ファーウェイ事件雑感② 尖閣デモ時と変わった中国人の反応

2018年12月18日 06:00

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8年前の2010年、日本の海上保安庁が尖閣諸島付近で中国漁船の船長を逮捕した事件では、「祖流我放」、つまり「“祖”国も“流”氓(ヤクザ者)だから、“我”(私)は“放”心(安心)だ」との四字熟語は生まれなかった。中国側がゼネコン・フジタの社員4人を「軍事管理区域の違法撮影」で拘束した報復措置についても、官民ともに、奥歯に物が挟まったような言い方が印象的だった。

2012年、日本政府による尖閣国有時は中国各地で激烈な反応があったが…(Wikipedia:編集部)

日中間では過去に、首相の靖国神社参拝や尖閣諸島の領有権問題で大規模なデモが起きた。物見遊山の群衆が、戦時中を彷彿させる「抵制日貨(日本製品ボイコット)」のスローガンを叫びながら、デモ参加の当事者たちがキャノンやニコンを手に記念写真を撮っている姿が揶揄された。日本車が襲撃されたが、大けがを負ったのは運転手の中国人で、破壊された日系スーパーの従業員も顧客もしょせんは中国人だ。

怒りと不満をぶちまけたものの、どこか釈然としない、消化しきれないものが彼らの心の中に沈殿していた。事態が収束した後、決まって理性的な愛国を訴える声が後から追いかけたが、過剰な熱情の前では焼け石に水だった。言い訳のようにしか聞こえない知識人の発言もあった。参加者は社会に不満を持つ出稼ぎ労働者で、都市住民はそんな愚かなことはしない、という人々もいたが、外から見れば同じ中国人に違いなかった。

ところが今回は違う。iPhoneをファーウェイの携帯に買い替えるようと呼びかける動きが起きたものの、iPhoneを使っている若者が嫌がらせを受けたという話は聞かれない。私の周辺でも学生が平気でiPhoneを使っているし、すでにファーウェイの携帯を使っている学生は、「こっちの方が使いやすいから」とあっけらかんとしている。

盲目的な愛国主義ではなく、あくまで個人に重きを置く実利主義である。直情的な愛国の表現は「酷(クール)」ではなく、斜に構えた方がイケているといった感じだ。現代中国の若者を形容するはやり言葉は「仏系」である。「まあね」「別に」「どちらでも」を連発し、自己主張の乏しい、冷めた感覚の世代である。

マクドナルドやケンタッキー、スターバックスに群がり、ハリウッド映画を何より好む彼ら、彼女らに向かって、アップルやマイクロソフトの製品を使うのは愛国主義に欠けるなどと言おうものなら、みなはしかめ面をするに違いない。愛国心は人一倍あったとしても、かつての激情タイプはすでに廃れ、どこかに余裕が生まれている。ここ数年の間に少しずつそんな変化が生じている。

11月末の出来事だが、イタリアの高級ファッションブランド「ドルチェ&ガッバーナ(D&G)」が、上海で予定していたイベントのPR動画を流した。ところが、とうてい高級ブランドとは思えない、中国の箸文化を茶化すだけのできの悪い内容だった。中国のネット世論が非難を浴びせると、今度は同ブランドのデザイナー、ガッバーナ氏がインスタグラムで中国人を蔑む下品な差別発言を重ねた。

D&Gの低俗さが露見し、さすがにブランド好きの中国人セレブ達も愛想をつかした。中国人タレントが相次ぎD&Gとの決別を宣言し、ネットショッピングでも同ブランドは姿を消した。イタリア・ミラノのD&G店舗で中国人によるデモが起きたとのニュースが流れ、私は、中国でもショーウィンドーのガラスが割られるぐらいの事件は起きるだろうと予想した。なにしろ株が暴落しただけで、証券会社が投石を受けるお国柄なのだ。

だが結局、D&Gたたきはネットの土俵にとどまり、破壊活動など場外乱闘には発展しなかった。

中国の台頭、海外進出に伴い、各国との摩擦もしばしば起きている。9月にはスウェーデンの首都ストックホルムで、警官にホテルから排除された中国人観光客が過剰に反応し、国内の民族感情を刺激して外交問題に発展したばかりだ。中国人に対する偏見や差別的行為はすべて「辱華事件」とレッテルを張られ、たちどころに炎上するほど、中国のネット世論はデリケートになっている。

だが、よくよく考えれば、かつてのような過激な行動がみられないことに気づく。むしろ現地のルールを守らない、中国人観光客の身勝手な振る舞いを反省する声が少なくない。悪意に満ちた一部の中国メディアはがいくら民族感情を刺激しようと、それをストップさせる冷めた目が育っている。

メディア関連の授業でも学生が「辱華事件」を取り上げる。民族主義的論調で人気を集める人民日報系メディア『環球時報』が、学生の世論分析の中でしばしば取り上げられるが、彼ら、彼女らはたいてい冷めた、批判的な視点に立っている。「辱華事件」の背後に、『環球時報』の意図的な世論操作の影がうかがえることを見逃していない。過剰な愛国主義がかえって世界との軋轢を生むばかりでなく、中国人こそ他国に対する偏見を強く持っているのではないか、と堂々と指摘する学生もいる。

やはり何かが変わってきているとしか思えない。

(続)


編集部より:この記事は、汕頭大学新聞学院教授・加藤隆則氏(元読売新聞中国総局長)のブログ「独立記者の挑戦 中国でメディアを語る」2018年12月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、加藤氏のブログをご覧ください。

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加藤 隆則
汕頭大学新聞学院教授、元読売新聞中国総局長

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