バロンズ:Fedの”変心”、米株相場の回復起爆剤に

2019年01月15日 11:30

バロンズ誌、今週のカバーは半期に一度行う金融市場の重鎮9名によるラウンドテーブルを掲げる。今年はコロンビア・スレッドニードル・インベストメントのポートフォリオ・マネージャーであるポール・ウィック氏が去った。

一方で、サンフランシスコに拠点を置くパルナッソス・インベストメンツのトッド・アールステン最高投資責任者(CIO)と、NYを本拠地とするアリエル・インベストメンツのルパル・バンサリCIOが加わり、合計10名に増えている。

その他の参加者は、以下の通り。ゴールドマン・サックスのアビー・コーエン顧問兼シニア投資ストラテジスト、ダブルライン・キャピタルのジェフリー・ガンドラック最高経営責任者(CEO)、T・ロウ・プライスのヘンリー・エレンボーゲンCIO、デルファイ・マネジメントのスコット・ブラック社長、ガムコ・インベストメンツのマリオ・ガベリ会長兼CEO、エポック・インベストメント・パートナーズのウィリアム・プリーストCEO兼共同CIO、イーグル・キャピタル・パートナーズのゼネラル・パートナーであるメリル・ウィットマー氏、リブレット・キャピタルのオスカー・シェファー会長となる。

1月7日に開催されたラウンドテーブルでは、2018年後半に米株相場が急落した割に明るいトーンに終始した。今回、2019年に景気後退を予想した参加者はゼロで、世界を騒がす米中通商協議も妥結するとの見方が大勢を占めた。また、米連邦公開市場委員会(FOMC)の政策も、短期的に利上げに慎重な姿勢を貫く公算大と判断している。例えば、債券王として知られるダブルライン・キャピタルのガンドラック氏は、社債市場、特に米国のジャンク債市場に注意を呼びかける半面、米株相場については2019年の年初こそ弱いペースを維持しつつ、割安感などから年後半に上昇へ転じると予想した。2019年の実質GDP成長率をめぐり、参加者の予想は2〜2.5%に収斂しつつ、ガンドラック氏は0.5%を見込む。詳細は、本誌をご覧下さい。

当サイトが注目する名物コラム、アップ・アンド・ダウン・ウォール・ストリート、今週はランダル・フォーサイス氏が戻って筆を握ります。抄訳は、以下の通り。

Fedが利上げから後退した理由—Why the Fed Backed Off on Interest Rates.

哲学者、作家として知られるラルフ・ワルド・エマーソン氏によれば「愚かな一貫性は、とんでもない政治家や哲学者や神々に崇められる、小さな心をもったホブゴブリン(ヨーロッパの伝承などに登場する妖精の一種)のようなものだ」。つまり、その逆をいくジェローム・パウエル議長率いる米連邦公開市場委員会(FOMC)は、著しく寛大と言えよう。

新たな年を迎え、パウエルFRB議長は利上げに辛抱強くなれると意思表示し、保有資産の圧縮ペースにも柔軟な立場を強調した。それ以前に、12月FOMCで参加者の2019年の利上げ回数見通しが、年3回から2回へ下方修正された。

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(作成:My Big Apple NY)

Fedの”変心”は、2018年の米株急落がもたらしたように見える。1月3日に約660ドルもの急落劇に見舞われると、パウエルFRB議長は1月4日の講演でイエレン前FRB議長やバーナンキ元FRB議長に倣い、発言のトーンを変えたものだ。Fedの”変心”は奏功し、ウィルシャー・アソシエーツによれば、米株は最初の6営業日で時価総額を1.1兆ドル押し上げ2018年の8営業日で達成した記録を塗り替え、3.85%の上昇をもたらした。

グッドニュースを運んだように見えるが、米株市場関係者にとってみればそうとも言い切れない。特に、パウエルFRB議長が米株市場に叩頭(筆者注:英語でも中国語を用いkowtowという)してしまったとなれば、尚更である。ダニエル・ディマルティノ・ブース氏は、パウエル氏がFRB理事時代の2012年に、中銀は投資家の損失を保護すべきでないと発言していた例を挙げ、現在は「不機嫌な投資家に屈した」と辛辣だ。また、イエレン氏やバーナンキ氏など前任者と同様に米株安局面で政策を変更しようとしていると批判する。マクロメイブンズのステファニー・ポンボイ氏も「新しいボスが前任者と変わらないと分かれば、誰が自信を持って投資できるだろう」と問い掛ける。

いわゆるFedの”プット・オプション”—グリーンスパンFRB議長が1987年のブラック・マンデー時に利下げで対応し米株急落局面で損失を確定できる機会を与えたことを言う—は、パウエルFRB議長の任期も継続することが分かった。

これまで、中央銀行は流動性を吸収し、資産デフレを招き、米経済と世界経済の拡大に脅威を与えた。トランプ大統領が選出された2016年11月以降、米株の時価総額は9.2兆ドルと過去最大を更新したが、バンク・オブ・ザ・ウエストのエコノミスト、スコット・アンダーソン氏によれば、米株安を受け2018年9月の高値から3ヵ月間で4.5兆ドルもの時価総額を吹き飛ばした

消費者信頼感指数が低下し始めるなか、逆資産効果を意識しておく必要があるだろう。アンダーソン氏によれば、1ドルに対し2〜5セントの損失が生じた場合、消費者は支出を900億〜2,250億ドル削減させるという(筆者注:2017年の名目個人消費は13.3兆ドル)。2018年10〜12月期と2019年同期で比較するならば、実質の個人消費を0.7〜1.7%押し下げる見通しで、伸び率は0.5〜1.5%にとどまりかねない。米株安が個人消費を大きな打撃を与えると考えられ、百貨店メーシーズの業績下方修正が思い出される。

直近でFedが利上げを小休止したのは2016年で、当初は25bpずつ年4回引き上げられるはずだった。しかし、蓋を開けてみれば米株安、ジャンク債の下落に加え、BREXITもあって2016年は12月の1回の利上げにとどまった。ルネッサンス・マクロ・リサーチのジェフリー・デフラーフ氏によれば、現状は1956年10月から1957年10月を思い出させるという。当時、米国では”アイゼンハワー・リセッション”と呼ばれた景気後退期にあり、実質成長率はマイナス10.4%、失業率は4.1%から7.4%へ急伸した。

ミルトン・フリードマン氏とアナ・シュワルツ氏の共著”A Monetary History of the United States: 1867-1960”によれば、Fedは1955年から1957年8月まで利上げし、既に景気後退に陥らせ米株を弱気相場入りさせていた。1957年11月にはFedは利下げを開始したが、フリードマン氏とシュワルツ氏いわく、1958年には資産買入、いわゆる量的緩和に踏み切った。結果、翌月に景気後退は底打ち紙し、QEは成功に終わったと言える。

対照的に現在、Fedだけでなく人民銀行、欧州中央銀行(ECB)、その他の中銀の保有資産は年間5%近いペースで縮小している。これは、金融危機後の”大いなる実験”が開始して以来、最大の減少幅だ。

モルガン・スタンレーのエコノミスト・チームは、Fedの保有資産の縮小が2018年後半の米株市場におけるボラティリティの急低下をもたらしたと指摘する。米株安だけではない。みずほセキュリティーズのスティーブン・リチウト米国担当首席エコノミストは、Fedが保有資産を2017年10月のピーク時の4.4兆ドルから4兆ドル付近まで縮小した過程で、超過準備預金がこれを上回る1兆ドルものペースで縮小していた。この結果、外銀は別の調達先を探す必要に迫られマネーマーケット金利を押し上げ、これが企業や個人の借入金利を上昇させてしまったという。

パウエルFRB議長は、何度となく過去2回の景気後退が物価ではなく金融市場の過剰な状態、つまり2008年の金融危機、2001年のITバブル崩壊がもたらしたと言及してきた。Fedに対し、一部の市場関係者は風見鶏と呼ぶだろう。しかし、政策失敗を回避する上では、正しい決断のように見える。

——Fedが米株相場など金融市場次第で政策姿勢を変更するのは前任者の通りで、市場の安定化には政策対応から政策姿勢の変更などが必要とされてきました。パウエルFRB議長も、それに倣ったばかりでしょう。しかも、米中貿易摩擦や政府機関の閉鎖など、トランプ大統領の政策、決断に振り回される市場環境では、仕方ないことかと。政策姿勢の変更がドル安を招いた点は、米国以外に取っては好材料である可能性も捨てきれません。単に米ドル建て債務の支払い負担が軽減されるだけでなく、今年は中国以外にもトランプ大統領率いる米国と通商交渉が本格化します。少なくともドル安シフトは米国の輸出に有益であり、米国側に物申す余地が生まれると思いたい。経済減速が懸念される米国とはいえ、他先進国を上回るペースであることは変わりないでしょうから。

(カバー写真:Federalreserve/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2019年1月14日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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