独週刊誌シュピーゲル記者の「虚構の世界」

2018年12月25日 11:30

独週刊誌シュピーゲル最新号は同誌最大のスキャンダル事件となった捏造記事問題を特集し、捏造記事を書き続けてきたクラース・レロティウス記者(33)の取材を検証している。驚いたことに同記者は、2017年にレームツマ自由賞( Reemtsma Liberty Award) とカトリック・メディア賞 を受賞したルポ記事「王様の子供たち」(Konigskinder)に登場する2人のシリアの孤児(11歳と10歳)を支援する献金キャンペーンを独自に始め、読者たちに献金を呼び掛けていたことだ。支援金は同記者の個人口座当てとなっていた。

レロティウス記者の捏造記事を特集した独シュピーゲル最新号(52号)の表紙

集まった支援金が実際に2人のシリアの子供たちに渡ったのかは不明だ。スイスのメディアが報じたところによると、同記者は2人のシリア孤児をドイツに養子として受け入れようと呼びかけたというが、「2人が養子となった形跡はない」という。記事ばかりか、シリア人孤児支援キャンペーンも全くのウソだったわけで、シュピーゲル誌関係者はショックを受け、茫然としている。

レロティウス記者の2人のシリア孤児を報じたルポ(2016年7月9日号)は多くの読者に感動を与えたという。シリアのアレッポで両親を失い、トルコに逃げた2人の孤児、アメッド(Ahmed)はくず鉄集めに、姉のアリン(Alin)は裁縫の仕事に従事したという。その話はドイツ国民を感動させ、同記者の支援キャンペーンにも多くの読者が応じたが、全ての支援金は記者個人の口座に入ったわけで、その全容は解明されていない。

レロティウス記者は読者へのメールで「残念ながら、領収書は作れないが、私を信じてほしい、全ての支援金は2人のシリア孤児に渡るようにするから」と書いている。同記者は今なお「シリアのルポの内容は本当だ」と弁明しているという。

捏造記事でメディア界に衝撃を与えたレロティウス記者(シュピーゲル・オンラインより:編集部)

シュピーゲル誌は、「社として支援キャンペーンは行っていない。記者が個人アカウントを利用して読者に支援を呼び掛けた。わが社は後日、シリアの子供たちを助けているトルコの子供支援団体( Hayata Destek)に 献金を呼び掛けただけだ」と説明している。

同誌はレロティウス記者に随伴したトルコ・イスタンブール出身の報道カメラマン、エミン・エツメン氏(Emin Ozmen)に質問している。同氏はレロティウス記者のルポ記事を初めて読み、「2人のシリアの子供は姉弟ではないよ。孤児でもない。もちろん、2人はドイツに養子にも行ってはいない。トルコ南東部の都市ガズィアンテプに住んでいるよ」というのだ。ルポ記事のように、子供は母親の死体を手で埋葬していない。母親は生きているからだ。

アメッドの家族と接触のあるエツメン氏は、「すべて嘘だ。アメッドは電気技師として同じ町で働いている。アリンという名前の姉は全く知らない。アメッドには姉はいない」という。すなわち、ルポ記事の内容の多くは記者の創作だったわけだ。

2人のシリアの孤児のかわいそうな運命に心を動かされたドイツ国民は子供を支援したいという声をシュピーゲル誌編集部にメールや手紙で送ってきたという。それほどルポ記事の内容は感動的だったわけだ。

レロティウス記者は別のメディアに、「2人のシリアの子供は現在、ドイツのニーダーザクセン州の小さな町でドイツ人家庭の養子として成長、アリンは15歳、アメッドは間もなく14歳になる。2人はドイツ語を学ぶ一方、シリアで体験した両親の死などの悪夢から解放されるために精神的療法を受けている」と詳細に説明している。

同記者の過去の記事を検証していけば、多くの捏造、創作が今後も見つかるだろう。驚かされることは、繰り返しになるが、欧州の高級誌を誇るシュピーゲル誌がなぜこれまでレロティウス記者の捏造、創作活動に気が付かなかったかという点だ。トランプ米大統領のフェイクニュース報道に専念するあまり、自社の編集記者の捏造記事までには頭が回らなかったのかもしれない。

レロティウス記者のルポ記事を読んでも分かるように、その表現は文学的であり、詳細だ。北朝鮮問題を取材していた時、北専門家の一人が、「嘘をつく者はどうしても長々と説明しようとする。その内容は詳細に及ぶ。なぜならば、嘘だからだ。真実の場合、あまり説明はいらない。詳細な説明がついた情報には気を付けた方がいい」と語ったことを思い出す。レロティウス記者のルポ記事はその意味で典型的な捏造記事だったといえるわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年12月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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