パチンコの特性とギャンブル依存症

堀江 和博

2019年、年末年始ギャンブルに興じた人も多かったのではないか。昨年IR実施法が可決・成立したこともありギャンブルについて論じられる機会が増えた。2025年大阪万博も決定したことで、いよいよ我が国初のカジノ開業に向けて動き始める。

その一方でギャンブル依存症についても多くの指摘がなされてきた。厚労省は、生涯で依存症が疑われる状態になったことのある人は約320万人(3.6%)と推計しており、国や自治体あげての依存症対策が望まれている。

ただ依存症といってもカジノばかり論じていても不十分だ。カジノ以前に、最も利用者の多い「パチンコ・パチスロ」について対策を進めなければ根本的な解決に至らないことは明らかである。

本稿では、ギャンブルの中でも利用者の多い「パチンコ」の特性について触れ、ギャンブル依存症について考えてみたい(尚、本稿ではギャンブルの細かな定義については触れない)。

日本人に身近なパチンコ

依存症の入り口はパチンコが多いと言われる。その理由は「店舗数の多さと身近さ」だ。10数年前より2割以上減少しているが、未だ1万弱もの店舗が営業している。その多くは繁華街や表通りに立地しており、ギャンブルをしたことがない人でも一度は店舗の前を通ったことはあるはずだ。

国立病院機構久里浜医療センターが実施した調査(2017年5~6月)では、ギャンブルの中でお金を費やした対象はパチンコ・パチスロが最多、また最もお金を使った対象もパチンコが最高額であった(平均1カ月5万8000円)。

我々にとって身近なパチンコだが、「身近さ」だけが際立った特徴ではない。特性は別にもあり、それこそが依存症に直結するものと思われる。ヒントは「当せん額の期待値」である。

パチンコは最も当たりやすいギャンブル

「最も当たりやすい」と言うと語弊があるかもしれないが、実のところ統計学的にはパチンコが最も当せん額の「期待値が高いギャンブル」であると言うことが出来る。

分かり易く説明するために、まずは「宝くじ」を例にしてみたい。この年末、「年末ジャンボ宝くじ(第770回全国自治宝くじ)」が1枚300円で販売されたが、その発行額は24ユニット・1440億円であった(宝くじ公式サイト)。等級別の確率を割り出すと以下となる。

上記を見れば、宝くじの「99%」が「はずれ か 7等」であることが分かる。仮に100枚3万円分を購入すると、89枚ははずれ、10枚は300円、残り1枚が運よく3000円になるかならないかといった具合である。統計学者の間で「多空くじ」と揶揄されるゆえんである。

次に、宝くじ当せん金額の「期待値」を割り出してみたい。期待値は、1等(7億円×0.000005%)+2等…..+はずれ(0円×88.878475%)と順に足し合わせていくと計算できる。

計算の結果、期待値は「147.495円」となった。つまり、300円の投資に対して、期待できる報酬は「147円」しかないのである。これは24ユニット全て完売した場合、1440億円の半分約720億円は当せん金として購入者に還元され、残りの約半分は収益として上がっているということを意味している。

ギャンブルと大数の法則

宝くじを含むあらゆるギャンブルの背景には、統計学における「大数の法則(Law of Large Numbers)」が存在している。ギャンブルは大数の法則に基づいたビジネスであり、最終的に運営元が必ず儲けるように出来ている。運営元は、ギャンブルの控除率(利益や経費として差し引く分)を調整して事業を行っている。控除率の違いが、ギャンブルの種類の違いとも言うことが出来る。

ギャンブルにおいて、まぐれあたりはないわけではないが、十分に多くの回数同じ賭けを繰り返せば、賭け1回あたりの損得は期待値に収れんし、損得の標本平均が期待値から少しでも離れる確率は0に限りなく近づく。

(引用:浅野耕太『政策研究のための統計分析』2012ミネルヴァ書房)

ギャンブルの利用者もこの法則から逃れられない。ギャンブルに興じれば興じるほど、必ず負ける方向に進んでいく。ゆえに、興じているギャンブルがどのような「期待値」にあり、成り立っているビジネスか知ることは非常に重要なことなのである。

当せん金額の期待値が高いパチンコ

では、その他ギャンブルの期待値はどうなっているのか確認しておこう。

上記のとおり、宝くじや競馬・競輪などの公営ギャンブルなどは低めの期待値となっている一方、パチンコの期待値は高い。つまり「パチンコは他ギャンブルに比べ、当たる可能性が高い」ことを示している。

ほとんど当たらないギャンブルに魅力を感じることはないであろう。ほどよく当たるパチンコは利用者の脳の報酬系を刺激し、快感をもたらす。強い快楽を覚えた脳は、次の快楽を求める。負けても「この前は大当たりした」「次こそ当たる」と期待し、結果として「やめられない」依存症に陥るのである。

当せんの可能性が高いことは良いことではないかと思うかもしれないが、常連になり回数を重ねれば重ねるほど、前述した「大数の法則」が機能し、期待値に収れんしていく。続ければ続けるほど、最終的に損をするのだ。

当せんの期待値と依存症対策

当たりやすいギャンブルほど利用者も多いし、脳の報酬系を刺激する機会も多いことからギャンブル依存症に陥る可能性も高いと言える。

パチンコのように控除率が低くめで「当たりの期待値が高いギャンブル」は、一見利用者にとってメリットしかないように思いがちであるが、依存症へのリスクは高いことを認識しておく必要がある。

そういう意味ではカジノにも注意が必要だ。海外の例を参考にすれば、カジノもパチンコと同様に控除率が数%のものが多いからだ。公営ではないため控除率や還元率を決めることは難しいが、法案では日本人客のカジノ入場を週3回月10回まで、マイナンバーカード確認、入場料を6000円にするなどハードルを上げることで対策を行っている。

国は今年4月までに「ギャンブル依存症対策の基本方針」を定めるとしている。政治的タブーを乗り越え、カジノのみならずパチンコなどの期待値が高い従来のギャンブルについても、国のみならず地方自治体も巻き込んだ抜本的な対策となるように進めてもらいたい。

堀江 和博(ほりえかずひろ)
1984年生まれ。滋賀県出身。京都大学大学院公共政策教育部公共政策専攻。民間企業・議員秘書を経て、日野町議会議員(現職)。多くの国政・地方選挙に関わるとともに、政治行政・選挙制度に関する研究を行っている。
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