妻が政治に挑戦することによる、夫が受ける眼差し

駒崎 弘樹

お正月休み、のんびり露天風呂に入っていた。

そしたら、Apple Watchが鳴る。
電話持ってなくても、着信が分かるようになってて。便利なやつだ。

見ると、お世話になってる国会議員の方から。
()内は心の中で思っただけのこと

駒「あけましておめでとうございます。どうされましたか?(正月なのに)」

議員「すいませんね、正月明けから。うちの地方議員から『駒崎さんの奥さん、政治の世界に挑戦するらしい』って話が来てね。」

駒「はい、そうなんです。僕もびっくりで。いやー、人生って色々あるんですね。はははは」

議員「その地方議員曰く『そうなると、駒崎さんにも政治色付いちゃうから、おつきあい的にどうなのか…』ってね」

駒「え?(えっと、僕は妻じゃないんですが)」

議員「自民党の世耕大臣と、民主党の奥さん、みたいな例もあるし、別々なんだけど、政治ってまあそういう人間関係みたいなところあって。ご本人と話してみたらどうかな」

最初は気づかなかったが、その国会議員の方は、親切心でアドバイスしてくれたようだった。ちゃんと関係する地方議員に説明した方が良いよ、と。じゃないと、地方議員は付き合いを控えるかもしれないから、と。

あぁそっか、自分は無知だったな。ちゃんとご説明にあがらないと行けないのか。メモメモっと…。

って、何かおかしい。

なぜ夫と妻は別人格で、違う人生歩んでるのに、一緒くたに見られてしまうのだろう。

それによって付き合いをしたり、控えたりされるべきものなのか。

もちろん僕が青臭くて、「いやいや政治の世界はべき論じゃなくて、好きか嫌いかだから、まあそういうもんなんだよ」と言えばそう。

とは言え、それをそういうもんだ、としちゃうと、「夫に迷惑かけるから、政治には挑戦できない」っていって、ただでさえ少ない女性政治家が生まれることが阻害されちゃうことになるのではないか。

うん、やっぱりおかしい。はっきり言おう。
そう思って、その地方議員さんの携帯に電話して

「夫婦は別人格です」

「これからも変わらずよろしくお願いします」

とはっきり伝えたら、「こちらこそ、これからも是非よろしくお願いします」とのお返事。

そしてこの問題は一件落着、ふぅー、さあノンアルビールでも飲もうと思ったのだけど、ふと思ったのです。

自分は根っこのところで、何が嫌だったんだろう、と。
多分それは、自分が個として見られず、妻の従属物として見られたことではないか、と。

でもそれって実は、女性がこれまで感じてきたことなのではなかろうか。

「●●の奥さん」
「▲▲くんのママ」
「長男の嫁」etc…

っていう括りの中で、夫だったり子どもと同一視されて。

夫や「家」と同化するために、それまで使ってた苗字まで「普通に」変えないといけなくて。

たまたま、今回は自分がそういうシチュエーションになって初めて違和感持ったけど、でもそれって自分が女性だったら当たり前に受ける眼差しかもな…と。

女性の問題は、男性の問題ともどこかで繋がっている。
結局のところ、「みんな」の問題なのだろう。

夫婦や家族という社会的役割とは離れて、個として尊重される社会に。
それが夢で終わるのか、子どもの世代では昔話にできるのか。

正月くらい、未来を信じたいものだ。


編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2019年1月6日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。