なぜ期待収益マイナス53%の宝くじが売れるのか

宝くじの発売は、富くじに関する「刑法」第百八十七条の規定により、立派な犯罪なのである。その犯罪が堂々と行われている理由は、別に「当せん金付証票法」という法律があるからである。これは、「刑法」第三十五条によって、「法令又は正当な業務による行為は、罰しない」としていることによる。

宝くじを非犯罪化している理由は、地方自治体の資金調達の手段という公益性である。「当せん金付証票法」は、第四条により、宝くじの発売を地方自治体に限り、かつ、第一条の法律の目的により、「地方財政資金の調達に資することを目的とする」ものとしているのである。

富くじは長い歴史をもっていて、庶民に「夢」を届けるものとして国民に広く受け入れられていて、文化的に確立したものであるから、「当せん金付証票法」は、宝くじを地方自治体の資金調達手段として利用したのである。

では、地方自治体は、どれほどの資金を調達しているのか。「宝くじ公式サイト」にある「収益金の使い道と社会貢献広報」をみると、2016年度の販売事績額は8452億円であるが、その39.6%の3348億円が「収益金として発売元である全国都道府県及び20指定都市へ納められ、公共事業等に使われます」とのことである。

これに対して、賞金として分配されたのは、46.8%の3959億円、その余は経費等である。つまり、宝くじを1万円購入するということは、1300円が経費で消え、4000円が地方自治体に寄付され、4700円が期待収益ゼロの純然たる賭けに投じられるということである。

期待収益ゼロの賭けとは、骰子の丁半賭博と同じで、勝率50%ということだが、宝くじの場合は、賞金額に本数の加重をかけた期待収益がゼロということである。賭けの本質的部分において期待収益がゼロということは、賭けの主催者の取り分だけ、期待収益はマイナスになるということであって、くじの場合、期待収益はマイナス53%になるのである。

競馬も主催者の取り分だけマイナスになるのだが、競馬には、中央競馬会がいうように、「レースの迫力、馬の美しさ、推理の楽しみが一体となった競馬の魅力」がある。さて、では、宝くじは、どうか。「宝くじ公式サイト」によると、2016年4月の実施した宝くじ購入動機の調査では、動機の上位は、「賞金目当て」(61.9%)、「宝くじには大きな夢があるから」(42.5%)、「遊びのつもりで」(32.9%)、「当たっても当たらなくても楽しめるから」(32.9%)となっている。

宝くじが売れる理由は、経済合理性を超越した「夢」への期待と、競馬のような娯楽性なのである。

 

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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