電波改革はどこまで進んだのか:情報通信政策フォーラム(ICPF)セミナー

小林 史明

12月18日にNPO法人、情報通信政策フォーラム(ICPF)にお招きいただき、「電波改革はどこまで進んだのか」と題してセミナーを行いました。参加者の多くが国内外の通信各社から放送局、ICTがご専門の大学教授などその道のプロの方々で講演の後の質疑応答の時間は非常に的確な質問を多くいただきました。

冒頭は私から、2017年5月の自民党行革推進本部による「公共用周波数の民間開放に関する緊急提言」に始まり、その後、総務大臣政務官として取り組んできた一連の改革の経緯について振り返りました。以下、トピックごとに整理して質疑応答の議事録を共有します。

PS−LTEについて

アメリカでは9.11で警察、消防、等の通信が連携できなかった反省から無線ネットワークの共通化の課題が持ち上がり、今年からシステム構築が始まっています。日本でも警察、消防、海上保安庁など独自で周波数帯を確保し、各々で通信システムを構築しています。これをPS-LTEで共通化することで音声だけでなく、映像もやりとりできるようになり、高機能化しつつ費用を抑えることも可能です。早ければ2020年ごろ、消防から導入を開始する予定です。

(関連記事:小林ブログ)PS-LTE(公共安全LTE)で日本をアップデート

※画像はリンク先より引用 https://www.nttdocomo.co.jp/info/notice/tohoku/page/2017/170613_01.html

(ご質問)まずは消防ということですが、西日本豪雨などでは消防も警察も自衛隊も出動しているので、行政機関横断的に公共安全LTEを利用すべきではないか。

(小林)それぞれ組織の壁があり、人員を抱えているので、できるところからやります。ただ消防が映像も含めてLTEを使いこなすのを見たら、他の組織も使いたいと思うはず。まず目の前の景色を変えることだと思います。

(ご質問)周波数帯は決まっていますか?200MHzを使う可能性は?

(小林)まだ決まっていません。200MHzは使えたら便利ですが、端末の問題がありますので検討が必要です。モバイルの通信帯を考えてはいます。

公共周波数の民間転用

自民党行革本部から政府への提言で動きはじめ、防衛省に割り当てられていた帯域(1.7GHz帯)を民間に開放・公募。応募した携帯4社のうち1社が新規参入の楽天でした。防衛省が別の帯域への移転にかかる“引っ越し代”は事業者側が負担しています。

(関連記事:小林ブログ)楽天のキャリア参入:電波有効利用からの視点

(ご質問)ほかに開放できる周波数はありませんか。細分化された帯域を年に数回しか使っていないところは土地の区画整理のように集約できませんか。

(小林)区画整理はいい表現だと思います。電波の有効活用については不動産の世界と同じように考えるのがわかりやすいと思います。そういう観点で表現すると、跡地利用のこともしっかり考えてどこを整理すれば一番価値が出るか優先順位をつけてやっていく必要があると思います。

(ご質問)電波割り当て時の総合評価方式は次の5Gから適用されるのですか。

(小林)次の5Gから基本的にそうなります。広義のオークション制度の一つになりますが、今回は総合入札方式、電波の値段もちゃんと付けた形でいただく。来年の法改正でやり切れると思います。6枠に4キャリアが来るのかもしれませんが、“競り上げ”ではないので、法外な価格にはなる心配はありません。なお、こちらでいただいた金額については、個人的にはPS-LTEに使うなどして社会に還元できたらいいと思っています。

携帯端末価格と通信サービス料金の分離

携帯代金の「4割引き」で注目されましたが、1年かけて検討、議論してきました。今回の改革のポイントは、端末メーカーの携帯の値引きを通信会社が担うことによって、通信料が消費者にとってわかりづらくなっており、価格が高止まりしているという現状を、メーカー、通信会社がそれぞれ本来の持ち場で勝負する方向へ、膠着した業界構造をリセットすることでした。国民目線では「安く利用できる」というのもありますが、政治側としてはフェアな競争を働かせるのが考え方でした。MNP(ナンバーポータビリティ)を円滑にし、中古端末の流通を促すことで消費者の選択肢を増やして行きます。

(ご質問)モバイルは民間事業。政府の介入は必要最小限にすべきではないでしょうか。

(小林)政治/行政の仕事は競争を促し、消費者が選択できるようにすることです。過度な介入はすべきではありませんが、国民共有の財産である電波を活用した事業であることから、競争政策としてチェックする必要があります。選択できるというには3つの条件があると思っていて、①まず選択肢があること②選択の条件がわかりやすいこと③選択するときの手続きが簡便であること―−以前は3つとも達成されていませんでしたが、今回の改革で業界の構造を変えたいと思う。

放送改革

民放とNHKの対立ばかりが取り上げられますが、放送としての価値を高め、世界とどう戦っていくか考える必要がある時代です。

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(ご質問)NHKは4チャンネルも持っている。一部は手放すべきではないか。

(小林)BSの返上はネット配信の条件になっており数年のうちに空きます。そこにどこか新規参入するのを期待しています。NHKの受信料の問題は、組織のサイズ、必要な収入を決めて国民に必要性を納得してもらうことが最初だと思います。本当に必要という意識が広がった先に、ユニバーサルサービス的な議論をすることはありえると思います。

(ご質問)ローカルコンテンツは重要。地方局のインセンティブを仕向ける政策も必要では?

(小林)地方局を救うために補助金を使うばかりではいけません。経営のガバナンスも問題で、非上場なので株主などの監視の目が少ないのが現状です。国民共有の財産である電波を使っている以上、上場企業と同等の資産公開など経営の透明化が必要で、地域の株主の目が入ることで新しい取り組み、イノベーションにつながると思います。

社会システムの標準化

日本が成熟国家になってもデジタル化が進まない原因は、地方分権と中央集権の二項対立にあります。この状況から抜け出せないが故に、社会システムが分断され続けているのです。これによってたとえば、保育所の申請をするにも1718自治体で1718通りの書式があるために、上場企業の労務担当者は申請者の就労証明書をそれぞれの自治体に合わせて、しかも手書きで対応するから年平均88時間も費やすという非効率なことになっているわけです。こういう状況ひとつとってみても、社会システムの標準化が必要なことがお分りいただけると思います。

(ご質問)「地方自治の本旨」や「地方自治の独立性」という言葉で反対する人たちがいますが、どうすれば乗り越えられるのでしょうか。

(小林)全国市長会に検討してもらってはどうかと投げかけていますが、総務省で行なった意見交換会でも私のグループにいた30自治体の首長さんは全員「標準化をやってください」と賛成されていました。首長さんたちに声を上げてもらうことがまず大事だと思います。地方分権改革は権限を国から地方へ移譲するだけでなく、国へ集約するという流れもあって良いと思います。行政改革推進本部の規制改革PTでも提言を予定しています。


編集部より:この記事は、衆議院議員、小林史明氏(自由民主党、広島7区)のオフィシャルブログ 2018年12月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は小林ふみあきオフィシャルブログをご覧ください。