「我々」の範囲はどこまで? ドイツに見る日本の未来【移民政策を考える②】

2018年11月16日 06:00

砲弾が赤く光を放ち炸裂する中に、星条旗は夜通し翻っていた…(アメリカ国歌の一部)

20××年8月15日、サッカー日本代表とアメリカ代表の試合。アメリカ国歌斉唱の際に、西村・犬・モウリーニョ選手はなんと中指を立てる行為をした。堂々な態度で。さらに、彼は日本の国歌斉唱時にも、国歌を歌わなかった。

サッカー日本代表の新たなエース候補で、突破力があるMF。欧州で大活躍した南野拓実選手や世界的スターとして活躍した堂安律選手にも劣らない決定力と大島僚太選手のようなセンスあふれるキープ力を持つ。現在、ポルトガルリーグ、ベンフィカ・リスボンFC所属。

品行方正であり、知性的な面を見せる愛されキャラ。あだ名は「ドッグ」。きさくで心優しい「彼がなぜ」と誰もがその光景に驚愕した。サッカーファンは当惑を隠せなかっただけだが、SNSは炎上、その火は炎のように強くなり、世間の怒りを買った。サッカー協会会長は激怒。テレビで報道されると瞬く間に批判が高まり、国内外から猛烈なバッシングを受け、「政治的な行為」として批判された。

サッカーワールドカップにおける国歌斉唱、筆者撮影

さすがに、西村・犬・モウリーニョ選手とスポンサー契約をしていたスポーツメーカーも契約を、企業としては史上最大のクレームを前にして、やむなく打ち切りしたが、その判断に時間がかかったことも批判を受けた。

西村・犬・モウリーニョ選手は、もちろん日本人。メキシコ出身で反政府勢力のサパティスタ党の戦士で、資本主義社会に抵抗運動を起こした「英雄」でアメリカ軍に囚われた英雄を父親を持っている。母親は日本人。

ちなみに、父親はアメリカに帰化し、日本に移住。ネット右翼団体の青年に襲撃された経験を持つ。それがもとでうつ病とアルコール依存症になってしまい、それがきっかけで西村・犬・モウリーニョ選手の両親は離婚。しかし、ハーフの母親は、学校教育を受けた経験がなかったため、家庭は相当苦労したようだ。西村・犬・モウリーニョ選手自身、中学校時に凄惨ないじめを経験しているとメディアで語ったことは、国内外に衝撃を与えた。

母方の祖父はアメリカ人、祖母は日本人。祖母の両親、つまり曾祖父は沖縄戦で、曾祖母は広島で被爆した日本人という。多様なバックグランドを持っている選手。

首相が今回の事態をコメントする事態となってしまい、結果、日本代表から外されることになった。

しかし、彼は全く沈黙を貫く……わんわん!
(注:以上フィクションです、関係者の方ごめんなさい)

サッカー・ドイツ代表選手のエジルさんの例

上記は、もちろんフィクションであり、筆者の創作小説の一部である。とはいえ、入国管理法改正案(出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律案)が騒がれている昨今の状況を考えると、今後の未来において、起こるかもしれない未来予測でもある。

 

エジルさん広告写真、筆者撮影

移民政策を進めるドイツでは、これと似たような事態が今夏に実際に起きたのだ。ドイツ代表のエジル選手はルーツのあるトルコの大統領と面会した件で批判され、国内で大問題となった。その大統領は欧州ではその独裁的な手法で批判を受けていて、ドイツとの関係も良好ではなかったという背景もある。

移民3世、炭鉱業でかって栄えた20万人の経済的に少し停滞した都市の「ミニ・インタンブール」とよべるような、ほとんどトルコ人しか住んでいない地区で育ったエジルさん。

アイデンティティの置き場が持てないエジルさんは大変苦しみ、仲間や多くの人から批判を受ける。惨敗に終わったワールドカップが終わった後まで、沈黙を貫いたのだ。

しかし、ある時期に爆弾発言をする。

「勝てばドイツ人? 負ければ移民? 税金を払って、寄付をし、ワールドカップ制覇のため戦った。それでも僕は、社会に受け入れてもらえない。「異質な存在」だ」と。

こうツイッターに書き残し、代表引退を宣言。(詳細はこちらを参考に)。

サッカーの世界的なスターがこう発言しなければいけなかった、ドイツの移民社会の問題の根深さである。

「我々」範囲は?

「友達以外は皆風景」と宮台真司さんはかっていったが、デジタル化でそのの傾向は一気に進んでいる。神戸市の意識調査では、「立ち話をよくする近所の人はいない」割合は31.5%であるほどだ(World Data Viz Challenge 2017での筆者の発表参考)。

それが現代社会であり、ますます我々、面倒な「人間関係」を避けるようになるだろう。以下のような「孤独な」日常こそが「当たり前」になるかもしれない。

【出典】World Data Viz Challenge 2017、日本公共利益研究所発表資料・筆者作成

そして、国籍が持つ意味はより相対化するだろう。国籍や言語の違いより、匂いの違い、ファッションセンスの違いなどが「我々意識」を選別するかもしれない。すでに崩壊してしまった地域コミュニティに溶け込むというのは、あまりに非現実的であろう。そもそも、外国人労働者のほうこそ日本人との共生を求めていないかもしれない。

歌舞伎町の風景、筆者撮影

在住外国人は差別的な経験をしている…

筆者も条件付き移民賛成派ではありますが、「平成28年度法務省委託調査研究事業「外国人住民調査報告書」の調査結果をみて驚愕した。

「外国人であることを理由に侮辱されるなど差別的なことを直接言われたことがある」とした人:「よくある」「たまにある」で合計29.8%
国別の上位3か国:イギリス(37.5%)、ロシア(36.6%)、タイ(36.2%)

驚愕の数値だ。これらの数字が問いかける意味とは何か。

「おもてなし」「思いやりのある人権教育」「多文化共生」「絆」という政策はどこにいった!?と嘆きたくなる結果がそこにはある。これが実態。今後、どう考えても啓発政策では不十分である。そして、この数字はますます悪化することが予測される。

私の周りには「単純労働移民を受け入れして、低賃金でこき使って、日本人は既得権益を握り、外国人労働者の上前をピンはねしようとするんだろう」と主張する専門家もいる。確かにそうなるだろう。

今回は法務省の外局として「出入国在留管理庁」を設置し、ここが所管らしい。どう考えても厚生労働省案件ではないので、外国人労働者の労働法制上は手厚く保護されないように思える。

景気の好調がいつまで続くわけでもなかろうし、人手不足のトレンドは変化するかもしれない。様々なケースを検討して、議論を深めて欲しい。「エビデンスに基づく政策形成(EBPM)」を推進している安倍政権には、是非犯罪率・差別被害率などのKPIのシミュレーション結果を出してもらいたいものだ(政策KPI専門家の筆者に相談してくれても構わない)。

次回は、ドイツの移民政策の「失敗の研究」を行う。

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西村 健
日本公共利益研究所 代表・主席研究員

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