ゴーンは不記載の90億円を失い大損?

2018年12月15日 06:00

隠したつもりが裏目

東京地検特捜部に逮捕された日産前会長のカルロス・ゴーン容疑者の事件報道は、当初の強気の意気込みに比べ、メディアは相当、慎重な言い回しに後退しています。有価証券報告書の報酬虚偽記載では、「有罪に持ち込むのが難しいのではないか」との指摘も聞こえてきます。

10年度から17年度までの会長報酬のうち、半分しか記載せず、残りの約90億円は表に出していません。退任後の後払いで、確定はしていないと金額だと、いい続ければ、ばれても罪は問われないだろうという読みだったのかもしれません。検察も頭を悩ましている巧妙な操作だという人もおります。

どうなのでしょうか。ゴーンとその側近だけで決めた極秘の扱いですから、将来の支払いに備えた引当金も積んでいない、他の代表取締役とも相談していない。正式のステップを踏まないで作った案ですから、結局、隠したばっかりに、事件に発展し、ばれると後払いの分も失う。

退任後も権勢を振るえると錯覚

有罪となれば当然、後払いの分はゴーンに支払われない。無罪となっても、経営モラルを踏みにじった会計処理は明らかで、覚書通りの金額が支払われることはまずありえない。かりに居座り続けられても、減額は必至でしょう。退任後も権勢を振えることを前提にした計画は空回りに終わる。これが結論だと思います。

ですから「虚偽記載ないし過少記載では、有罪に持ち込めないかもしれない。つまり無罪の可能性もあるのか」と「無罪になれば、表に出さなかった約90億円はゴーンに支払われるのか」は区別して考えるべき問題です。「過少記載では無罪になっても、90億円が無傷であることにはならない」と思います。

仏ルノーは13日の取締役会で、ゴーンの解任を再び見送ったとの報道です。特捜部の捜査が始まったばかりで、結論をだすには早すぎるし、後任社長を決めるための時間稼ぎでしょうか。ゴーンの留任を疑問視する声が取締役から出ていると、パリ発のロイター電は伝えています。

親会社が反対するのに高額報酬を独断で決め、親会社にも隠していたとなると、いずれ解任はあり得る。企業倫理に反する不透明な報酬の決め方、実態のないコンサルタント料名目での姉への支払い、連結決算から切り離した子会社を通した高級住宅購入といい、ルノー・日産連合のイメージを傷つけました。後払い報酬も白紙撤回しないと、企業イメージは回復できません。

軌道修正を図る新聞

日本のメディアはどうでしょうか。朝日新聞は「検察との二人三脚で成功したかに見えた日産。だが、ここまでの展開は誤算との見方が広がる」、「会長報酬の過少記載は形式犯で、有罪は得られまいとの指摘が強まっている」と、報道姿勢の修正を図っているようにも見えます。

読売新聞は「有価証券報告書は、投資家にとって重要な判断材料だ。検察が虚偽記載に厳しい姿勢で臨むのは当然だ」と強調する一方で、「後払い分の報酬は確定しておらず、報告書に記載する義務はなかった」とのゴーン側の反論も紹介しています。今の段階では判断がつきかねるとの考えでしょう。

専門家も判断に迷っています。「役員報酬の虚偽記載は処罰の対象になる事項である」、「退任後の支払が確定していたか、判断することは難しい」、「経営陣は企業の社会的責任を自覚し、不正に関する内部情報を集め、迅速に調査を進める」など、どっちつかずの解説が目立ちます。

はっきりしているのは、年間報酬を全額支払ってもらい、所得税もきちんと払う。後払いの部分があるのなら、対外的にオープンにし、役員会でも決定しておく。退職功労金のような形で引当金を毎年、計上し、経理上も疑義がないようにしておく。

通常の企業と同様のことをゴーンがやっていれば、検察に逮捕されることもなかっただろうし、白紙撤回されかねない問題の90億円も、正当な報酬として、受け取れていたことでしょう。「検察の手法に無理がある」、「過少記載は形式犯に過ぎない」かどうかという議論より、所得隠しまがいのバカげたことを延々と続け、結局、全てを失いかねなくなった。墓穴を掘るとは、このことでしょうか。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2018年12月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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