中国「キャッシュレス社会」の現実と「OMO」の世界

高橋 亮平

GDP世界2位、日本の2倍以上の経済力を持つ中国の現状とは

先日、世界一キャッシュレスが進んでいるとも言われるようになった中国のインターネットサービスやフィンテックサービスを現地で活用する機会に恵まれました。今回は、先日、メルカリの政策企画ブログである「merpoli」に掲載された記事をリライトしながら、皆さんに体験してきた中国のキャッシュレスの現状と「OMO」の取り組みについて紹介していければと思います。

日本でも先日、来年の消費税増税の経済的影響への対策として、「キャッシュレス」決済を通じた2%還元施策などが報じられました。こうしたことによって、ようやく少しずつ「キャッシュレス決済」への関心が高まり始めてきたように思います。今回は、政治家、経済界、行政関係者においてもまだまだ誤解の多い中国の現実について、特にフィンテック部分にクローズアップしながら、報告したいと思います。

最近、IT/フィンテック業界では、「中国ではネットとリアルの融合が世界一進んでいる!」とよく語られています。一方で、業界の外に出ると、こうした声を日本社会の中で聞くことはあまりありません。いまだに中国を日本より、「安かろう悪かろう」のイメージで捉え、誤解している人たちが多いように思います。

現在、各国のGDP比較では1位の米国($18,569,100)に次いで世界第2位なのが中国($11,218,281)であり、3位の日本($4,938,644)と比較しても既に2倍以上の差がついてしまっている経済大国になっています。その発展は数字上の経済力だけではなく、近年凄まじい発展を遂げているのがインターネットの世界であり、とくにフィンテック分野においては、もはや米国以上に発展した世界一の国になっているとも言えます。

財布も持たずにスマホだけ持って出かければ全てが完結する中国社会

中国に行ってまず驚いたのが、今回の視察の主題でもある「キャッシュレス」の浸透ぶりです。スマートフォン端末(以下、「スマホ」)を片手に買い物をすると、そのスマホの画面で日本でもお馴染みのQRコードで読み取ると、それで決済が終わります。

日本でも最近、交通ICカードなどが使われる様になってきていますが、こうした「FeliCa」と言われる非接触型のICは発展しているものの、その多くが事前にチャージするプリペイド型であり、活用範囲などは広がっているものの、「スマホと交通ICカードだけ持って出かけよう」という感覚にはまだ程遠いのが現実です。

今回、視察中に実際に上海で生活する中国人の方々へヒアリングを行いましたが、財布を持って出かけることはなく、何かがあった時の保険の意味でスマホケースにクレジットカード1枚とお札を1枚入れているが、「使ったことは一度もない」と言っていました。

実際、今回一連の上海視察の中で、念のために元に変えて持っていった現金を使う機会も、クレジットカードを使う機会もほとんど無く、そのほとんどの支払や決済を事前にダウンロードしたスマホのアプリ上で行なって来ました。飛行場に到着してからSIMカードの購入、ホテルまでのタクシー代、食事の支払い、お土産の購入、さらには配車サービスと支払いまで、そのすべてをスマホ1台で完結しました。とくに食事の支払い後に一緒に行動した同僚たちとの割り勘の精算などまで簡単にできるスマホ決済は非常に便利でした。

ガラケーを持っている人はおらず、都市ではすべての人がスマホを持って決済する

今回訪れたのは上海でしたが、中国の都市ではスマホ端末が徹底的に浸透しています。iPhoneの普及もそうですが、最近日本でもよく見るようになった中国産の高級端末の一つHUAWEI(ファーウェイ)や、もっと安価な端末であるXiaomi(シャオミ)といった中国の端末を持っている人も多く見かけました。中国においてここまでスマホ端末が浸透した背景には、パソコンが普及する前に、このXiaomiのような1万円程度の安価なAndroid端末登場したことが大きいという話でした。

中国では、こうして2周遅れのような状況から世界一とも言えるようなスマートフォンの普及が進むと、政府が国レベルでインターネットサービスの普及促進する施策を実施、「Tencent(テンセント)」や「Alibaba(アリババ)」などの大企業もスマホ事業に力を入れたことで、一気に世界一とも言えるフィンテック最先端の国へと変わりました。

コミュニケーションから配車、決済、割り勘まで、すべてがスマホで

このスマホによるフィンテックのインフラを担っているのが、日本で言う「LINE」の様なチャットサービスである「WeChat(ウィチャット)」の運営社である「Tencent(テンセント)」と、「Amazon」や「Yahoo!」、「楽天」の様なECサービスを運営している「Alibaba(アリババ)」です。

「Tencent」は「WeChat」と連携した「WeChatPay(ウィチャットペイ)」を、「Alibaba」は「Alipay(アリペイ)」といった決済サービスをそれぞれ持っており、現在の中国では、こうしたスマホ決済が広く普及しており、これらの決済を通じて獲得した顧客基盤の上にさらに新たな様々なサービスが生まれてきています。

今回の視察に伴ってスマホにダウンロードしたアプリは10個。
先述の「WeChat」「WeChatPay」と「Alipay」、中国版Uberでもある配車アプリ「DiDi(ディディ)」、Googleマップの様な「Baidu(バイドゥ)」、シェアリングサイクルアプリである「Mobike」と「ofo」、アリババが運営するスーパーの「Hema」、フードデリバリーアプリ「Meituan Waimai」、無人コンビニの「猩便利」でした。

中でも中国滞在中に圧倒的に使ったのが「WeChat」です。日本にいる際の「LINE」とほぼ同様にコミュニケーションツールとしてのチャットアプリでの活用は勿論、財布代わりに精算する際には常にこの「WeChatPay」のアプリを活用しました。

中国におけるスマホ決済は、基本的にこの「WeChatPay」と「Alipay」のどちらかで行われていました。

中国に存在する「BAT」、中でもTencentとAlibabaの圧倒的な存在感

中国には現在120社以上のユニコーン企業があると言われていますが、この半数以上が「BAT」と呼ばれるBaidu、Alibaba、Tencentの3社と何かしらの資本関係があると言われています。
ここまで紹介してきたように、今の中国では、とくにTencentとAlibabaが圧倒的な存在感を持っており、様々なサービスがこの2社によって提供されています。

Tencent(テンセント):
「WeChat(ウィチャット)」(チャット)、「WeChatPay(ウィチャットペイ)」(決済)、「Mobike」(自転車)、「美団点評」(デリバリー)

Alibaba(アリババ):
「Alipay(アリペイ)」(決済)、「ofo」(自転車)、「餓了麼」(デリバリー)、「Hema」(スーパー)

「DiDi(ディディ)」(配車)は合併したためAlibabaとTencentが両方出資している形に。
「Baidu(バイドゥ)」(Googleマップ+Google)

ECと連携したスーパー「Hema」で体感した「OMO」の世界

今回の上海視察で、世界一のスマホ決済大国と言われる中国においても、新たな取り組みとして最も大きな可能性を感じたのが、「Alibaba」によるECと連携したスーパー「HemaXiansheng」でした。

このスーパーでは、基本的にスマホを持ちながら買い物する事になります。商品についているタグのQRコードを読み取ると、商品の値段や産地はもちろん、商品知識などがスマホで分かるほか、セルフレジで商品をスキャンし、専用アプリでQRを表示するとそれで決済できます。

こうした表面の部分だけ見ると、日本でもたまに見るようになったセルフレジのスーパーでスマホ決済が使えるようになっただけのようにも感じますが、「HemaXiansheng」の存在価値は根本的に異なります。
中国のインターネット社会の進展の特徴について専門家が「オンラインとオフラインのサービス連携の世界ができていること」と話をすることがあります。

今回視察したスーパー「HemaXiansheng」もこうした理念である「OMO(Online merge Offline)」の発想で作られているものだと言えます。

このスーパー「HemaXiansheng」では、アプリでセールの情報も見ることができるほか、アプリからその日の商品を見て、3km圏内に住んでいる住民がインターネット上で注文をすると、30分以内で商品を届ける配送サービスも行なっています。

このスーパーを簡単に言えば、スーパーがハイテク化したのではなく、ECの倉庫をスーパーのように開放することでオフラインの人たちも取り込みながら発展するECというようなものになっていると言えるのです。

まずスーパーに来て何か買ってもらい、良い体験をしたと思ってもらう。その体験からオンラインでも使ってみようとつなげるというもので、平日はアプリで注文し、週末だけスーパーに行くといったオンラインとオフラインが組み合わさりながらどんどんと相乗効果をあげていく形になっているのです。

日本ではこれまで「オンラインからオフラインへ送客」という意味での「O2O(Online to Offline)」と言われて来ましたが、中国では、さらにその先の「オンラインとオフラインの融合」という意味で「OMO(Online merge Offline)」ということが言われる様になってきています。このスーパー「HemaXiansheng」の取り組みは、まさにこの「OMO」の代表的な取り組みと言えます。

2017年にAmazonがスーパーのホールフーズを買収して話題になりましたが、Alibabaがこのスーパー「HemaXiansheng」に出資したのはその前の2016年でした。こうした動きを見ても「オフラインを見据えてインターネット業界をどう発展させて行くのか」という面では、米国よりさらに中国の方が先を進んでいる様に思えるのではないでしょうか。

Tencentが仕掛ける「WeChat」による「ミニプログラム」

一方でもう一つの雄であるTencent(テンセント)の取り組みについても紹介しておきます。

Tencent(テンセント)の提供する「WeChat(ウィチャット)」は、中国版LINEなどとも言われるチャットアプリなのですが、中国人にとっては、日本で言うFacebookのような仕事関連の人脈共有から、Twitterのような情報発信や収集、インスタグラムのような写真共有まであらゆるSNS機能として使われている、最も日常的に使うアプリです。Tencent(テンセント)は、この「WeChat(ウィチャット)」の中で「ミニプログラム」という新たな取り組みを始めています。

「WeChat(ウィチャット)」でQRコードをスキャンすると、新たなアプリをインストールすることなくアプリ内で新たなミニプログラムが起動する仕組みになっており、あらゆるサービスにおいて、オフラインとオンラインを結びつける機能として使われています。

例えば、今回体験したもので言えば、決済体験で『敦煌小亭』というお店に行って来ました。このお店では、席についたら料理の提供以外は、注文から決済まですべてスマホで完結する仕組みになっていました。席に着いたらまず、WeChatでテーブルに貼られたQRコードをスキャンします。すると、スマホ上にメニューが表示されるので、食べたいものを選んでスマホ上で注文します。

その際、WeChat上で決済もするので精算もいりません。するとここで初めて定員が出てきて商品が運ばれて来る仕組みになっています。さらに言えば、こうしたそれぞれの注文した料理をシェアしたので、シェアした料理を割り勘にするのもWeChatで一瞬でできました。

食後に近くに『CoCoタピオカ』があったので、このWeChatのミニアプリで今度はCoCoタピオカを開いてプレオーダーをしたのですが、指定された時間通りにお店に行き、注文番号を伝えると、まったく待つことなく受け取ることができました。

今回行ったこうした自席のQRコードからの注文は、日本でもお馴染みの「ケンタッキー」など多くの店舗で用いられており、中国の「マクドナルド」ではプレオーダーが導入され文字通りの待つことのないファーストフードになっていると話していました。

日本でもようやくキャッシュレスが本格的に始まる

今回の視察報告、いかがだったでしょうか。冒頭でも紹介しましたが、消費税10%増税と共に、キャッシュレスの利用により2%還元すると発表され、日本においてもようやく少しずつ「キャッシュレス」への関心が出始めてきました。世界最先端のキャッシュレス社会の現実を共有すると共に、今後の日本社会のめざすべき方向性を共有する一助になっていれば幸いです。

また今回のコラムは、メルカリの政策企画ブログである「merpoli」で書いたものをリライトした記事でした。

個人として、こうした問題についてもブログなどで発信していくと共に、「政策企画」という第3のルールメイキングについて、こうした媒体でも発信していきたいと思っています。合わせてご支援ください。