コソボ軍設立はバルカンにプラスか

2018年12月16日 11:30

コソボ議会は14日、独自軍の設立を明記した法案を可決した。首都プリシュティナからの情報によると、議会に参席した107人の議員全員が独自軍設立を支持し、全会一致の決定だったという。コソボを主権国家と認めていないセルビア共和国はコソボの独自軍設立決定を国連安保理決議の違反として強く批判している。以下、オーストリア通信(APA)の記事を参考にコソボ情報をまとめた。

コソボ議会で国軍設立が可決した(2018年12月14日、コソボ議会公式サイトから)

コソボは2008年2月、セルビア共和国から独立。09年1月には軽武装のコソボ治安部隊(FSK)が創設されたが、その使命はあくまでも災害対策と警察が担当しない範囲の治安を果たすことだ。そのFSKを通常の軍隊に改編していくというわけだ。同国のアギム・チェク治安部隊相によれば、独自軍を設立することでコソボ国民のアイデンティティをさらに明確にし、コソボ国家の国体の強固に貢献するというわけだ。

現治安部隊は2500人だが、将来、兵力約5000人と約3000人の予備兵士に拡大していく。治安部隊から通常の国軍に編成するまでには約10年の年月がかかるとみられている。コソボ議会のカドリ・ヴェセリ議長は可決後、「わが国の新しい時代の到来を意味する。今後はコソボ国軍だ。兵士に幸あれ」と興奮気味に喜びを表したという。

一方、セルビア側ではコソボ国軍の設立ニュースに激しい憤りの嵐が吹き荒れている。コソボ議会の可決ではベオグラードに忠実なコソボの「セルビア・リスト」(議会で10議席)は裁決をボイコットした。

ベオグラード政府はコソボ軍の設立でコソボに居住する少数民族のセルビア国民は一層不利になると恐れている。セルビアのアレクサンダル・ヴチッチ 大統領は14日、「われわれは戦争を開始する気持ちはないが、セルビア系住民が迫害され、侮辱されることを黙認できない」と主張。ただし、セルビア政府のアナ・ブルナビッチ首相は、「セルビアは平和の道を堅持する」とコソボとの紛争を再開する意思のないことを明らかにしている。

セルビア側の主張は明確だ。コソボの独自軍設立は1999年6月の国連決議1244とコソボ憲法に違反するという点だ。コソボの安全は1999年以来、北大西洋条約機構(NATO)主体のコソボ国際安全保障部隊(KFOR)が担当。その上、コソボ憲法でも国軍の設立には議会で二度、3分の2の賛成が必要と記述されているからだ。

それに対し、コソボ政府は、「コソボ軍の設立がセルビア系住民の脅威だという主張は間違っている。多数のセルビア系国民もFSKに従事している」と反論。チェク治安部隊相はセルビア系国民に向かって、「新しい国軍に入ってほしい」とアピールしている。

セルビア系住民が多数を占めるコソボ北部では住民が14日、セルビアの国旗を掲げて無言の抵抗を示したという。セルビア系(北部)とアルバニア系(南部)に市が分断されているミトロヴィツァ市では、KFORは警備体制を強化したという。

NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は14日、コソボ議会の決定について「FSKの国軍への改編はコソボの問題だが、この時期の決定はタイミングが良くない」と指摘し、「NATOはFSKへの支援を慎重に検討しなければならなくなる」と示唆している。ロシア外務省は14日、コソボ議会の決定を批判し、「国連安保理決議の違反となるし、バルカンの政情を悪化させることになる」と批判している。

なお、セルビアのヴチッチ大統領は14日、国連安保理の緊急会議を要請したことを明らかにした。同時に、コソボ国軍の設立について、米国や英国、ドイツが支持したことに遺憾を表明した。同大統領は「欧州連合(EU)のイニシャチブ、セルビアとコソボの正常化対話を再開する用意がある。もし、コソボがセルビアからの商品への過剰な関税を撤去するならば」と述べた。コソボ政府は11月2日、セルビアとボスニアからの商品に対して関税を100%引き上げることを決めたばかりだ。

ちなみに、2018年1月現在、コソボを主権国家として承認している国は107カ国を超えた。コソボの独立国家を承認していない国には、セルビアのほか、ロシア、中国、そしてEU内の5カ国(スロバキア、ルーマニア、ギリシャ、スペイン、キプロス)が含まれている。拒否権を有する国連常任理事国の2カ国が反対している現在、コソボの国連加盟の道は厳しい(「EU5カ国の事情とコソボ承認」2008年12月13日参考)。

主権国家としては国軍の設置は当然だが、コソボの場合、バルカン全域の政情を悪化させる危険性が完全には排除できていない。それだけに、コソボ側はセルビアの理解を得るためにも慎重な準備が不可欠だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年12月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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