独メディア界に衝撃。シュピーゲル記者の捏造記事問題

2018年12月22日 11:30

独週刊誌シュピーゲルは欧州メディア界では最も代表的なメディアとして評価が高い。その週刊誌記者が書いてきたルポルタージュやインタビューが事実ではなく、捏造、ないしは創作記事であったことが明らかになり、独シュテルン誌の「ヒトラーの日記」(1983年)以来のスキャンダルとして独メディア界に大きな衝撃を与えている。シュピーゲル誌が19日、オンラインで発表した。

欧州の代表的週刊誌シュピーゲル最新号(51号)の表紙

捏造記事を書いてきたのは33歳のクラース・レロティウス(Claas Relotius)記者で7年間余りシュピーゲル編集部で勤務し、社会テーマを中心に記事を書いてきた。同誌によると、約60本の記事が過去、掲載されたが、少なくと14本は捏造、創作記事の可能性があるという。

彼はシリア内戦の青年たちの素顔などのルポ記事を同誌に掲載し、2014年にはCNNの「今年のジャ―ナリスト」に選出されるなど、各種のメディア賞を受賞してきた若手ホープのジャーナリストだ。12月初めにも「ドイツ報道者賞」を受賞している。同記者はシュピーゲルだけではなく他のメディアにも記事を書いてきた売り出し中の記者だった。

捏造が発覚した最初のきっかけは、米・メキシコ国境のルポ記事だ。シュピーゲルの同僚ユアン・モレノ記者(Juan Moreno)が現場に出かけ、記事の内容を検証取材したところ、レロティウス記者が会見したという2人とは会っていないことが判明するなど、記者の捏造疑惑が強まった経緯がある。

同僚記者の捏造に最初に気づいたモレノ記者(シュピーゲル・オンラインより:編集部)

レロティウス記者は最初は捏造記事という疑いを否定してきたが、先週に入り、捏造記事であることを認めた。同記者は調べに対し、「失敗するのではないかという不安と恐怖があった」と述べ、上司の期待に応えなければならないといったストレスが強く、インタビューしていないのにインタビュー記事を書き、現場取材していなくてもルポ記事を自分で勝手に創作するなどを繰り返してきたという。

ちなみに、記者の筆力はものすごく、記事は読者に感銘を与えるような洗練された表現の記事が多かったという。要するに、文才は他の記者よりあったことは間違いない。

シュピーゲルといえば、パナマ文書の検証を英紙ガーディアンなどと共に担当するなど、国際社会でも評価は高い。ドイツの政治家の中にはシュピーゲルの記者からインタビューの申し込みを受けると、「何か嗅ぎつけたのではないか」と不安になるという。そのシュピーゲルで誰にも気が付かれることなく捏造記事を書き続けてきたわけだが、同誌編集関係者は「どうしてそのようなことができたのか」と首を傾げているほどだ。

シュピーゲルはリベラルなメディアで米紙ニューヨーク・タイムズ、ワシントンポストの論調を支持し、トランプ大統領を機会ある度に批判し、CNNと共にフェイクニュースと酷評し、ファクトチェクと名付けてその言動を監視してきた。そのシュピーゲルの記者が捏造ニュースを流してきたというわけで、同誌編集関係者のショックと失望は大きい。シュピーゲルのウルリッヒ・フヒトナー編集員は、「シュピーゲル70年の歴史の中で最悪な出来事だ」と嘆いている(オーストリア代表紙プレッセ12月20日付)。

シュピーゲルは編集長が交代したばかりだ。3年半編集長を務めてきたクラウス・ブリンクボイマー氏が10月末に退職し、シュテフェン・クルースマン氏が新編集長となった。新編集長は新しい編集方針を打ち出し、紙面の刷新などを推し進めていこうとしてきた矢先だ。不幸にも、新編集長の最初の仕事が編集記者のフェイク問題を全容解明し、編集内の雰囲気を改善することに向けざるを得なくなったわけだ。

シュピーゲルは内外の専門家から構成された調査委員会を設置し、どうして長い間、捏造記事に気が付かなかったかなどを検証していくという。

捏造記事といえば、ドイツでは週刊誌シュテルンの「ヒトラーの日記」(1983年)、米ニューヨーク・タイムズでは2003年、レポーターのジェイソン・ブレア記者(Jayson Blair)のスキャンダルが有名だ。ニューヨーク・タイムズ編集関係者は当時、「ニューヨーク・タイムズの最大の汚点」と発言したことは記憶に新しい。

最後に、捏造するジャーナリストの心理面だ。彼らは現実と架空の区別ができなくなる。「現実」は実際見える世界ではなく、自分が願う世界となる。心理学的には、Pseudologia Fantastica(虚言癖)、ないしは「ミュンヒハウゼン症候群」(虚偽性障害)と呼ばれる状況だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年12月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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