総務省の働き方改革への挑戦 ~ まずは最初の一歩から --- 田中 佑典

2019年01月10日 06:00

1. はじめに

社会で最も働き方改革から遠いと言われる場所の一つに「霞ヶ関」が挙げられる。煌々と夜の東京を照らす明かり、うず高く積み上がった書類、真夜中のタクシー行列、クーラーの切れた灼熱地獄の執務室・・・これは、霞ヶ関の当然の景色であり、誰もが疑問には思えども、長らく変えられずにいた風景でもある。

永田町から見た“不夜城”霞ヶ関方面(写真AC:編集部)

しかし2017年、総務省が本気になってこの「霞ヶ関の常識」を変えようと仕掛けた。きっかけは一人の政務官の発案である。定期的に若手職員を招いて行っていたランチ会の中で、小林史明前総務大臣政務官は、霞ヶ関の働き方に強い疑問を持つようになった。

なぜ会議室を確保するのに何時間もかかるんだ、なぜ水を購入するのに何人もの決裁が必要なんだ。これを変えるにはトップダウンのイニシアティブが必要である-そう思った政務官は、他の政務も巻き込んで「総務省の働き方を変えるチームを作ろう」と提案したのである。

こうして、2018年1月、総務省の働き方改革への挑戦を行う「働き方改革チーム」が立ち上がった。社会全体としても働き方改革が叫ばれる今、公務員の働き方をどう実行していくか。一メンバーとして働き方改革チームの胎動を間近に見てきた身として、出来る限りありのままの議論をお届けしたいと思う。

2. チーム発足・白熱する議論

(1)第一回会合~切実なる改革への思い~

小林前政務官の音頭を受けてさっそく秘書課(人事課)に事務局が立ち上がり、メンバーの公募が始まった。事務局いわく最初は何人集まるか不安だったらしいが、蓋を開けてみれば、事務官から課長補佐クラスまで総勢25名が自ら志願。

今思うと、チームのための専属の事務局と職員が置かれたのは非常に大きかったように思う。もちろんメンバーは本業と掛け持ちでチームのタスクをこなしており、どうしても100%のリソースを割けるわけではない。そうした中、会合の準備や関係課との調整まで一手に担ってくれる事務局は、我々にとって心強い味方であった。

さて、第一回会合は各々の問題意識の共有からスタート。「子どもが生まれたばかりで・・・」「親の介護が・・・」事情は人それぞれなるも、切実なる働き方改革への想いを有した職員ばかりである。不満や改善すべき事項は付箋に張り、次回以降の議論に繋げていく。かく言う私も、長野県と東京の二地域居住をしていること、自分より若い世代が辞め始めていることがチーム参加のきっかけだったと紹介させてもらった。

小林政務官(当時、左)も交えた第一回の議論の様子

(2)第二回会合~なぜ働き方改革をするのか~

第二回会合では、問題意識の共有を図りつつ、何より「この働き方改革チームが何を目指すか」について議論を行った。単に楽になりたいだけなのか、それとも働き方改革にそれ以上の意味があるのか。十人いれば十通りの回答があるこの質問に対して、我々は3つの答えを出した。

①  「多様性を認め、生かす」こと

②  「職員個人の能力発揮」を目指すこと

③  「組織の活性化」を図ること

この3つの目標を見ていただければ分かるとおり、少なくとも総務省の働き方改革は、単に残業時間を減らすことではなく、「職員一人一人が自分の能力を活かすことの出来る働き方を実現し、その能力を有機的に連携させて組織を活性化させていくこと」を目指している。

ともすれば目的と手段を取り違えがちな働き方改革の取組について、最初に目指すべき方向を固めたことで、その後チームとしての一体感が醸成されたと思う。

(3)第三回会合以降~本格始動~

メンバーの負担も考え、全体会合は月に一度、計6回程度の開催があらかじめ見込まれていた。むろん6回だけで提言まで議論を集約させることは困難であるため、その間メンバー間で随時議論は進めなければならなかった。第三回会合以降は、課題認識からメンバーを3つの班に分け、より機動力のあるチーム編成を行った。

第一は意識改革班。霞ヶ関が変わらない理由の一つに、職員の意識があるのではないか、こうした問題認識から、意識改革に特化した班が一つ立ち上がった。個人的には、3つの班の中で最も重要なテーマである一方、最もハードルが高い課題がこの意識改革だったのではないかと思っている。

第二は業務改革班。霞ヶ関のみならず公務員業界全般として、フローに無駄が多いことがよくある。こうした業務についてフローの見直し&合理化を行い、標準化した具体的なやり方を各部署に提案していくことや、組織としての意思決定のスマート化を検討した。なお、筆者はこの班の一員であった。

第三はインフラ整備班。総務省は他省と比べてもテレワーク環境等が充実している省庁の一つではあるが、そのほか様々なツールを駆使し、勤務時間の柔軟化やモバイルワークの普及、 勤務、育児休業等の見える化等を進めていくための方法を検討した。

もちろん三つのいずれかに明確に分類されない業務もあるので、適宜別の班の議論に参加したりするなど連携しつつ、班ごとに議論を進めていった。

議論の過程では、先行した取組を実施する民間企業や団体に自主的にアプローチし、見学を行ったり、全職員向けのアンケート調査を実施したりした。特に、後者のアンケート調査は、対象職員の約4割以上が回答するなど、大きな反響があった。普段自分たちの置かれている現状を訴える術がないだけに、そこに記載されている内容は、職員のありのままの声そのものであった。結果的にアンケート調査は、幹部の方々に危機感を有してもらうとともに、定量的に説得するための貴重な材料となった。

(4)第五回会合以降~出来るものから少しずつ~

3つの班に分かれつつ議論を進める一方、チームで大事にしていた価値観の一つが「出来るものから着手する」ということであった。

得てしてこうした取組は、最初こそ熱が入れど、徐々に停滞していく場合が多い。その理由の一つは、「変わっている感」の欠如にあるのではないかと考える。むろん中長期的な取組は、それはそれで大事だが、今自分たちがやっていることに意味があると思えることが、モチベーションを維持するうえで不可欠なのではないかと思う。

そこで、各班で出たアイデアのうち、すぐに実行できるものは事務局につなぎ、政務官のイニシアティブの下実施していくこととした。

例えば、待ち時間の長いエレベーターのプログラムの改善や夜間の空調継続については、早速事務局を通じて担当課と協議を開始してもらった。全てが全て実現できたわけではないが、動きさえ感じられればメンバーもやりがいを感じる。この点でも、動き出しの取りかかりとして事務局と政務官の存在は大きかったように思う。

また、これには思わぬ副作用があった。実は、総務省の働き方改革チームに入るとなった時、当初周囲に目線は必ずしも温かいものではなかった。むろん敵視されているわけではないが、かけ声だけで終わる取組が多い中、そこまで期待されていなかったというのが本音だろう。

しかし、活動を継続するにつれて明らかに周囲の対応が変わってきた。空調の夜間稼働が開始したり、アンケート調査を実施したりした時には、多くの方から励ましの声をいただいた。「声を出せない自分たちの声を届けて欲しい」-そういう思いが詰まったメールをいただいたりもした。

みんな変わりたいと思っている、ただきっかけがない、声を出せない。その小さな一歩を踏み出せるようになるために、働き方改革チームは存在しているのだ。だからこそ、自分たちの活動は自分たちだけで簡潔させてはならない、アンケートでもヒアリングでも何でもいいから、職員を巻き込んで進めなければならない、そう痛感させられた出来事であった。

こうして、各班での議論を踏まえ、8つの方針と28の対応策が完成した。この中には、まだ引き続き議論を要するものもあったが、少なくとも問題意識は共有されたものとして、働き方改革チームから報告会で公表された。個々の取組はここで詳らかに説明できないが、HPでも公開されているのでぜひ一読いただければ幸いである。

(5)働き方改革チーム報告会の開催~400人に届け~

そしてできあがった報告書は、報告会という形で総務省職員・マスコミ向けに広く広報を行った。講堂で行われた報告会には幹部を含む400人以上が参加し、web会議システムで出先機関にいる職員も視聴できる体制を整えた。

マスコミも複数社参加し、我々の活動を大きく取り上げてくれたりもした。自分たちの活動が社会的に認められることは、メンバーにとってシンプルに嬉しいことだった。

報告会には野田総務大臣もご出席いただき、幹部の方々への「念押し」をしていただいた。副大臣や政務官からも幹部の方々に働き方改革を進めていく必要性を熱く語っていただいた。チームが立ち上がった時、小林前政務官が「働き方改革は自分たち政治家の仕事」と仰っていたが、自分たちには言えないことを言ってもらえるのは本当にありがたいことだった。

報告会のしめくくりは、小林前政務官のかけ声に合わせた「頑張ろうコール」。少し照れくさい気もしたが、それ以上に震えが止まらなかった。周りには泣いている職員もいた。声にならない声を拾い上げ、小さくとも第一歩を踏み出すことで何かを変えることが出来ると教えてくれたこの経験は、組織としてだけでなく、私個人としても大きな転換点となった。

これからは、このモメンタムを維持することが我々第一期働き方改革チームメンバーの大きな使命になると思う。先日、政務官を顧問とした第二期が立ち上がった。今年も20名の有志が参加を希望した。今年の勢いを確かなバトンにつなぎ、変わらないと言われた組織を少しずつでも変え続けていきたい。

3.終わりに

その後総務省では、引き続き働き方改革への取組が継続されている。ある部局はオフィス改革に取り組み始め、書類にまみれて自由な移動もままならなかったオフィスが姿を変えつつある。またある部局では、残業時間の可視化を始め、業務効率化のためのRPAの導入を検討し始めた。まだまだ道半ばではあるが、昨年撒いた種が間違いなく花開き始めていることをありありと感じる。

働き方改革は、ともすれば後回しにされやすいテーマである。しかし、小林前政務官は、常日頃から働き方改革は経営戦略だと言っていた。

第一は優秀な人材獲得のため、そして第二はよりクリエイティブな仕事をしていくため。特段給料が高いわけではない公務員が人材を集め続けるには、働きやすくてやりがいのある環境で返す必要がある。

そして、目の前の仕事で精一杯になっている状況では、5年後、10年後の未来を考える余裕はなくなってしまう。両手いっぱいに仕事を握るのではなく、左手は既存の仕事に、右手は新しい仕事を掴み取ることに全力で取り組まなくてはならない、そう強く訴えていた。

働き方の置かれている現状は役所によって様々であり、我々の取組がそのまま参考になるわけではないだろう。それでも、本寄稿をご覧になられた方々が、組織を変える小さな一歩を踏み出していただければ、チームメンバーとしてこれほど嬉しいことはない。

田中 佑典(たなか ゆうすけ)
1989年奈良県生まれ。京都大学卒業後、総務省入省。長野県への赴任を経て、外務省にてG20、OECD等数多くの多国間交渉を経験。2017年より一般社団法人Public Meets Innovation理事。シェアリングエコノミーの社会実装をはじめ、人口減少下における持続可能な社会を実現するための企画・立案に従事。自身の故郷が消滅していく過程をユーモラスに描写した「ふるさとの看取り方」(TEDxSaku2014)が話題となり、「コミュニティの最期を看取る」をテーマに各地で活動。現在、長野・東京の2拠点にてデュアルライフを実施。


編集部より:この記事は、井上貴至氏のブログ 2019年1月9日の記事に寄稿されていた田中佑典氏のエントリーを転載させていただきました。掲載を快諾された田中氏、仲介いただいた井上氏に感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は井上氏のブログ『井上貴至の地域づくりは楽しい』をご覧ください。

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