米医師国家試験レポ:医療面接30分×模擬患者12人=6時間のテスト

第三章各論 プラス2000円で英語を勉強するモチベーションを買う

前回はUSMLEのSTEP1、STEP2CKについて説明しました。今回はSTEP2CSとSTEP3についてです。前回も言いましたが、あまり参考にはなりません。

STEP2CSの試験内容は、今までとはガラッと変わり医療面接形式になります。模擬患者を相手に問診、身体所見、ある程度の鑑別診断を付けてカルテを書く――の全てを制限時間30分以内に行います。そして、その30分サイクルを12人分ひたすら繰り返します。受験者は診察を、摸擬患者はお腹痛い演技を、それぞれ6時間ほぼぶっ通しで続けるという誰も得をしないテストになっています。

実際の試験の流れですが、まず試験の簡単な説明があり、その後、12個の部屋が壁に並んだ大広間に連れて行かれます。担当の部屋の前にそれぞれ受験者が立たされ、合図があるとそこから時計回りに1部屋ずつ回って行く感じになっています。試験はノックして入るところから始まり、部屋に入った時のあいさつの仕方、座り方、話し方、アイコンタクトの仕方、気の使い方、手の洗い方、ガウンの掛け方など一挙手一投足が評価の対象となる面白いかつ辛い試験です。

模擬患者はさまざまですが、皆結構マジで演技してきます。入って通常通り話ができる奴がいれば割とノーマルケースですが、中には電話だけが置いてあって患者からの電話に対応をしなくてはいけないケース、母親が電話で子供の症状を話してくるケース、何も喋ってくれないケース、突然怒鳴り出すケースなど意地悪問題も色々とあるみたいです。全く喋ってくれない人でも正しい問いかけ、例えば「安心して、何を言っても秘密は守るから」などを繰り出すと、わーっと話し出すみたいなドラクエ的ケースもあります。

僕も試験中、全く何も喋ってこない模擬患者がいたので「大丈夫だよ、なんでも言って」と優しさスマイル満点で言いましたが、最後まで多くは語ってくれませんでした。おそらく何かが足りなかったのでしょう。僕が実際に受けたテストでは、12人中病名がある程度分かったのは6人くらいで、残り半分はよく分からないままなんとなく話聞いて、なんとなく診察して、なんとなくカルテ書いて終わりました。

テストであれば、必ず客観的な採点方式があるはずです。しかしながら、プロとはいえ模擬患者が医療面接の優劣を客観的に判断するのは非常に難しく、おおむね加点方式、すなわち何をしたか(自己紹介したか、手洗ったか、目を見て話したか)、何を聞いたか(症状がいつ、どこで、どんな感じで起こったか、など)や、何を言ったか(安心させるような声かけ)など、具体的な有り・無しの採点項目がテストの中に隠れているのだと思います。

CSの勉強を始める前の僕は「英語での会話なんてとても無理だ」と思っていましたが、この事実になんとなく気づいてからはいかにこの点数をもれなくゲットしていくか、に注意して練習をしていくようになり、それが意外とゲームみたいな感覚で楽しかったです。嘘です、すごい苦痛でした。

試験の練習方法ですが、もちろんその場で適切な英語フレーズを思い付くはずもないので、本番で使えるフレーズ集を数十作りました。そして、その数十あるフレーズを丸暗記していつでも適切にアウトプットできるよう訓練しました。同じようなことを聞くにも色々な聞き方が存在し、勉強すればするだけ余計なフレーズが増えてくるので、最初の方からできるだけ一つのフレーズに絞っておくことが最も無駄のない方法であると思います。

僕が最もこの試験において重宝したフレーズは、相手が何を言っているのか全くわ分からない時(よくある。ほぼ7割くらい分からなかった)のフレーズです。「それは大変ですね。分かります。うんうん。でも大丈夫!僕はめっちゃいい医者で、あなたはめっちゃいい病院にいるから安心して。それで…..」と自分の聞きたいことにすり替えるというテクニックです。当時はCS用に練習していましたが、意外と現実世界でも使えるもので結構外来などで使用している医師も多いのではないかと思います。

最近USMLE に受かっている=英語できる人=に勘違いされる傾向があり、「英語をどういう風に勉強したら先生みたいに英語ペラペラ人になれますか?」とよく聞かれます。英語下手とはいえ、僕も色々な英語勉強法を試してきており、教科書から始まり、単語帳、ラジオ、テレビ、ビデオ、スカイプ、駅前留学、家庭教師、などなど、さまざまです。その中で最も効果的だったもの、というのは特にありません。CS受験前には家庭教師派遣サイトに登録している外国人と契約して面接の練習相手になってもらっていました。

ところが、大体1時間2000円から3000円が授業料の相場の中、時に4000円、5000円の値段を提示している人たちがいました。その人たちは大抵若くて綺麗なイケイケ外国人女性なのです。基本的に値段設定は個人で決めているため、「君ならもうちょっと高くてもイケるよ」と会社側からワル知恵が入っているのか、「私は可愛いからプラス2000円くらいにしちゃお」と自ら思っているのか、その真実を知りたいところです。

同じことを教わるのに2000円プラスはバカバカしい、と思っていましたが、人間って本当に不思議なもので、気づくと5000円の家庭教師を選択している自分がいました。悲しい習性ですね。ところがこれが意外と英語を学ぶのに有効だったみたいで、「きれいな先生をご飯に誘うぞ」をモチベーションに頑張って英語の勉強ができました。プラス2000円の価値はここにあるのかもしれません。

また、それとは別にSTEP2CSを教える怪しげな家庭教師というものがネット上に多数存在しており、僕はDr.PUMAというこれまた怪しげなインド人に頼んで家庭教師をしてもらいました。僕が知る限り、彼の授業を受けた人は皆STEP2CSに合格しています。非常に怪しげですが。

最後にSTEP3の話ですが、もうUSMLEに飽き飽きしていたのと、範囲が広すぎて何やったらいいのかが分からず、全く勉強のしがいがありませんでした。例にならってネット問題集をやりまくりましたが、STEP3ほど問題集をいくらやっても点数が上がっていく感じがしないテストもありませんでした。また、この頃になるとUSMLEとの付き合いもえらく長くなってきており、「もういい加減にして」という投げやりモード全開でした。


編集部より:この記事は、シカゴ大学心臓胸部外科医・北原大翔氏の医療情報サイト『m3.com』での連載コラム 2018年12月2日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた北原氏、m3.com編集部に感謝いたします。