日産ゴーン前会長事件に「トップの任期」を考える --- 石川 了

2018年12月03日 16:00

カルロス・ゴーン氏が巨額の役員報酬を有価証券報告書に記載しなかったとして逮捕された事件の概要が明らかになってきた。

「ゴーン前会長は約20億円の年間報酬のうち、約10億円はその年に受け取って開示し、残る約10億円の受領は退任後に繰り延べると明記した合意文書を、日産側と毎年交わしていた。繰り延べ分は、金融商品取引法違反の逮捕容疑となった2010から14年度分に、15から17年度分も加えた8年では約90億円にのぼるとみられる」(朝日新聞

退任後に繰り延べるとした報酬が合法か違法か、また報酬額が社会的に妥当かどうかは他の議論に譲るが、少なくともゴーン氏は5年間で約100億円の報酬について自身で「これくらいはもらうべきだと思った。報酬を少なく記載したことについては、高すぎると従業員のモチベーションが下がると思った」(テレ朝ニュース)として、社員に本当のことを言わなかったことを認めている。

今回の報道で特に気になったのは、日産の西川広人社長が言った「権力の集中、権力の長さ」という言葉だ。ゴーン氏逮捕後、西川社長は11月19日の深夜に会見したが、会見内容(神奈川新聞)の中で西川社長は「権力」という言葉を再三使っている。

「ガバナンス(企業統治)の問題が大きい。あまりにもひとりに権限が集中していたのが誘因だ。一人に権限を集中しすぎた」

「一人に権力が集中すると、こういうことが起きる、とは言えない。公正にやっている人もいるし、それが原因とはいえない。だが、ガバナンスの面で一つの誘因にはなった。今後はどうやってより公正なガバナンスにするか、どういう形で権力が集中してきたのか、私も考えたが、長い間に徐々に形成されてきたという以上に言いようがない」

「権力の座に長く座っていたことに対するガバナンスと、実際の業務の面でも、弊害も見えてきたというのは、実感している。私が意見したこともあった」

「彼(ゴーン容疑者)にいつもリポートしている人間が限られてきて、多少間違っていたり、もっと確認しなければいけなかったりすることを、限られたインプットで決定してしまっていた」

西川社長の言うように、今回の事件は「権力の集中と長さ」に関係があるのだろうか。

御手洗氏(官邸サイト)ゴーン氏(日産サイト)丹羽氏(駐中大使館サイトより:編集部

報道によると、報酬の繰り延べが始まったのは2010年からで、ゴーン氏は1999年に日産のCOO、2001年CEOになっている。権力の座が長期に渡り集中することのデメリットは、日本を代表する企業経営者が述べている。元キャノン社長で元経団連会長の御手洗冨士夫氏と、元伊藤忠商事社長の丹羽宇一郎氏だ。両氏は自著の中でこう述べている。

「自らの名声にこだわり、おだてられることに慣れたトップは耳の痛い話をする部下を遠ざけるようになります。正確な情報があがってこない組織を作ることになり、ひいては導くべき道を誤って組織を崩壊させかねません」御手洗氏

「どんなに自分を諌めてくれと周りにお願いしたって、現実的にはそれはおかしいと、正面きって自分を諌めてくれる人は少なくなります。批判の声がだんだん入らなくなってくるのです」丹羽氏

「どんな人間にも間違いはあります。また、ともすれば私心が芽生えて判断を誤らせる」丹羽氏

「トップのあるべき姿として一番あげたいのは私心がないことです」御手洗氏

「行動経済学(2002年ノーベル経済学賞)の研究によると、人間の行動を支配するのに、理性より感情のほうに優位性があるといいます。(中略)トップの座にしてもそこに納まり指示を出していくのは非合理極まりない人間という動物です。したがって、権力ある地位というのは一定のサイクルで交代したほうがいいと私は考えています」丹羽氏

両氏はトップの座から去る時期について「10年で辞めると決めていた」(御手洗氏)、「6年で辞めると決めていた」(丹羽氏)、と述べている。両氏の言葉は、西川社長が言った、「権力の座に長く座っていた」「リポートしている人間が限られた」ことと共通する。

日本企業ではトップ在任期間がゴーン氏よりも長い人は多くいるが、それは例外的であり、「日本の全上場企業の社長平均在任期間は7.1年で、4年未満がその半数を占めている」(東洋経済)<2013年データ>。

ゴーン氏は「カルロス・ゴーンの経営論」の中でこう述べている。

「熟慮したうえで、自分に正直に、自分の信念に基づいて判断し行動することが、一貫性を維持することにつながります」

「言っていることに一貫性があるとすれば、それは私自身が自然に思ったことを、嘘をつかずに言動しているからです」

どん底にあった日産を1年でV字回復させた功績は疑いもないし、ゴーン氏がいなければ今の日産はあり得ないのは万人が認めるところである。報酬を少なく記載したことについては、ゴーン氏が自身に正直で、一貫性があってのことであり、本当に社員に配慮したからだったのかもしれない。そしてそれは今後明らかになっていくと思う。

いずれにしても、今回の事件は「トップの任期」についてを考えさせられる事件だった。

※丹羽宇一郎氏、御手洗冨士夫氏の言葉は「会社は誰のために」(文藝春秋)から引用しました。
※「カルロス・ゴーンの経営論」(監修日産財団、編著太田正孝氏・池上重輔氏)

石川 了(いしかわ とおる)58歳  宅地建物取引士
1982年中央大学卒業、NTT入社。退職後、不動産投資業を営む


Wikipediaより:編集部

【お知らせ】アゴラでは、「ゴーン前会長逮捕」に関する皆様の論考を募集しています。事件の見立てや、日本とフランスの関係、自動運転とEVという100年に一度の大革命を迎えた自動車業界など、さまざまな視点から語られていますが、個人レベルでも、巨額の報酬を得ている経営者と現場社員との待遇格差、語学習得やコミュニケーションなどで外国人と働くことの難しさといった論点を考える契機になるでしょう。

平成の終わりに勃発した大型経済事件を皆さんはどうご覧になっているでしょうか。皆さまのご意見をお待ちしております。

主な論点やネット上の注目論考は、編集部のまとめ記事を参照ください。

【まとめ】日産ゴーン前会長逮捕:事件の論点は?

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