかりと書けるようにしたい。

ちなみに、同様の試みを社会人対象にも行っている。ライティング・ゼミと称して、読書感想等々をアップしてもらい、添削を行う。随分と文章が上達する人も出て、非常に嬉しく思っている。ライティング・ゼミとは称しているものの、少人数の読書会の開催、意見交換の食事会等々をしているため、メンバー同士が非常に親しくなった。私の結婚式にも多くのメンバーが駆けつけてくれた。

教員をしているうちに、自分の特技が「文章能力を向上させること」であることがわかった。

不思議なことだが、文章は一度書けるようになると、その能力は維持される。先日、以前に指導していたゼミのOBと話した際、嬉しい報告をしてくれた。上司から、「君の書く報告書は非常にわかりやすい」と褒められたというのだ。彼も喜んでいたが、私も嬉しかった。

文章を書くのが苦手だった彼が文章で褒められるとは、教師として嬉しい限りだった。やはり、文章能力は一度身につけると衰えにくいものなのだとも実感した。

そういえば、彼が学生だった頃、ご両親にお会いしたことがあった。そのとき、ご両親が教えてくれたエピソードを紹介したい。

地方出身の彼が親に電話をかけることはほとんどなかった。だが、ある日突然電話がかかってきた。驚いて、何があったのかを確認すると、「今日ゼミの先生から、文章について褒められた」との報告だったという。当時も厳しい添削をしていたのだが、その日には、「これは良く書けている」と褒めたようだ。確かに彼の文章能力は向上していたから、褒めてもおかしくはないが、自分では覚えていなかった。

私の座右の銘は「一隅を照らす」。これからも一隅を照らす覚悟で文章を書くことが得意な人たちを世に送りたい。

政治学者が実践する 流されない読書
岩田 温
扶桑社
2018-09-21

編集部より:この記事は政治学者・岩田温氏のブログ「岩田温の備忘録」2018年10月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は岩田温の備忘録をご覧ください。

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