平成最後のイッテンヨン 新日本プロレスの野望は止まらない

常見 陽平

プロレス初詣企画、新日本プロレスの「イッテンヨン」東京ドーム大会に今年も行ってきた。同社のTwitterアカウントによると、1月1日の段階で前売りが昨年の動員数である34,995人(実数)を超えており、久々にドームでのプロレス興行での規制退場が復活するなど、話題になっていた。同社のサイトによると、今年の動員は38,162人(満員・実数)だったそうで。残念ながら、超満員にはならなかったものの、それでも「入っているなぁ」という感じだった。本編開始1時間前から始まる第0試合の段階でぎっしり埋まっていた。

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※なお、会場でもアナウンスされたが、同社は「動画」の撮影やネット投稿は禁じているが、「写真」は自由とのこと。そのため、私もブログ、当日、個人のiPhoneで撮影した写真を貼り付けることにする。

ニュース番組やドキュメンタリー番組でプロレスが取り上げられる機会も増えた。その中で、「プ女子(プロレス女子)増加中」などと報じられているが、あくまで私が観戦していた2階席に関しては「男だらけ」という印象だった。男子トイレが今までの人生で体験したことがないほどの長蛇の列。私のような80年代にゴールデンタイムを、90年代にドームプロレスを体験した世代が、仲間や家族を連れて戻ってきているようにも見えた。あくまでこの日の体感値だが。ひょっとすると、より高い席ほど女子率が高いのかもしれない。

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第0試合の4チーム対抗6人タッグガントレットマッチですでにヒートアップ。かつてのIWGPチャンピオン永田裕志、鈴木みのる、真壁刀義などのスターが出るという贅沢仕様。その後、ルール講座や、マナーに関するアドバイス映像まで流れていた。初観戦の人にも役立つものだった。

本編開始前に場内が湧いたのは、2019年から2020年にかけてのビッグマッチスケジュール。ニュージャパンカップ決勝戦をNYのマジソン・スクエア・ガーデンで開催!NY進出、しかもいきなりMSGとは!さらに、ベストオブスーパージュニア決勝を両国国技館で、G1クライマックスの開幕戦をUSで、G1決勝戦は昨年同様武道館3連戦、UK大会の開催、地方大会も大会場の2連戦多数・・・。さらに!来年の正月の東京ドーム大会はプロレス・格闘技史上初の2連戦!この発表で、場内には万雷の拍手が。

この段階で、私はファンとして大きく感動するとともに、その企業姿勢に安心した。ブシロードが新日本プロレスリング株式会社を子会社化したのが2012年の1月。あれから7年。業績はV字回復し、昨年の売上は過去最高の49億円となった。プロレスブームも再来した。しかし、これ以上、何を目指すのかという疑問があった。一方、プロレスにおいてもグローバル競争が起こっている。より大規模な活動をし、ファイトマネーをあげなくては売上が12倍以上とも言われている世界一のプロレス団体、WWEに選手を引き抜かれてしまう。実際、新日本プロレスからも選手の流出が目立った。

これだけのビッグマッチをプランするならば、目玉カードも用意するだろうし、大物選手の引き抜きもあるだろう。すでに新日本プロレス出身でWWEで活躍する中邑真輔選手が、契約満了に至った場合、Uターン参戦するのではという憶測が流れていたりもする。

ブシロード体制になって7年。次の大きな夢を描いていて安心した。

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開始前にすでにテンションも上がりまくり。

カードは豪華そのもので、内容も含めておなかいっぱいだった。古くからのファンからは、第1試合から盛り上がりすぎること、大技を出しすぎることについての違和感も聞こえる。もっとも、昨年と比較しても飽きさせない、時間を感じさせない濃い内容だった。

特に、第7試合のオカダカズチカ対ジェイ・ホワイトのスペシャルマッチ、Wメインイベントのクリス・ジェリコ対内藤哲也、ケニー・オメガ対棚橋弘至は圧巻だった。チャンプを降りたオカダカズチカに吹っ切れた魅力を感じた。試合では最後に大逆転を許したが、内容面、会場人気ではオカダが圧倒していた。

日本の団体で成長し、WWEで大ブレークしたクリス・ジェリコと、ここ数年大化けした内藤哲也の試合は「成熟したハードコアマッチ」とも言えるものだった。互いの華、毒が良い化学反応を起こしていた。

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「イデオロギー闘争」というテーマで行われたケニー・オメガ対棚橋弘至は、まさに平成のプロレスを総括する内容だった。昔の新日本プロレスを思わせるような地味な攻防で始まったのが印象的だった。途中、ケニーならではの大技やラフファイトも見られたが、棚橋はそれを受け続けつつ、自分のプロレスを貫いた。最後のハイフライフローでは会場全体が一体となって熱狂した。「もうここに戻ってこれないかもしれないと感じることもあった」というMCは胸熱だった。実に久々に東京ドームで彼のおなじみの掛け声「愛してまーす」を叫ぶことができ、涙、涙だった。

素晴らしいプロレスお年玉に感謝。

そして、次の夢も。

このうねりが業界全体に及びことを今年も祈っている。プロレスブームと言いつつ、所詮、新日本プロレスブームだからだ。

平成最後の数ヶ月、そして新しい時代を、プロレスの時代にしよう。世界に通じるコンテンツにしよう。何より、いつもそこにあり、人々を勇気づける存在であり続けますように。


編集部より:この記事は常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2019年1月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。