ノーベル賞受賞者も警鐘 ~危機に直面する日本の基礎科学(後編)

ノーベル賞受賞者たちも警鐘

危機に瀕している日本の基盤研究力を再興させることを目的に、自民党政務調査会 科学技術イノベーション戦略調査会のもと設置された「科学技術基本問題小委員会」(船田元小委員長)。

現在、その企画立案から講師のコーディネート、広報などを裏方として担当しているが、ヒアリングへの出席を要請すると世界的科学者が続々と快諾して下さるその事実が、日本の科学技術の危機がいかに深刻であるかを雄弁に物語っている。

初回の10月23日には、ノーベル生理学・医学賞受賞が決定したばかりの本庶佑 京都大学特別教授が、分刻みの日程の間隙を縫って駆けつけて下さった

今後のヒアリングには次のような科学者が出席の上、基礎研究の重要性や若手研究者の研究環境などについて持論を展開して下さることになっている。

11月28日  濱口道成  JST理事長
元名古屋大学総長

12月11日 梶田隆章 東京大学栄誉教授
東京大学宇宙線研究所長
ノーベル物理学賞受賞者

12月18日 天野浩 名古屋大学特別教授
ノーベル物理学賞受賞者

1月18日 小林久隆 米国NIH主任研究員
「光免疫療法」により
ノーベル生理学・医学賞候補者

1月下旬~2月
細野秀雄 東京工業大学フロンティア材料研究所教授
「超電導物質」の論文で引用数世界一を記録、
ノーベル物理学賞、同化学賞候補者

2月  堀場厚  (株)堀場製作所代表取締役会長
兼グループCEO

2月  井村裕夫 京都大学元総長
元 総合科学技術会議常勤議員

3月7日 大隈良典 東京工業大学栄誉教授
ノーベル生理学・医学賞受賞者

3月28日 山中伸弥 京都大学iPS研究所長
ノーベル生理学・医学賞受賞者

この他にも産業界から、野路國夫コマツ代表取締役会長や小林善光経済同友会代表幹事など基礎研究の重要性について言及、行動している財界人の出講も予定している。

こうしたアカデミアや産業界の重鎮からヒアリングする一方、小委員会では実際に困窮している若手研究者や地方大学関係者など現場の声を、政策立案・決定を行っている国会議員や官僚などに直接届けることも重要だと認識している。

ノーベル賞受賞者の相次ぐ登場によりまずは耳目を集め、小委員会の存在が関係議員や所管官庁等にオーソライズされたところで、現場の生の声をヒアリングし、彼らの主張が世界的研究者のそれと一致していることを理解してもらう。

小委員会では3月いっぱいヒアリングを行い、来年6月の政府「骨太方針」へ盛り込むべく、4月に意見を取りまとめ提言を策定する。

オールJAPANの協調体制構築こそが急務

「科学技術」とひと口に言っても、その姿は実に多様で複雑。

産官学それぞれの思惑は錯綜し、アカデミアの中でさえ分野ごとにあるべき研究環境には大きな違いがあり、さらに同じ分野の中でさえもまた違いがある。

科学技術力の復興を果たすには、この複雑な方程式を解くために、オールJAPANで手を取り合い知恵を出し合って、総力を結集して行かねばならない。

それぞれの立場にある人たちが、思い込みや誤解を捨て、各組織や分野の損得をとりあえず一旦横に置いて協調し合う。

そうしなければ、日本の科学技術は国際競争力を本当に失い、日本の未来は完全に塞がれてしまう。

この途轍もない危機感をどれだけ国民一人一人と共有し、科学技術力の低下にストップをかけられるか。

基本問題小委員会を核に、超党派での議員立法も視野に入れながら、民・学・産・官・政の協調に向けた橋頭堡を築くことを、今後も全力で模索して行く。


編集部より:この記事は、畑恵氏のブログ 2018年11月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は畑恵オフィシャルブログをご覧ください。