目下好調の米経済、日本のバブルの轍を踏むのか

藤巻 健史

4日発表された12月の米雇用統計は非常に強かった。雇用統計は景気把握で最も重視される数字だ。非農業部門雇用者数は前月比31万2000人増(市場予想18万4000人増)で完全雇用下においては強烈な数字だ。労働市況改善の中で唯一改善が遅れていた平均時給も前年同月比3.2%増と、市場予想(3.0%増)を上回り、加速してきた。米国経済は強い。

Andreas Komodromos/flckr:編集部

この米経済の力強さを支えてきたものは、資産効果だっただろう。株や不動産価格が上昇すると、これらを保有していた人がお金持ちになり消費を増やす。それをみて株価がさらに上がり、それがまた消費を増やすという好循環が生まれることだ。

日本のバブル(1985年―90年)はその典型である。株と不動産の高騰(千代田区番町の第1種住専地域が1坪6000万円で取引されたという話もある)があの狂乱経済をもたらした。消費者物価指数(前項総合))は今、日銀が目標とする2%よりはるかに低い0.5%だった(1986-88)にもかかわらずの狂乱だった。

私のtwitterの読者の仮想通貨保有者からも感覚的によくわかるとのメールをいただいた。昨年の仮想通貨下落で保有者の消費マインドは急速に冷え込んでいると思われる。

米国株は秋までは史上最高値圏にあり不動産も極めて力強かった。その結果が、強い雇用統計として現れたのだと思う。まさに日本のバブルの資産価格高騰の結果が完全雇用をもたらしたのと同じ流れだ。

ただ米国株は市場最高値の昨年秋より13%下落している。この逆資産効果もそれなりに大きい。今後、数か月の間は、労働統計はじめ経済指標は少し弱めの数字が出るかもしれない。しかし私は程よい調整になりかえってよかったと思う。日本のバブルのように調整なく暴騰するよりよほどに健全だ。米国経済の強い基調は変わらないと思っている。

「イールドカーブがフラットになった。逆イールドになった。このイールドカーブは景気の先行きが不安なことを表しているという論者が多いが、そうは思わない。

日銀ほどではないにしても、FRBも大量に米長期債を買ってきた結果のイールドカーブフラット化だからだ。私が金融マンの時は中央銀行は長期債など(成長通貨と言って将来吸収する必要のない量しか)買っていなかった。イールドカーブで景気の先行きを読めることができるのは中央銀行などの市場原理の働かない参加者が退場したうえでの話だ。FRBが出口に向かっているので米長期金利は急速に上がっていく(価格は低下)と思っている。

日本のバブルの際は、日銀は低いCPIに目を奪われ資産価格の高騰を見過ごし引き締めが遅れた。澄田日銀元総裁もそのことに対し反省談話を出している。FRBも日銀と同じ間違いを起こしているかのように見えるが、私は日銀のバブル時の失敗を充分勉強していると思っている。

もし米株価がさらなる大幅下落を続けないのなら、着実に利上げを継続し、異次元緩和からの出口を探っていくと思う。史上最高値圏の株価や強い不動産に比し、金利があまりにも低すぎるからだ。長期債マーケット(10年物)も昨日は2.54%から2.67%に上昇という形で反応した。日本の長期国債金利はシミ程度しか上げられないだろうから日米金利差拡大で、為替は再度ドル高円安方向に戻っていくと思う。

それにしても昨年末、年初の市場動乱でわかったことは、財政危機を回避するために行った異次元緩和という飛ばし(=危機の先送り)のせいで 日銀は、景気が悪くなっても良くなっても、何も出来なくなってしまったということだ。金融政策の観点から言うと、日銀はもう死に体で、政府の単なる紙幣印刷所に過ぎなくなってしまった。

(注:異次元緩和はデフレ脱却目的との公式発言だが、本来は財政ファイナンス(政府の資金繰り)目的である。ギリシャやイタリアはユーロ紙幣を刷れない(=ヨーロッパ中央銀行のもが刷れる)ので各国中央銀行は紙幣を刷って各政府を助けられない。財政赤字が極大化するとお手上げになる。一方、日本はお金が不足すると異次元緩和と言う名目で日銀が紙幣を刷って政府に渡し資金繰り倒産を防ぐ。その結果、財政破綻は防止できるが、日銀が世界の中央銀行で最もケタ外れのメタボ(=バランスシートの極大化=お金のバラマキ過ぎ)になってしまった。その意味で危機の飛ばしである)


編集部より:この記事は、経済評論家、参議院議員の藤巻健史氏(比例、日本維新の会)のFacebook 2019年1月5日の記事を転載させていただきました。転載を快諾された藤巻氏に心より御礼申し上げます。