日本のキャッシュレス決済競争は壮大な茶番である --- 小林 由弥

2018年12月29日 06:00

昨今の新決済ブーム、特にQRコード決済(バーコード決済)競争は激化の一途を辿っています。先日のPayPay100億円あげちゃうキャンペーンは想定以上の決済が実行され、当初約4か月間を予定していたキャンペーン期間を大幅に前倒して開始10日間で終了となりました。

PayPay公式サイトより(キャンペーンは現在終了:編集部)

一方でこの還元が転売目的の個人やせどり業者が目をギラギラさせてかすめ取ろうと必死になっていたのも印象的でありました。

私もこうしたブームに一瞬心躍ったものの、それでもQRコード決済が広く一般に普及するイメージは持てず、むしろ日本における普及の難しさをあらためて考えさせられたような思いを抱きました。

QRコード決済が普及しないと考えるのは「日本が既にキャッシュレスインフラが整た社会であるにもかかわらず、キャッシュレス決済比率が低調という確固たる事実があるから。」です。

例えば大手コンビニチェーンのセブンイレブンでは、こちらに記載の通り、多様なキャッシュレス決済が既に対応済みで選び放題です。

今やほぼ全てのコンビニやスーパー、小売店、ネット決済ではクレジットカードを含む多様な決済手段が選択可能で、キャッシュレスでの決済が可能な社会になっています。

それにもかかわらず、日本でキャッシュレス決済比率が低いのは、日本では「現金決済が積極的に選択され続けている」としか考えられません。

昨今注目されているQRコード決済はこれまで既に多種多様に存在していたキャッシュレス決済の選択肢に一つや二つ新しいものが増えたという程度のことでしかなく、まるで新市場があるかのように盛り上がっている新決済競争は、なんだか壮大な茶番劇を繰り広げているような気がしてならないのです。

では、なぜ日本では現金決済が選択され続けてきたのでしょうか。その背景には、(実態はともかくとして)日本円の貨幣価値が簡単には毀損せず、かつ流通貨幣は偽造されたものではないと強く信じられている点が大きいでしょう。そのため、対面上の現金決済において、その取引の信用や信頼を担保する第三者が介入する余地がほとんど無く、現段階では(paypay100億円還元のような)実弾ばら撒きや還元率勝負でしか利用者を引き付けられないのが現状です。QRコード決済を提供する各社が早くも赤字覚悟の還元率競争に陥っている様子を見れば、そうした根本的な問題が既に露呈しているように思えてなりません。

一方で、これだけ信頼されている現金決済であっても、EC(ネット通販)においては圧倒的にクレジットカード決済が採用されています(経済産業省「電子商取引に関する市場調査の結果」)。

もちろん遠隔地へ現金を受け渡すことの困難さもさることながら、取り引き時点で相手の素性が分からず、商品の現物も見えない状況においては、その取引の信用を担保(不正時の補償など)する第三者の存在が意義を持つからにほかなりません。

結局のところ、現金とキャッシュレスのどちらが良いか、という二元論ではなく、取り引きのその瞬間に採りうる決済手段の中でどれが最も信用を担保でき、オペレーションストレスが少ないか、という相対的な問題であって、日本では対面上の商取引で貨幣決済が圧倒的に信用され、積極的に選択され続けているという話でしかないのです。

このあたりの記事でも指摘されていますが、キャッシュレス先進国と言われる中国でQRコード決済が急速普及したのは、貨幣に対する信頼が著しく低いことに加え、クレジットカード決済がまだ広く普及していなかったことが要因である可能性が高く、真逆の状況である日本において中国と同様の普及が期待できると仮説立てるのは、あまりにもリサーチが表面的過ぎるのではないでしょうか。

また、キャッシュレス決済の優位性としてよく指摘される決済オペレーションのスマートさにおいても、日本では現金決済を前提としたオペレーションがガラパゴス進化を遂げてしまっており、キャッシュレス決済に負けない決済フローを実現しています。

機能面では、自動釣銭機付きレジや現金セルフレジの導入がどんどん進んでおり、人の介在が最小限で済むようになりつつありますし、決して高機能ではないレジでも実際に外国人や学生アルバイトでも十分にオペレーション可能な操作性を実現しています。

そのうえ、商品を買い代金を支払う客側が、当たり前のようにお釣り最適化(お釣りの端数が最もシンプルになるよう気遣ってお札と小銭を一緒に手渡す行為の俗称)をするなど、もはや現金決済を通じて高次元の心理コミュニケーションを楽しんでいると言っても過言ではありません。実際にこうした支払方法をするとお店は小銭が減らずにかなり助かるそうです。

決済を通じてこんなウェットな親切心のやり取りをしている日本人というのは、やはり島国で独自の精神進化を遂げた尊い存在だなと思うわけです。(ちなみに諸外国では計算が面倒ということで逆に迷惑がられるそうです。)こうした日本人の国民性も、現金決済が行われる一つの要因かもしれません。

こうなるともはや日本はキャッシュレス後進国などではなく、キャッシュ決済先進国ではないかとすら思えてきます。

一方で、昨今話題のQRコード決済はどの程度スマートなのでしょうか。実際のオペレーションをシミュレーションしてみても、決済方法を店員に伝え、スマホを取り出し、アプリを探し、起動し、残金が足りていることを確認して、バーコードを店員さんに読み取らせる、という非常にプロセスが多いフローになっていることが分かります。

確かに、事前に残金を確認してバーコードを表示した状態にしておけば悪くはないかもしれませんが、現金やクレカ、SUICAよりスマートだと言えるでしょうか。

私にはむしろ決済プロセスとしてのUXが進化しておらず、むしろ退化しているよう思えてなりません。せいぜい家電量販店のポイント蓄積アプリと同程度ではないでしょうか。

そのうえ、アプリの強制アップデートや自然災害による停電リスク、通信障害リスクなどを考えれば、決済ができない可能性をはらんだ危険な決済手段であると言えます。

後発の決済手段が増える以上は、是非ともリスクが低く信頼性が高く、かつ従来より遥かにリーンな(無駄のない)消費プロセスが実現されることを期待したいものです。

かくいう私自身は、長らくIT業界に身を置きながら新しいサービスが世の中を変えていく瞬間を楽しみながら見続けてきた一人として、是非とも使いたくなるような新決済が世の中を席巻してもらえたらなと切望してなりません。

個人間送金の利便性がもっと高まったり、暗号通貨のように独自の貨幣価値を持つようになったり、もっとお金を自由にコントロールできるようになれば、世の中もっと面白くなるだろうと思いつつ、決済と貨幣と人間との関係については引き続き興味を持っていこうと思っております。

小林 由弥(こばやしよしや) 株式会社こどもの未来 代表取締役
1981年生まれ。二児のパパ。IT上場企業でサービス企画、事業企画を10年以上経験。現在は児童福祉施設の経営者として奮闘中。

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