防衛産業に明日はない

清谷 信一

衰えるニッポンの工場 品質不正を招く (日経新聞)

日本企業の品質検査不正が止まらない。鉄鋼、自動車に続き、油圧機器メーカーのKYBが免震装置で検査不正を公表した。なぜ品質の根幹である検査データを偽るのか。SUBARU(スバル)や日産自動車などの調査報告書を読み解くと、一つの共通点が浮かび上がる。設備の老朽化と人手不足で「衰える工場」という現実だ。

人への投資もおろそかになっていた。日産は経営危機に陥った99年以降、カルロス・ゴーン現会長の指揮下でリストラを断行し、「国内技術員が人手不足に陥った」(報告書)。

日本の製造業は国内工場を「マザー工場」と位置づけ、現場の“カイゼン”で生産効率を徹底的に高めて海外工場にノウハウを移転してきた。だが、労働コストが安い新興国に最新鋭工場ができると国内の競争力が低下。ベンチマークの海外工場と比べられ、国内生産が消える危機感が現場に芽生え始めた。

稼いでいる企業やその部門でもこの体たらくです。
売り逃しのリスクはないにしても、利幅が薄く、成長が見込めない防衛産業はどうでしょうか。

大手でも防衛部門の売上は1~3パーセント程度、下請け企業は売上の過半数というところもあります。
大手は売上比率が低く、成長も見込めないので設備投資やR&Dもあまりしません。

下請けは比率が大きければ利益が低いわけで、これまた設備投資やR&D、人的な投資ができません。
しかも防衛予算で国内メーカーの売上率は毎年おなじものの、装備の単価は上がっていますから、仕事は経ていることになります。

国内マーケットは縮小し、輸出する気もない。
当然ながら大手も、下請けも現状維持をするしかない。

例えばの話、旋盤で削りだしで金属加工の製品を作っている会社が#Dプリンタを導入したり、炭素繊維など他の部材を使った製品を開発したり、手作業でやっているものをロボットを導入してそれにやらせるということができないわけです。対して途上国は最新の設備を導入しています。
彼らは国の保護も手厚いですが、海外市場で打って出て売上を増やそうとしています。その段階で、失敗があっても顧客からのクレームを開発や生産の現場にフィードバックします。

こうして中国やUAEなどの軍事産業は長足進歩を遂げています。
それに対して我が国の防衛産業は停滞しています。

Wikipedia:編集部

そして当局が既存の防衛産業を守るために、UAVなどの新しい分野の投資をしてこなかった。
してもわずかで、既存の防衛産業に仕事を振るためのものでした。

ですから自衛隊の無人機の導入は途上国からも遅れ、大震災で役に立たないクズのようなUAVを少数いれただけです。

つまり、新陳代謝を怠ってきた。ぼくは以前から防衛産業基盤の維持は「血と涙」が必要だと申し上げてきました。
採算の取れない事業は撤退、他社と統合する。ポジションは減りますからそこで泣く人がでる。また防衛依存率の高い下請けは廃業や倒産が待っている。これはすなわち血を流すということです。

昨日の防衛装備庁のシンポジウムでも、新たな中小企業の発掘を行っていることが報告されましたが、まだ途についたばかりです。しかも真剣味が足りないと思います。官の側にもビジネス経験者を採用して、防衛産業の新陳代謝を促進すべきで。また大手に関しては積極性がない企業には発注しないという姿勢も必要です。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2018年11月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。