学生にインターンを勧める前に、教職員がやるべきこと

2018年11月18日 06:00

インターンシップ・ブーム

インターンシップがブームである。文部科学省の調査によれば、インターンシップを実施している大学は730 校(93.4 %)、参加学生は631,939 人(22.5%)であり、日本全国ほぼ全ての大学が実施し、5人に1人が参加する一大イベントとなっている(『平成 27 年度 大学等におけるインターンシップ実施状況について』)。インターンシップとはそこまで有用なのだろうか。

インターンシップは何を期待されているか

そもそもインターンシップとは何か。一般的には「職業体験」や「職場体験」と訳されるが、その中身は期間も内容も様々である。先の調査で文部科学省は「学生が在学中に自らの専攻、将来のキャリアに関連した就業体験を行うこと」と定義している。

社会はインターンシップという体験に何を期待しているのか。優秀な学生へ「ナルハヤ」で唾付けしたい企業や意中の企業から「ナルハヤ」で内定を獲得したい学生・大学といった「ナルハヤ組」もいれば、純粋に学生を育てたい企業・大学や純粋に学びたい学生といった「ピュア組」もいる。

その他、学生の保護者や地域や政府など、様々な登場人物が関係者となるインターンシップだが、その期待を大別すれば「採用」と「教育」に集約されるだろう。前者はインターンシップを通じて学生が企業とマッチングし入社に直結する採用効果を、後者は学生が生産現場に立ち会うことで良き働き手としての仕事観(文部科学省の言う職業観・勤労観)を身につけてもらうといった教育効果を指す(『キャリア教育の推進に向けて』文部科学省)。

「ある仕事」で超長期インターンシップ済

しかし、採用効果については、「インターンシップ参加企業へは入社しない予定」と答えた学生が過半数(54%)ということから、必ずしも直接的な効果は認められない(『就職白書2018』就職みらい研究所)。

一方の教育効果については、効果に該当する具体的項目やその測定方法を吟味する必要はあるだろうが、目を逸らしてはならない事実がある。学生は長きにわたって「ある仕事」のインターンシップ実習生として生産現場に居合わせているという点だ。それも、約10年以上にも及ぶ超長期のインターンシップである。にもかかわらず、仮に望ましい仕事観を身につけられていないのだとすれば、たとえ学外に1週間や数ヶ月間インターンシップに出掛けたとしても、教育効果が突然生じる望みは薄いだろう。

「ある仕事」とは、学校における教育という仕事である。学校は企業とは異なるという声もあるだろうが、授業という主力商品を中心に、相手にどんな施策をいつどのように届けるか企画・実行する生産拠点という点で、学校と企業は相似形である。

学校において、子ども達(児童・生徒・学生)は、工場見学者のようにただ生産工程を眺めるだけではなく、ただ出来上がった商品やサービスを購入するだけの消費者でもない。たとえば授業中の頷き行為や質問行為は先生から更に良質な教育サービスを引き出すことに繋がり、経済学の言う外部効果として他の子ども達への教育サービスとなる(私語などは負の外部効果)。つまり、子ども達は、一見すると教職員のみが行っている教育の生産行為に生産者としても参画しているのである。その意味で、彼らは歴としたインターンシップ実習生と言える。

無意識の仕事観醸成

別の見方をすれば、学校の教職員はインターンシップを常に実施しているとも言える。特に、教育効果については、先生は授業で教科を教えながら、事務員は窓口対応をしながら、同時に「仕事とは何か」についても教えていることになる。

仮に仕事を「問題解決」だと捉えれば、各教職員が今どんな問いに対峙し、どのように解こうとしているのかについて、日々の言動や行動から子ども達に伝わっている。やらされ仕事の教職員もいれば、ケネディ大統領の「あなたの仕事は?」との質問に「人類を月に送るお手伝いです」と答えたとされるNASAの清掃員のような見所ある教職員もいるかも知れない。何れにしても、教職員は無意識で子ども達の仕事観に影響を与えている。

子どもの仕事観醸成より教職員の仕事観修正を

そして、恐ろしいことに、子ども達が身につける仕事観は、実は教職員の仕事観である。なぜなら、子ども達は幼い頃から一日の大半を教職員の仕事とともに過ごしているからである。大学の就職課で学生の進路相談に乗っていると、子どもたちの仕事観に教職員が与えてきた影響は計り知れないことを痛感する。

たとえばインターンシップでは、大学の教職員は口々に「企業様に失礼のないように」と心配し、子ども達のお行儀を整えるべく挨拶や身だしなみといったマナー教育を徹底する。子ども達の成長ファーストではなく、自分達が叱られないことファーストなのである。一方で「挑戦せよ」と指導し、他方で「叱られたくない」を優先する逃げ腰の仕事観を、子ども達は見逃してはくれまい。

シンシナティー大学(米国)のヘルマン・シュナイダー博士が1906年にインターンシップを開発した背景には、産業革命を受けて「実社会で役立つ学び」の必要性を強く認識していたことがある。そうした強烈な動機なしに、付和雷同でブームに乗るだけの迎合者だとすれば、教職員の仕事観こそ修正を加えねばならないだろう。

「体験こそ全て」という淡い期待

断っておきたいが、インターンシップ自体を否定するものでは全くない。心ある企業や気概ある学生は実際に少なくない。ただし、インターンシップは関係者の業務量を相当程度増加させる側面を持っていることを鑑みれば、安易に「外に行けば何とかなる」「やりたいことがないならまずは外に行きなさい」として子ども達を外に送り出すノープランは無責任であると言わざるを得ない。

無料コンテンツにミーハー根性で飛びつき闇雲且つ安易に勧めるその仕事観が、そして「私たちでは子ども達への仕事観の醸成などできかねますのでどなたか宜しく」とすぐに匙を投げるその仕事観が、子ども達に伝染してしまっているのである。

そうした「やらされ仕事」に基づく「やらされインターンシップ」だから、「仕事は何で評価されるか」という評価基準に気づくこともなく、その後の就職活動において半数近い大学生・大学院生(44.4%)が「アルバイトの経験」という外形的な項目を「評価されるもの」と期待して企業側にアピールしている(『就職白書2018』就職みらい研究所)。
※「インターンシップの経験」をアピールする大学生・院生は僅か6.3%

ある有名私立大学の就職課のトップは、「インターンシップの前に学生の人間力が落ちている」と公言しておられた。学外インターンシップ漬けにしても万人に効果があるわけではないのである。

「早ければ早いほど良い」という淡い期待

ここまで、大学生のインターンシップの話題を中心に据えてきたが、今や中学校でも95%以上(平成22年時点で97.1%)が実施している(『職場体験・インターンシップ等実施状況調査』国立教育政策研究所生徒指導研究センター)。

義務教育は元々児童を労働から守るために保護者に課された義務であった。しかし、それが今では児童を労働から引き離すどころか、どう近づけるかに多大な社会的コストを私たちは支払っている。大学生でこれだけ活況なのだから「早ければ早いほど良い」という論法である。

しかし、そうしてインターンシップを中学生時代に体験したにもかかわらず、早期離職の753現象は一向に改善の兆しを見せず、新規高卒就職者の離職理由は「仕事が向いていない」が71.4%である(『平成21年3月 新規高校卒業予定者の採用に関するアンケート調査』東京経営者協会)。

子ども達に何が必要かを自ら考え、それは「いまここ」でできないものかと思索せず、すぐに「ここじゃないどこか」を探し流行りに手を出す。その反射的仕事観が子ども達にも伝染し、困難があるとすぐに「ここじゃないどこか」を探す早期離職の一因にもなっていると考えるのは、少々心配が過ぎるだろうか。

インターンシップにオーナーシップを

繰り返すが、インターンシップに行くことは悪いことではない。しかし、それはどんな痛みも治す魔法のシップ(湿布)でもなければ、乗るだけで素敵な場所に連れて行ってくれる豪華客船(ラグジュアリー・クルーズ・シップ)でもない。

子ども達にインターンシップを勧めるならば、まず大人がオーナーシップを持たなければならない。自分たちの持ち場で手を尽くしても尚、どうしても子ども達に装着できない領域こそ、外に出掛ける価値あるインターンシップの出番となるだろう。

高部 大問

高部 大問(たかべ だいもん) 多摩大学 事務職員
大学職員として、学生との共同企画を通じたキャリア支援を展開。本業の傍ら、学校講演、患者の会、新聞寄稿、起業家支援などの活動を行う。

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