米中の貿易協議に過度な期待も禁物か

久保田 博幸

英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)は22日、米中両政府が月末に開く閣僚級の貿易協議をめぐり、トランプ米政権が予備協議の開催を拒否したと伝えた。中国は次官級を今週米国に派遣し、閣僚協議に向けた準備会合の開催を提案していた。技術移転の強要など中国の構造問題で意見が対立していることが背景にあるという(日経新聞電子版)。

2017年11月にトランプ大統領が訪中した当時の写真(White House/Flickr:編集部)

これに対して米国家経済会議(NEC)のクドロー委員長は22日、CNBCとのインタビューで、今月末のワシントンでの劉鶴副首相との会合が「非常に重要」であり、「決定的」なものになるだろうと発言した。

これによりクドロー委員長は貿易準備会合が中止されたとの報道を否定した格好ながら、協議の難しさも示したような格好となった。

ちなみにクドロー委員長は、ムニューシン財務長官などと同様に、中国との関係も対話を進めることで解決への糸口を探ろうとしている、いわゆる穏健派である。ただし、トランプ政権内にあっては少数派とされる。

技術移転の強要など中国の構造問題で意見が対立していることは確かとみられ、これはトランプ政権内での強行派とされるロス商務長官やライトハイザーUSTR代表などが、強硬姿勢を見せているためではなかろうか。

トランプ大統領は株式市場への影響も意識して、中国との対話を進める姿勢は見せているものの、中国側が余程妥協しない限り、関税などを巡り強硬姿勢を崩すことも考えづらい。

中国政府は米国に対して6年間かけて輸入を増やす計画を提案したとされる。しかし、1月30~31日に閣僚級協議では、貿易不均衡の是正だけでなく、中国の知的財産侵害や不適切な産業補助金など構造問題についても中国側に対応を求めるとみられ、今回のトランプ米政権が予備協議の開催を拒否との報道も、中国側に対するプレッシャーの一環ではないかとも推測される。

米中が3月1日までに合意できなければ、米国は2千億ドル分の中国製品に対する関税の税率を10%から25%に引き上げる予定となっている。もし関税引き上げが実施されるとなれば、米中の貿易摩擦がさらに強まることが予想され、結果として世界経済の減速傾向を強めることになろう。これは米国株式市場ではリスク要因となる。米株の大幅な下落もトランプ大統領は嫌がっているようだが、中国への強硬姿勢を崩さない限り、市場でのリスクが後退するようなこともないとみられる。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2019年1月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。