問うべきはゴーンの経営モラルの全体像

2018年12月22日 06:00

虚偽記載から特別背任罪

日産サイトより:編集部

日産自動車の前会長のゴーン被告が「保釈へ」の寸前、一転して特別背任の疑いで再逮捕という急展開を見せました。メディアに登場して、「虚偽記載という形式犯では、有罪に持ち込むのは無理」、「東京地裁の拘留延長の却下もその流れか」と強調していた論者たちは、どんな心境でしょうか。

事件の核心は、一貫してゴーンの経営モラルの欠如のはずなのに、「虚偽記載の違法性は低い」とみた論者が多かったのか、地検特捜部の捜査手法が批判されたり、西川社長がゴーンに抵抗しなかった責任を問う声や、ルノー対日産の企業対決のほうがクローズアップされたりしてきました。

事件に核心に迫れる特別背任

虚偽記載の違法性の有無よりも、ビッグビジネスのトップとしての経営モラルのなさこそ問題にされるべきだと、私は思ってきました。私的な損失を日産につけかえて損害を与えた「会社法違反(特別背任)の疑いで再逮捕」のほうが罪は重く、ゴーン事件の核心に迫れるはずです。他にも簿外の子会社を使った高級住宅の購入、会社経費の私的流用も問われ、全体像が明らかにされていくでしょう。

不思議なことに、「日産の利益全体からみると、虚偽記載された報酬額、不正流用された資金や経費は大した金額ではなく、違法性を問うのは難しい」と、ゴーンを擁護するようなコメントが弁護士や検察OBから次々に流されました。「日産を救った恩人であるのに、微罪で逮捕するのか」と、ピント外れの指摘も聞かされてきました。

西川広史社長に対し、「ゴーンにきちんと意見を申さず、言いなりになってきたことには重大な責任がある」との批判も聞かれます。会社を私物化し、独裁的な人事権を持ち、社外から英雄視されているカリスマ的な経営者に直言したどうなるか。左遷され、もっと服従する人物が起用されるばかりか、独裁的会長は証拠隠滅に手を染めたことでしょう。

第三者委員会では限界

会社に第三者委員会を作って真相解明に乗り出そうとしても、握りつぶされていたに違いない。司法取引で検察を中に引き込まなければ、事件の解明は無理だったでしょう。あくまでも事件の主役はゴーンであり、西川社長らはわき役もいいところでしょう。

特別背任容疑は、08年のリーマンショック(国際金融危機、株価暴落)で受けた18億円の個人的な損失を日産に移し替えようとして、日産に損害を与えたこととされます。ゴーンによる不透明な会計操作(虚偽記載)の発端は、ひょっとしてリーマンショックであるかもしれません。後払いで受け取るはずの91億円の報酬も、取締役会の正式な手順を踏まず隠したことで、もらい損ねる可能性が高い。

リーマンショック時の損失補填も問題でも、不思議な言説が飛び交いました。「時効(7年)になっているから事件化できまい」、「08年の円高(1㌦=87円)はその後の円安(最近は110円程度)で逆に為替差益が出て、損失は消えているはず」などです。事実関係は今後の捜査で解明されるでしょう。

私が最も重視するのは、ゴーンの経営モラルのなさです。これまで伝えられた情報の多くが事実とすれば、日仏連合の世界的な自動車メーカーのトップにまで登りつめた成功者が法の精神を無視した振る舞いを続けた。前代未聞です。

「社外取締役が機能しなかった。ゴーンに異を唱える人物もいなかった。ただし、会社全体で不正に走った東芝と違い、個人が私利私欲で暴走したケースだ」とみる小林喜光・経済同友会代表幹事の指摘は正しいと思います。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2018年12月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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