徴用工問題で日韓が絶対に「歩み寄れない」理由 --- 石川 了

2018年12月25日 06:00

徴用工問題で、日韓がいよいよ抜き差しならない状況へ陥ろうとしている。12月24日、韓国訴訟団が新日鉄住金に提示した回答期日が過ぎた。原告代理人は期日を過ぎた場合、韓国にある同企業の資産を差し押さえると言っていた(産経新聞)。

最高裁勝訴に沸いた元徴用工の原告側(KBSより:編集部)

しかし、新日鉄住金側からの回答はなく、原告側が今週中にも資産差し押さえの手続きを行う可能性が出てきたからだ。新日鉄住金が韓国内に持つ資産には、同社と韓国鉄鋼大手ポスコの合弁会社の株式(約11億円相当)や3千件以上の知的財産権などがある。外務省幹部は「差し押さえを行うのは韓国の公権力だ。ここが動いた場合には、われわれも動かざるを得ない」としている(産経新聞)。

よって、韓国の公権力が原告に同調し、韓国側の公権力が実際に執行するかどうか、が焦点となる。

この訴訟は韓国の私人が日本の私企業を相手に起こした訴訟ではあるが、言うまでもなく実質的な争いは日本政府対韓国政府である。しかし、この争いは容易に収拾がつくとは思えない。それはこの判決がこれまでとは全く違い、両国にとって単なる意地の張りあいではなく、「自国の根幹に関わる問題」だからである。

1. この判決の真の問題点

安倍首相は11月1日に国会でこれまで日本政府が使ってきた「徴用工」の代わりに「旧朝鮮半島出身労働者」を使うと述べた。つまり、新日鉄住金の原告は募集に応じた人で、強制的に徴用した人ではない、という意味だ。

しかし、この発言は一連の徴用工判決に対しては、何の意味もない。そもそも今回の韓国大法院の判決は「徴用工の未払い賃金や補償金を請求しているもの」としており、「強制を問題としているわけではない」からだ。今回の判決の真の問題点は、この判決が訴訟自体を「不法な植民地支配・侵略戦争に直結した日本企業に対する反人道的な不法行為の慰謝料請求権」としたうえで、「この慰謝料請求権は日韓請求権協定の対象外である」という点にある。

2. 日本が引けない理由

もし、『日韓併合が不法行為であり、それに対する慰謝料が日韓協定の対象外』だということになれば、日本にとって、1965年の日韓基本条約そのものが破棄されたに等しく、『国と国とが正常な状態時に結んだ正式な条約を、正常な状態時に破られる』ということである。このことは、終戦時ソ連に不可侵条約を破られたことや、日本が戦後独立していない時に韓国に武力により竹島を奪われたこととは全く違う。大げさに言えば、この問題で日本が1ミリでも引けば、もはや国家でなくなる。

また、日韓基本条約締結時に争っていた「韓国併合36年間の賠償」を認めることでもあり、当時の韓国人が訴訟を起こせば何に対しても慰謝料を請求できることになる。日韓併合の間に普通に労働していたとしても、また労働していなくとも、例えば日韓併合時に心に傷を負ったという理由で請求できることになり、ありとあらゆることに訴訟をおこされる「何でもあり」の状態になる。

3. 韓国のこれまでの徴用工関連の政府判断

韓国政府はこれまでは、徴用工への補償義務を韓国政府が負うと確認していた。

・2008年には、「日韓請求権協定を通して日本から受領した無償3億ドルは、個人財産権、債権等、国家としての請求権等が包括的に勘案されたものと見なければならない」として、犠牲者には2000万ウオン、強制動員生還者には80万ウオンを支給している。

・さらに、2009年にはソウル行政裁判所への情報公開によって、韓国人の個別補償は日本政府ではなく韓国政府に求めなければならないことが明らかになり、徴用工未払い賃金も日本に請求できないと韓国政府が正式に表明した。

つまり、これまで韓国政府は1965年の日韓請求権協定には、徴用工問題は韓国政府に補償責任があると解釈してきた。今回もたとえ大法院が「日本の統治が不当であり日韓基本協定外」という判決を出したとしても、日韓基本条約の範囲内にあるという政府判断で韓国政府が原告に支払えば済む話ではあるが、韓国にはそうはいかない事情がある。

4. 韓国が引けない理由

韓国は李承晩政権から文在寅政権まで、60年以上にわたり一貫して国民に反日教育を施してきた。反日政策の理由は色々言われている。「中華主義にもとづく華夷思想に由来する日本人への侮蔑感」(呉善花氏)、「歴代政権が政権維持のために反日教育をし、その後それを利用する人たちが現れたため」(崔碩栄氏)等。いずれにしても、国家としての教育により全世代に反日の思想が骨の髄まで染みついている。

そして、韓国政権も政権支持にそれを利用した。特に盧武鉉大統領は「対日外交戦争」を打ち出し、アメリカに日本を米韓の仮想敵国にしようと提案している。2005年には、「親日反民族行為者財産の国家帰属に関する特別法」という法律を成立させた。これは、日本の統治時代に韓国内にいる親日派から相続した財産は国家に帰属させるという内容だ。事後法だと批判を浴びたが司法はこの内容を支持した。

司法の判断で言えば、「日本軍の慰安所は強姦防止のためだった」、「伊藤博文を殺害した安重根は凶悪犯」、「竹島は日本に返還すべき」等の親日の主張をした金完燮(キムワンソプ)氏は2002年から2005年にかけて有罪判決を受け、巨額の賠償金の支払いを命ぜられた。2002年に同氏が書いた、日本の朝鮮統治を肯定的に書いた『親日派のための弁明』は青少年有害図書に指定され、同氏は逮捕された。

また「帝国の慰安婦」という本で、慰安婦の動員に当時の朝鮮人が深く介入したことや偶像化された「慰安婦像」の真実を書き、日韓の歩み寄りを説いた世宗大学校の朴裕河(パク・ユハ)教授は、ソウル高裁で慰安婦の名誉を傷つけたとして有罪判決を受けた(産経新聞)。

その意味で徴用工判決は、韓国が司法、立法、行政の三権をあげて、反日政策を実施してきた結果得られた『果実』である。そして、皮肉なことに、いきつくところまで来てしまったこの『果実』に、現政権は縛られてしまっている。本判決の強い支持が国際協定を破ることになるということはわかっているので日本に強く出ることはできず、かといってこの『果実』を捨てることは自己矛盾になるため、政府が賠償を肩代わりすることもできない。韓国政府は「自縄自縛」、進退窮まった状態にある。

そして、「国民教育の果て」は、韓国政府にとってさらに皮肉な『果実』を生み始めている。12月20日には、韓国政府自体が元徴用工や遺族ら1100人に集団訴訟を起こされ(産経新聞)、21日には韓国海軍が自衛隊機にレーダー照射を行うなど(産経新聞)、新たな果実の暴走が続いているが、それを止められないでいる。

5. 日韓は絶対に「歩み寄れない」

よって、お互いの国家観ともいえる根本的な問題であるため、日韓とも一歩も引くことができないこの徴用工問題の結末は、この辺が頃合いだというような、「引き分け」や「五分五分」で終わることはなく、もし勝敗がつくならばどちらか一方の100%勝利、100%敗北となる。このように考えていくと、行き着く先は近い将来、「事実上の断交」になるとしか今は考えられない。

※呉善花氏の見解は「反日韓国の苦悩」(呉善花氏/PHP)から、崔碩栄氏の見解は「韓国が反日国家である本当の理由」(崔碩栄氏/彩図社)からそれぞれ引用しました。

石川 了 宅地建物取引士
1982年中央大学卒業、NTT入社 退職後不動産投資業を営む ブログはこちらです。石川了ブログ

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