曙ブレーキの私的整理に学ぶ、日本企業の典型的な弱点

岡本 裕明

曙ブレーキという会社は日本の自動車部品メーカーとしては上位クラスでトヨタの協力会社組織でも代表的存在の会社でした。その企業が北米事業で詰まり、私的整理(ADR)を行うと発表しました。

曙ブレーキ工業本社(Wikipediaより:編集部)

北米は自動車が売れて売れてしょうがない状態です。この1-2年こそ、ピークアウト感が出ていますが、過去10年、ピックアップトラックを中心に兎に角、売れすぎだろうというぐらい好販売成績を残してきました。実際、曙ブレーキの北米はどうだったかといえばフル稼働、忙しくてどうにもならなかったというのが実態であったようです。

ではなぜ、私的整理なのでしょうか?どうやら理由は二つあるようです。一つは北米の自動車業界の動向に対して同社の北米事業が対応できず、結果として受注機会を逃し、急速な売り上げ減につながったこと、もう一つはそれを受けて地銀からの借入金返済要求であったようです。

同社にとって北米事業はセグメント上では最大の規模で18年3月期で北米だけで約1400億円の売り上げが立っています。日本国内は810億円水準ですからそのインパクトをご理解いただけるでしょう。連結売上高が2650億円であることを考えると北米だけで半分以上のウエイトを占めていたことになります。

ところが北米事業は順調だったとは言えません。リーマンショックで大きく縮小させた後、アメリカの自動車販売の急激な回復についていけず、2016年に売り上げ1670億円を付けた後大きく減少し、18年3月で1400億円、そして18年9月の半期決算では北米セグメントは売り上げで15.5%減少の637億円にまで減少させてしまいました。

理由は事業運営の「ドタバタ」と主要顧客のGMからの受注を逃したことにある、とされています。また、想像ですが、それらを受けて上期決算の内容があまりに芳しくなく、同社の取引金融機関の一つの地銀が「危ない」と見做し、貸金の返済を迫ったものと思われます。逆に言えばその地銀は自行の体力との兼ね合いでその貸金が不良化すれば自行の経営に大きく影響するという連想を起こした可能性はあります。

もう一つの想定は10-12月の第3四半期に北米事業の売り上げが更に落ち込んだ可能性があり、それを事前に察知して対策を打ったのかもしれません。

さて、私はこのニュースに接した時、日本企業の典型的な弱点をさらけ出したと感じています。日本の大企業の成長性が止まっていることはある程度認知されています。日経平均がアメリカなどの株式指標に比べて大きく引き離されている一つは日経平均採用銘柄の成長性が弱いこととされます。

ところが「日本企業の年功序列」は今でも王道であり、経団連やら同友会やらの役員になることを大企業の会長の花道的に捉えられています。曙ブレーキについてもトヨタの協力会社団体の協豊会で会長を二度、務めるなど序列の上を行き、胡坐をかいていたとみなされても致し方ないでしょう。

海外にいても日本からの大企業様の駐在員は偉くてローカルで頑張っている会社はその後塵を拝する状況は変わりません。東証一部が偉くて第二部やマザーズを見下すようなものでしょう。私はこれが日本をダメにしていると思っています。

自動車産業や建設業界のようにピラミッド型組織を形成する業界においては協力業者会を通じて厚い絆を誓い合うような仕組みになっています。これは一種の村落型共同運命体であり、裏切りは許されないのであります。つまり、何か違う発展を遂げたり、独自の展開をすることが極めて難しく、一種の護送船団型を形成してしまいます。

トヨタほどの企業が協豊会なる団体をどういう位置づけで考えていたのかわかりませんが、私はこのあたりからそもそも論が違っていたのだと思っています。私がゼネコンに在籍していた頃、もちろん、協力業者会はありました。しかし、特殊な能力をもつ業者ほどそういうところには入っていなかったのも事実です。よって大手ゼネコンで引っ張りだこになっていたという記憶があります。

曙ブレーキの私的整理と協力業者会の関係は別問題だろうと察しますが、根っこにはこういう体質が災いしたのではないかという気がしてなりません。

日本の大企業はいつか目覚めるのでしょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年1月31日の記事より転載させていただきました。