弱体化する米国防産業の問題の本質とは?

2018年11月22日 06:00

米国防を支える産業に弱点、ホワイトハウスが報告(WSJ)

米国の国防関連の産業は「かつてないさまざまな課題」に直面している。そうした課題が、中国やロシアなどとの戦いで米軍が必要になるであろう航空機や部品、その他の機材を迅速に製造するための産業の能力を弱めている。米ホワイトハウスは新たに発表した報告書でそうした見解を表明した。

報告書では潜在的な問題として幾つかの具体例が取り上げられている。例えば、部隊用のテントや軍服を作るための布地の供給元が限られていること、レーダーなどの装備の製造に必要なレアアースの多くについて中国が唯一の供給元となっていることなどである。

こうした問題への対処で中心的役割を果たしている通商製造政策局長のピーター・ナバロ氏は、米国の溶接技術者が減っていることも、国防産業基盤をリスクにさらしていると指摘する。

実はここに書かれていることは大した問題ではありません。シングルソースしかなくとも、必要なものであればその会社がやめようとするなら他の会社が買収するでしょうし、国有化という手もあります。更には外国のソースを確保しておくことも大抵の場合は可能です。

ロッキード社で試作中のX-35戦闘機(Daniel Mennerich/flickr=※画像はイメージです。編集部)

最も問題なのは強欲資本主義による空洞化です。
アメリカの大企業は株主からの圧力で四半期ごとに高い利益を要求されます。
このため長期に渡るR&D、社員への教育、熟練工の保持、工作機械などの設備投資などの投資は株主から歓迎されませんそんな金があれば、自社株を買って株価を釣り上げろと要求されます。

端的に申せば、今儲かれば来年倒産しても構わない、従業員を役員以外は解雇して、工場も売り飛ばし、固定費を削減して株価を釣り上げればいいという考え方です。

当然ながら10年20年先を見越した将来の飯の種の研究や従業員の技術の向上などといった継続して企業活動を行い、継続して利益を上げるための方策がなされません。

極端にいえば戦車も潜水艦のメーカーも工場を持たずに、中国に丸投げすればいい、ということです。

実際多くの企業では好業績でもレイオフして人件費を減らし、熟練工を育てることもしません。それが上記の溶接工の不足の原因でもあります。そして熟練工の賃金は高いからと、経験がなくとも安い人件費の移民などを採用します。あるいは工場をどんどん閉めるのでラストベルトみたいなことが起こっています。

また解雇されたホワイトカラーや熟練工が能力を活かせる職場がなく、低賃金の単純労働を強いられます。となれば、もともともアンダークラスの人たちは失業してホームレスになったりするわけです。

企業の内部に設計や熟練した工員が減っているので、現場力が下がっています。

新しい技術は外国企業と提携したり、ベンチャー企業などを買収することで補っています

システム統合を売り物にするボーイング、GD、ノースロップ・グラマンなどの大手ではその能力が下がっています。これが納期の遅れや開発費、調達コストの最大の原因です。

例えば装甲車両の新規開発能力も大手企業は殆どなくなっています。
ですから既存の装甲車両の近代化や外国製の導入ばかりになっています。

ところがアメリカのメディアはウォール・ストリート・ジャーナルなどの経済メディアだけでなく、大手新聞、テレビも大企業と株主と株屋が儲かることが景気が良いことだと報道します。庶民がレイオフされ、あるは低賃金を強要され、しかも政府やFRBの政策で生じたインフレで苦しんでも平気です。極論すれば大企業と株屋と株主さえ儲かれば、99%の国民が餓死しても「好景気」だというわけです。

ですから国民がメディアに不信をいだき、民主党の泡沫候補だったサンダースが本命となり、またトランプ大統領が誕生しました。

つまりアメリカの国防産業の抱える問題を根本的に解決するのは、強欲資本主義を修正しなければならないわけです。ですが、それは不可能でしょう。恐らく中長期的にはアメリカの国防産業の能力は更に低下するものと思われます。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2018年11月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。

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清谷 信一
軍事ジャーナリスト、作家

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