独週刊誌の前東京特派員が伝える憂鬱な「日本」

2019年01月05日 11:30

独週刊誌シュピーゲル最新号(12月29日号)には昨年まで東京特派員を務めた後、ドイツに帰国したヴィーランド・ヴァーグナー(Wieland Wagner)氏の日本駐在時代の思い出が綴られていた。記者は1959年生まれ。学位論文は「東アジアの日本の拡大政策について」だった。1995年から同誌の東京特派員となり、上海、北京、ニューデリーなどアジア諸国での駐在を経た後、2014年から東京支局に再び戻った。シュピーゲル誌が誇るアジア問題の専門記者だ。

独週刊誌シュピーゲルの前東京特派員ヴィーランド・ヴァーグナー記者(シュピーゲル誌から)

記事には言及されていないが、ヴァーグナー記者は駐在中、現在の奥さんである日本人女性と知り合い結婚したのだろう。記事には東京西部で傘修繕業を営む義父が登場する。義父は昨年91歳で死去したが、記者は「自分にとって第2の故郷・日本の大切な部分を失った」と述べている。終戦後、懸命に生きてきた日本人の代表として義父を描いている。義父は終戦後、荒廃した国を立て直すために汗を流してきたが、最近は「国が崩れてきた」と感じていたという。ちなみに、義父は東京で傘を修理する数少ない職人だった。

記事のタイトルは「空気を読む」(Die Luft lesen)だ。記者は日本を「大きな成果を達成したが、今は落ちぶれた博物館となった国」と描写している。日本は連帯して働き、欧米の企業に追いつき、追い越していったが、「日本は今、高齢化する社会を刷新し、新しい未来のビジョンを発見しなければならない時点に達している」と分析する。

ヴァーグナー記者は1980、90年代のバブルが崩壊する前後に日本の駐在記者生活をスタートした。バブル経済の華やかさとポスト・バブルの社会の変動を目撃した。記者はこれまで引きこもりをテーマとした記事やオウム真理教のサリン事件、福島第一原発事故と津波で破壊された町のルポ記事をシュピーゲル誌に掲載している。記者は「日本人が大災害に遭遇したとしても直ぐに普段の生活に戻る姿、犠牲者も災害を運命として諦観していく姿に驚く」と述べ、「日本人は調和を最も大切とする国民だ」と気が付く。

記者の日本の未来像は明るくない。日本の人口減少は深刻だ。若者が少なくなる一方、人口の4分の1以上が65歳以上で占められる高齢社会だ。東京の人口は昨年39万人減少した。世界の都市の中でもまれな大変動に直面している。

シュピーゲル誌より引用:編集部

会社に一生を委ねてまじめに働いていれば、なんとか生活ができた時代は終わった。不足する労働力を補う外国人労働者の姿が多く見られだした。日本政府は今年、もっと多くの外国人労働者を招く計画だ。

長い年月、日本に住み、社会の変遷を目撃したジャーナリストらしく体験に裏付けられた話は説得力がある。記者は、「日本には民主主義の発展に欠かせない議論や討論する文化はない」と言い放つ。日本社会では「空気を読む」ことが生きていく上で重要となる。その空気を読めなければ社会から孤立し、落ちこぼれとなっていく。記者は日本社会のキーワードとして「空気を読む」を選び、その記事のタイトルにした。

安倍晋三首相は、2020年の東京夏季五輪大会を契機に「老い、疲れた国・日本を再び活気ある社会」にするためインフラに投資する一方、国民を鼓舞しているが、ヴァーグナー記者は安倍政権の政策を一種のバラマキ政策と受け取り、後の世代に巨額な債務を残すだけだと批判的に受け取っている。記者は、「安倍政権を見ていると、1980年代のバブル時代の日本を思い出す」という。

同記者は日本駐在期間の総括後、「日本が行く道はこれまで以上に大変だ。20年東京夏季五輪大会後、日本はどうなるのだろうか。幸い、自分はもはやそれらの動向をフォローして記事にしなければならない義務はなくなった」と述べている。

当方は日本が急激な人口減に直面し苦慮していることは知っていたが、記者は日本に住んでそれらを肌で感じてきたのだろう。彼の書く日本の未来像は当方がウィ―ンで漠然と感じてきた以上にリアルで、事実に近いのだろう。

ひょっとしたら、シュピーゲル誌の記者が5年でドイツに帰国していたならば、もう少し明るい日本像を描けたのかもしれない。ヴァーグナー記者は東京で家庭をもち、日本の変動を目撃した外国人ジャーナリストとして、よく知られている“日本の美しさ”ではなく、日本社会がいま対峙している問題点をどうしても指摘しておきたかったのだろう。それは、同じ国に長く駐在した外国人記者の義務感から出たものというより、第2の故郷となった駐在国(日本)への熱い思いを込めたメッセージだったのではないか。当方はそう受け取っている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年1月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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