中間選挙2018:女性、同性愛者…歴史の1ページを刻んだ勝者たち

安田 佐和子

2018年の中間選挙は、米国に新たな歴史を刻みました。

就任1期目の大統領が迎える中間選挙の連敗記録を伸ばしただけでは、ありません。トランプ大統領の下、史上初の快挙を成し遂げた勝者を数多く誕生させました。米国に起こりつつある変化を捉えた面々は、以下の通りです。

●女性として最年少記録
アレクサンドリア・オカシオコルテス氏(下院議員、NY州、民主党、女性)
女性の連邦議会議員として、最年少記録を更新しました。28歳の元ウェイトレスでサンダース・チルドレンの彼女は、民主党の急進左派とされるプログレッシブの一員として、下院をリードするに違いありません。

●黒人女性
アヤナ・プレスリー氏(下院議員、マサチューセッツ州、民主党、女性)
ジャハナ・ヘイズ氏(下院議員、コネチカット州、民主党、女性)
2人は、両州で初の黒人女性下院議員として当選しました。プレスリー氏は黒人女性として初のボストン市長に就任した人物でもあります。全米最優秀教師に選出された経験を持つヘイズ氏とプレスリー氏は、オカシオコルテス氏とともにプログレッシブの旗手となり得ます。

●ラテン系女性
ベロニカ・エスコバー氏(下院議員、テキサス州、民主党、女性)
シルビア・ガルシア氏(下院議員、テキサス州、民主党、女性)
→2人は、ラテン系の人口が4割近くを占めるテキサス州で初の女性ラテン系下院議員として当選しました。

●イスラム教徒女性
ラシーダ・トライブ氏(下院議員、ミシガン州、民主党、女性)
イルハン・オマー氏(下院議員、ミネソタ州、民主党、女性)
→2人は、女性のイスラム教徒として初めて下院議員に当選しました。共にプログレッシブに属し、トライブ氏はサンダース上院議員が中心になって掲げる米国版国民皆保険制度“メディケア・フォー・オール”を支持。オマー氏は格差縮小を目指し最低賃金の15ドル引き上げや低所得者層向けの高等教育の補助金制度導入を主張していました。

オマー氏、36歳のミレニアル世代で、ソマリア系移民のイスラム教徒と、米国の多様性を体現します。

29502697824_f6b0a7083f_z
(出所:Lorie Shaull/Flickr)

●ネイティブ・アメリカン(先住民)女性
シャリース・デイビッズ氏(下院議員、カンザス州、民主党、女性)
デブ・ハーランド氏(下院議員、ニューメキシコ州、民主党、下院議員、女性)
両氏は、ネイティブ・アメリカ人女性として初の下院議員に当選しました。共にプログレッシブに属します。なおデイビッズ氏は元総合格闘技のファイターであり、またカンザス州選出の議員として初の同性愛者でもあります。

●同性愛者
ジャレッド・ポリス氏(知事、コロラド州、民主党、男性)
コロラド州知事として、初の同性愛者として当選しました。マリファナの合法化、死刑廃止、銃規制強化を掲げます。

シャリース・デイビッズ(下院議員、カンザス州、民主党、女性)
→上記の通り、カンザス州で初の同性愛者の議員となります。

●女性
マーシャ・ブラックバーン氏(上院議員、テネシー州、共和党、女性)
保守派色の強いテネシー州で、初の女性上院議員として当選しました。歌姫テイラー・スウィフトが、10月にインスタグラムで民主党のフィル・ブレデセン候補へ支持表明し注目されましたが、ブラックバーン候補が10%以上の差をつけ勝利しています。2004年と同じく、セレブリティの支持が必ずしも有効ではないという事実を突きつけたかたちです。ちなみに、テイラーが支持表明した現職のジム・クーパー下院議員は、改選を迎え予想通り当選しました。

ジャネット・ミルズ氏(知事、メイン州、民主党、女性)
初のメイン州女性知事として、当選しました。差別的な発言が問題視されたルパージュ知事(男性、共和党)の任期切れを受けた選挙では、同知事とは正反対の候補を選出したかたちです。

アニー・フィンケンナウアー氏(下院議員、アイオワ州、民主党、女性)
初のアイオワ州下院議員として、当選しました。弱冠29歳にして、現職のロッド・ブラム下院議員に勝利しています。

――こうしてみると、女性の面々が目立ちます。トランプ政権下で旋風を巻き起こした#MeTooの影響も、彼女たちの追い風となったことでしょう。問題は、こうした民主党のプログレッシブ候補を軸に引き寄せた多様性の流れが、持続するのか否か。2010年に数多くの議員を選出したティーパーティーの動きは、禍根を残す場面があったとはいえ、トランプ政権が誕生する素地を築いたと言えます。民主党も、同じ試練に直面すること必至。まずは、下院議長選出にあたって、プログレッシブとエスタブリッシュメントがまとまるかが、焦点となります。

今回当選したプログレッシブ候補者の一部は、選挙中にペロシ下院院内総務の議長選出に不支持を声高に表明していただけに、妥協点を見出すには高い障害が立ちはだかります。またトランプ大統領の弾劾をめぐり、プログレッシブとエスタブリッシュメントが衝突しないとも限りません。

また、投資家目線では民主党のインフラ計画やウォーレン議員の“説明責任を果たす資本主義法案”にも留意しておきたい。共和党が多数派を握る上院で否決されること間違いなしとはいえ、特に民主党のインフラ計画には法人税減税が盛り込まれて」いるだけに、協議が膠着する材料となって金融市場にネガティブなインパクトを与えかねず。米株相場は民主党の下院過半数獲得で楽観ムードに揺れていますが、年明けの米株安の引き金となってもおかしくないでしょう。

(カバー写真:Jens Schott Knudsen/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年11月7日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。