歴史に残る演説に⁉︎マクロン大統領「仏独よ、永遠に」

2018年11月20日 11:30

ドイツの首都ベルリンは過去、米国大統領が歴史に残る名演説をする場所となってきた。冷戦時代の1963年6月、西ベルリンで「私は一人のベルリン市民だ」(Ich bin ein Berliner)と呼びかけたジョン・F・ケネディ米大統領の演説はベルリン市民を鼓舞し、長く記憶された。また、ロナルド・レーガン大統領は1987年6月、ベルリンのブランデンブルク門で「この壁を壊しなさい」(Tear down this wall!)と語ったベルリン演説もその一つだ。

その名演説の宝庫にフランスのエマニュエル・マクロン大統領の18日の演説が加わるかもしれない。内容は「仏独よ、永遠に」というものだった。

独連邦議会で演説するマクロン仏大統領(2018年11月18日、独連邦議会公式サイトから 撮影:Achim Melde)

マクロン大統領の演説はブランデンブルク門前ではなく、ベルリンの独連邦議会で行われた。40歳のマクロン大統領の演説は欧州連合(EU)の目指すべき方向を示した内容だった。もちろん、マクロン氏が語った内容が実行可能かどうかはまた別の問題だが…。フランス大統領が独連邦議会内でEUの未来に語った印象に残る演説だったことは間違いない。

独連邦議会での演説は本来、第一次世界大戦の戦没者を追悼する目的だったが、マクロン大統領は100年前の追悼より、EUの未来に思いを込めて語った。ちなみに、フランス大統領が独連邦議会内で演説をしたのは18年ぶりだ。

マクロン大統領の「欧州は現在危機にある」という指摘は決して新しくはない。①EU創設国だった英国が来年、EUから離脱、②欧州議会は9月、EU条約7条に従い、欧州の基本的価値観への脅威と指摘し、ハンガリーに対し制裁手続き開始、③中東・北アフリカから難民・移民が殺到し、EU内で反難民・移民、外国人排斥、そしてイスラム・フォビアが拡大。④フランスでは国民連合(旧名・国民戦線)、ドイツでは「ドイツのための選択肢」(AfD)、オーストリアでは「自由党」といった極右派政党が台頭し、ブリュッセル主導の政策を拒否、⑤ギリシャの金融危機が山場を越えたかと思った矢先、ユーロ圏で3番目の経済国、イタリアで経済危機の兆候が見られてきた、といった具合だ。

マクロン大統領はEUの主権強化、同時にドイツの積極的な貢献を求めた。マクロン大統領は「全力をもって拡大する民族主義に対抗するため欧州は結束すべきだ」と呼び掛けた。そして「ドイツとフランス両国は世界がカオスに陥らないように責任と義務を担っている」と強調する一方、「世界は影響力を有する大国のおもちゃになってはならない」と述べ、名指しこそしなかったが、トランプ米大統領の「米国ファースト」を批判した。同時に、「米国だけではなく、多くの大国がわれわれの試みをストップさせようとしている」と警告を発した。

マクロン大統領はEUへの権限譲渡と同時に加盟国の主権制限を主張し、①欧州軍の創設、②ユーロの国際通貨確立、EU予算の作成、③欧州難民機関の創設などを提案した。

マクロン大統領は「欧州の新しいページを開くことに不安を感じる国も出てくるだろう。なぜならば、EU加盟国は外交政策、移民政策、開発政策などの問題の決定権を他の加盟国と分かち合わなければならないからだ。環境保全、新しい民族主義、デジタル化など他の挑戦的課題が山積している。ドイツとフランス両国は異なった見解を克服しなければならない」と強調した。独連邦議会で多くの拍手が起きた瞬間だ。

演説後、メルケル独首相はマクロン大統領との共同記者会見で、「われわれはマクロン氏が言ったように分岐点に遭遇している。大統領の考えを具体化するために詳細な協議が必要となる」と指摘、「来年5月に実施される欧州議会選を勝利するために協議のテンポを速めなければならない」と述べた。なお、メルケル首相はマクロン大統領の「欧州軍」の創設には既に同調を表明している。

EUの改革刷新に対するマクロン氏とメルケル首相の意欲は理解できるが、両者とも国内に多くの問題を抱えている。「キリスト教民主同盟」(CDU)の党首ポストを12月に辞任するメルケル首相の政治的影響力が弱まることは目に見えている。そのため、メルケル首相は来月のEU首脳会談でEUの将来への大筋を決めたい意向だが、野党第一党、極右政党AfDの反対だけではなく、CDU内でもEUの未来について意見が分かれている。

例えば、最重要課題の一つとして「欧州安定メカニズム」(ESM)を恒常的な欧州通貨基金に再編することだが、EU予算の規模、デジタル税の導入問題でも加盟国内で意見が分かれているのが現実だ。

一方、マクロン大統領を取り巻く政治環境も良くはない、大統領の支持率が低下し、20%をかろうじて上回っている程度だ。大統領の政治スタイルばかりではなく、大統領のボディーガードを務めていた男が5月のメーデーの際、労組デモの参加者に暴行を加えた「警護官暴行事件」が国民の不満を呼び、大統領の縁故主義という批判が高まったばかりだ。最近では、燃料価格の上昇に対する抗議デモ「黄色いベスト(Yellow Vest)」運動が全国各地で行われ、「マクロン、辞めろ」といった声すら聞かれてきた。

メルケル首相もマクロン大統領も国内の政治基盤が急速に弱体化している。それだけに、EUの大改革はこれまで以上に困難となることが予想される。

いずれにしても、国内問題に没頭し、EUレベル、国際政治レベルで問題提起する政治家が少ない時、マクロン大統領のEU改革への熱意は貴重だ。なぜならば、誰かがイニシアティブを取り、叫ばなければ、EUという「船」は沈んでしまうかもしれないからだ。その意味で、「仏独よ、永遠に」と叫んだマクロン大統領のベルリン演説は歴史的だった。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年11月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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