株式が投資対象であり得るために

株式は投機対象であり得るし、投資対象でもあり得る。では、株式が投資対象であり得るための条件とは何か。株式が投資価値のあるものになるための条件とは何か。

株式による資金調達部分は自己資本と呼ばれ、融資や社債による資金調達部分は他人資本と呼ばれる。自己資本は、事業が抱える不確実性を最初に吸収することを通じて、他人資本を守るのである。

故に、株式が投資対象であり得るためには、不確実性の合理的な測定が可能でなければならない。合理的測定が可能であるためには、不確実性が管理可能性のもとにおかれていなければならない。管理できていれば、当然に測定できる。測定できなければ、測定できない前提のもとで、何らかの管理方法を工夫すればいい。

管理可能性とは何か。一つには、事業政策において、経営者の適時適切なる判断によって、測定可能な不確実性が危険へと転化する事態を回避できていること、二つには、測定不能な不確実性が制度的に管理下にあるか、経営能力的に管理下にあるか、いずれにしても、その所在が認識されて、適切な対応がとられていること、三つには、財務政策において、過大な債務の負担が小さな危険を増幅させて株式価値を危機にさらす可能性が回避されていること、この三つである。

三つは、いずれも経営能力の問題である。故に、株式投資においては、経営者の能力の判定が決定的に重要なのである。馬鹿馬鹿しいことのようだが、投資対象になる株式とは、優れた経営者が、優れた事業を、優れた財務内容で経営している会社の株式なのである。常識的にすぎても、やはり、株式投資の基本理念は、ここへ行きつくしかない。

しかし、投資の技法は、また別ものである。優れた財務内容とはいっても、自己資本比率の高い会社は資本効率が悪いのだし、優れた事業が確立してしまうと、経営者の安住が生じて変革に弱くなるだろうし、優れた経営者は属人性が高いかもしれないわけである。それに、なによりも、こうした会社の株式は、割高になりやすい。こうした矛盾を解くのが具体的な投資の技術である。

 

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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