厚労省の「ブラック・スワン」はなぜ起こったのか

厚生労働省の毎月勤労統計調査の問題は、予算案の修正という異例の事態に発展し、国会でも審議が始まった。これに先立って厚労省は関係者の処分を発表したが、これで幕引きというわけには行かない。まだ事実関係も原因も、全容が判明していないからだ。

野党にとっては絶妙のタイミングでチャンスが転がり込んできたわけだが、今回の問題は彼らの言う「安倍政権の圧力」とは無関係だ。誤った統計処理が始まったのは2004年であり、民主党政権でも続いていた。そこには役所の情報システムの意外な落とし穴がある。

割り算した数字を掛け算しなかった初歩的ミス

事実関係については、1月22日に厚労省の特別監察委員会の報告書が発表された。これは1週間程度のヒアリングをもとにした中間報告なので限界はあるが、今までわからなかった事実が出てきた。

1つの謎は、2004年から東京都の従業員500人以上の事業所を全数調査から3分の1程度の抽出調査に切り替えたとき、政府統計を統括する総務省統計局に報告せず、今まで厚労省の調査計画にも「全数調査」と書いたままだったのはなぜかということだった。

これは厚労省の「隠蔽」とは考えられない。2003年5月の事務連絡には「事業所規模500人以上の抽出単位においては、今回から全国調査でなく、東京都の一部の産業で抽出調査を行うため注意すること」と書かれ、抽出調査で行うことは毎年、関係者に広く通知されたからだ。

では調査計画には、なぜ全数調査と書き続けたのか。特別監察委員会の報告には「(全数調査が)原則と認識しているが、細かく書くとすれば異なっているという認識はあった」とか「変えた方が良いと思ったが、統計委員会とか審議会にかけると、問題があると思った」などという供述がある。

つまり厚労省の現場では「問題がある」とは認識されていたが、東京都だけの例外措置で、大した問題ではないと考えていたようだ。調査計画の無断変更は統計法違反にあたる疑いがあるが、問題はそこではない。

東京都の大企業を抽出調査にしても、その抽出率逆数をかけてサンプル数を復元すれば、統計的な誤差は大きくない。産業別の「逆数表」も公表されており、たとえば小売業では2分の1の企業が抽出されているので、集計するとき調査結果に逆数2をかけて復元すればいい。

ところが厚労省は逆数をかけないで、東京都の抽出調査の結果を全数調査として他の都道府県と単純に合算したため、平均賃金の高い東京都の比重が低くなり、全国平均賃金が本来より低く出てしまった。なぜ割り算した数字を掛け算しない初歩的なミスをしたのだろうか?

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