金融政策はあくまで環境作り、能動的に物価や雇用は動かせない

1998年4月に施行された日銀法の第2条に「日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする」とある。日銀の金融政策決定会合での決定に基づいて行われる金融政策の目的は「物価の安定」となる。

目的は物価の安定となるが、そのための政策手段は金融市場を通じて行われる。物価が下がったからといって、日銀が直接モノを購入して価格を吊り上げるといったことはしていない。「家計や企業などが物価水準の変動に煩わされることなく、経済活動にかかる意思決定を行うことができる状況」が物価の安定であり、言い換えれば「通貨価値の安定」とも言える。

金融政策に物価や雇用は動かせるか(写真AC:編集部)

通貨価値の上げ下げ、つまり物価における過度なインフレーションやデフレーションは、安定した経済成長にとっての阻害要因となる。金利はお金の価値を示すひとつの尺度となる。この金利を操作することによって、通貨価値を安定させ、物価に働きかけて、安定した経済活動を促すというのが、金融政策の大きな目的となる。

大胆な金融緩和で物価を「能動的」に上げるという政策には無理がある。中央銀行の金融政策は直接物価を上げたり、下げたりすることが目的ではない。あくまでそれに働きかける環境作りが目的となる。政策金利の上げ下げだけで、それに応じて物価が動くほど経済は単純ではない。

米国の中央銀行であるFRBの使命(目的)はデュアル・マンデートと呼ばれ、物価の安定(stable prices)と雇用の最大化(maximum employment)となっている。デュアル・マンデートがFRBの使命となったのは、1977年の連邦準備改正法の成立によるものだが、その源流には1946年の雇用法があるとされている。

このため、日銀も雇用の回復も目的に上げるべきとの意見もある。しかし、物価と同様に金融政策によって雇用に直接働きかけができるわけではない。そもそも金融市場を通じてどのようにして雇用に働きかけができるというのか。

あくまで金融政策は景気の悪化や過熱を緩和させる程度の効果でしかなく、絶対的な政策ではない。それが結局、日銀の異次元緩和によってあらためて明らかとなった。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2019年1月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。