自民党の地域密着モデル:他党を凌駕するボトムアップ

2019年01月14日 06:00

自民党こそボトムアップの政党

立憲民主党は綱領において以下のように宣言して、「ボトムアップの政治」の実現を目指すとしています。

私たちは、一つの価値観を押し付ける政治ではなく、国民のみなさんとつながり、日常の暮らしや働く現場の声を立脚点としたボトムアップの政治を実現します。

この方向性自体に違和感はなく良い考えだと思います。しかし皮肉なことに立憲民主党は結党時の経緯から地方組織がほとんどない政党でした。立憲民主党は2017年の衆院解散時に民進党が分裂し、主に衆院議員だけが集まってできた党で、当初参院議員と地方組織はとりあえず民進党に残ったのです。

その後いろいろあって、基本的に地方組織を含む民進党は国民党と合流して国民民主党となるわけです。立憲民主自体は民進出身の議員を参院からも地方議会からも個別には受け入れたので、現在では所属する参院議員も地方議員もいますが、大きな地方組織はなかったのです。

ですので、立憲民主は2018年以降に各地で地方支部などを一から作り上げていきました。もちろん地方支部がないから「ボトムアップ」の政治が不可能というわけではありません。例えばSNSなどを通じて聞こえてくる党への意見やコメントに議員が耳をかたむけ政策に反映することもできるでしょう。

しかし現場の支援者が集まった「支部」というものがないと、正式な政策決定プロセスにおいて「現場」の意見を汲み上げるということは現実には難しいです。SNSなどを通じてリーダーが身近に感じられることは良いことですが、草の根的な雰囲気があるだけで意思決定においては「ボトムアップ」の政治ではありません。

ボトムアップの政治に必要なのはローカルの意見を汲み上げる地方組織と、その地方組織の意見が重視されるべく構築された党内ルールと党内力学です。

自民党本部(写真AC:編集部)

このような観点から言うと、自民党は全国の市町村に張り巡らされた「地方支部」とそれらを束ねる「都道府県連」を通じて各地域の声を定期的に吸い上げるシステムが構築されています。そして各地方支部は国政選挙のときには地方議員が選挙活動の中核を担うため、国会議員が「上」で地方議員が「下」のような関係にはならず、より対等かつ強い協力関係で結ばれています。

結果、党本部は都道府県連の、都道府県連は各所属地方支部の意見を尊重する仕組みが出来上がっています。意外なことに自民党こそ「ボトムアップの政治」を長年実践してきた党なのです。

東京における自民党の地方組織力

東京における自民党の地方組織の元締めは自民党「都連」です。最近では小池都知事などに色々と非難され、世間的にも「ザ政治家」の集団のように思われている「都連」です。都連の正式名称は「自由民主党東京都支部連合会」です。名前の通り東京の各地域にある「支部」の連合体組織です。

23区をはじめとする50以上の市区町村にそれぞれ総支部があり、各々常任総務会などの意思決定機関を有し、地域の議員を束ね、青年部や女性部といった下部組織を持っています。総支部のメンバーには民間人や元議員もいますが、その地域の現職議員は当然総支部に所属しています。

この各市区町村を網羅した総支部ネットワークこそが自民党の地域密着の基盤です。「各総支部が各地域における意思決定の独立性を有したボトムアップ型の組織」でありつつ「各市区町村をくまなくカバーするネットワーク力」があるというのは他の政党にはみられない唯一無二の「地方組織力」と言えるでしょう。

端的にいってしまうと、全国を網羅する地域密着型かつボトムアップといえる組織を有している国政政党は自民党くらいなものでしょう。

そして各地域をくまなくカバーするというのは議員数にも反映されます。

総支部の規模感として23区における議員数を見てみましょう。自民党の区議数は合計定数902に対して290人

1区あたり平均12.6人の議員がおり定数に対して32%の議員比率です。

一方の国民民主と立憲民主は、それぞれ30人と43人です。各区に13人といった規模です。両党合わせても73人で自民党の1/3もいかない規模です。

津々浦々に張り巡らすネットワークが自民党の強み(写真AC:編集部)

これだけ人数が違うと、他の党では真似できないことがあります。その一つが地域をさらに町会単位のエリア毎に区切って一人の議員が一つの地域を「担当」することです。人数的に一つの区を10以上の地域に細分化できるわけで、よりきめ細やかな町会単位での「地元の専門家」になれるのです。

これだと自分の住んでいる地域に関する要望なども地区担当議員が迅速に理解して対応できます。一人か二人で全区をカバーしていると「そこどこでしたっけ?」というところから始まってしまうわけです。小さい町会の会合などにも顔を出してより住民と近い関係を持つことができます。

自民党は現在都議会では少数派の野党ですが、それでも長年の経験から都政に関する圧倒的なノウハウを持ち、地元の陳情などに対応する体制を整えています。もちろん衆参両院で自民党は与党ですから、自民党の市区町村議員は地元密着型カバーから吸い上げたボトムアップの要望を都政・国政において必要な対策を講じるよう各級議員に掛け合うことができます。

各市区町村を網羅する「総支部」、そこに所属してより細かい地域を担当して地域と強く繋がる地方議員、複数の総支部を束ねて地方議員と対等かつ強力な協力関係にある国会議員。このような「組織」こそ自民党が有する「ボトムアップの政治を実現する組織」です。

ポリテックを推進し、より住民と密接な組織へ

このように自民党は他の政党には無い綿密に地域をカバーする体制が整っています。

しかし、近年この強力な地方組織を活かしきれていない状況があります。所属議員も支援者や町会に属する住民も高齢化が進んでいて、どうしてもコミュニケーション手段がより若い住民のそれとは違ってきます。

高層マンションの増加で政治活動も変化を迫られる(写真AC:編集部)

例えば総支部内の連絡手段も電話やファックスであり、アプリやSNSでの連絡が標準となっている住民とのギャップがあります。そもそも、古くからその地域に住んでいる住民との関係は深いのですが、近年移り住んできた住民、マンション世帯や一人暮らし世帯などに対してアクセスする手立てがないのが悩みです。

せっかく地域を細分化して担当議員がいるのに、ほとんどの住民が知らないシステムですから気軽に使うもなにもないのです。これはとても残念なことで、本来地域に最近移り住んできた住民にとって地域をよく知る地元議員に気軽に連絡を取り地域コミュニティを紹介してもらったり、行政サービスの向上などに関する要望などができたらとても便利なはずです。

住民ニーズは基本的に地域ベースなものが多いのですが年代や性別ベースなものもあります。総支部には「青年部」「女性部」があり、社会の特定の層のニーズに対応することも理論的には可能です。実際のところは総支部がもっとも力を入れるイベントは選挙なので、「青年部」も「女性部」も各級選挙時にフル回転して選挙支援をする組織です。しかし今後は「若年層」や「女性」特有の政治ニーズに対応する窓口機能を有しても良いと思います。

このように総支部の機能を強化することにより、地域別の住民ニーズ、年代・性別毎の住民ニーズをクロスで汲み上げることができます。このような体制の方がより近代的な地域密着型の政治なのではと思います。

そしてこの「地域毎の担当議員」や年代性別毎の相談窓口などが一括してネットで調べることができないと、完全に宝の持ち腐れになってしまいます。大人数の議員で地域を綿密にカバーしているのは他の政党が真似できない素晴らしいことなのですが、それらの政治サービスへのアクセス方法が昔ながらの「町会や町の組織に入る」「人の紹介」などでは利用者は限られてしまいます。

ポリテック(政治の現場におけるITテクノロジー)を用いて総支部機能の強化・近代化を推進する必要があります。党本部や都連のレベルで大幅なIT予算を組んで総支部組織機能の近代化に人員と資源を投入すべきです。各総支部でそのようなIT投資をするというのは費用的にも非効率ですし、人員的にも不可能です。

是非とも統一地方選を機により地域と密接に繋がった近代的組織作りに党本部と都連が必要な資金と人材の投入をすることを強く願います。

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区部における議員数は下記を参照

自民党

議員数 定数 割合
足立区 15 45 33%
荒川区 13 32 41%
板橋区 15 46 33%
江戸川区 14 44 32%
大田区 17 50 34%
葛飾区 11 40 28%
北 区 12 40 30%
江東区 14 44 32%
品川区 10 40 25%
渋谷区 9 34 26%
新宿区 9 38 24%
杉並区 13 48 27%
墨田区 12 32 38%
世田谷区 17 50 34%
台東区 9 32 28%
千代田区 15 25 60%
中央区 13 30 43%
豊島区 9 36 25%
中野区 12 42 29%
練馬区 17 50 34%
文京区 9 34 26%
港 区 12 34 35%
目黒区 13 36 36%
合計 290 902 32%

国民民主

立憲民主


編集部より:このブログは与謝野信氏の公式ブログ 2019年1月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、与謝野信ブログをご覧ください。

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与謝野 信
ロスジェネ支援団体「パラダイムシフト」代表

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