自治体と議会の覚悟が問われる虐待死根絶対策

上田 令子

またしても、児童相談所の後手後手にまわる対応にて、千葉県野田市の10歳女児の尊い命が失われてしまいました。昨年の目黒区虐待死事案とおなじく、寒い中シャワーをかけられて…。

女児が、当時通っていた小学校が行ったいじめに関するアンケートが行われた2017年11月、女児は「父からいじめを受けている」と回答、千葉県柏児童相談所が一時保護し、当時「お父さんが怖い」「お母さんがいない時にたたかれることがある」と話していたにも関わらず、児相は「安全に生活できる見込みがついた」と判断、同年12月に一時保護を解除してしまいました。

2018年1月に女児が転校してからは、児相や市、市教育委員会は自宅訪問をせず、あってはならないことですが、目黒区5歳女児虐待死事件同様例によって現認を怠っていました。野田市に転居するまで一家が暮らした糸満市は「(女児が容疑者から)どう喝を受けていて不安」と、親族から虐待を疑う相談を受けていたと説明しています。父親は、女児を暴行後通報まで数時間放置し、死後硬直が見られていたとのことで胸が張り裂けそうな悲しい事件となってしまいました。

警察も野田市からの報告で女児が保護対象であることを把握していたものの、「直ちに対応するべき案件ではない」と判断していたことも非常に残念です。転居等で自治体間の連携が図られず、子どもの命が奪われる、昨年社会問題となった目黒区女児虐待死事件の悪しき前例が全く生きていないことの証左であり、どこかで見た風景。何度繰り返せば、児童相談所と行政は変わることができるのでしょうか。

養父の二度の書類送検をいつ把握したか明言しない東京都

上田は、目黒区虐待死事案について、世間が騒ぎだしてからドヤ顔で声を張り上げてる議員(その後急速に鎮静化…議員あるあるですね)をよそに水面下で事件後も文書質問を重ねてきました。いつ、養父の5歳女児への虐待行為の二度にわたる書類送検を把握したのか確認したく、都が関与してから事件発生にいたる経緯の詳細を確認した中で

1月30日(2018年)にファクシミリで資料の概要が、1月31日付けで詳細資料が送付されてきました。この資料には、香川県の児童相談所での相談の経過、一時保護に至った警察からの通告内容、本児に対する虐待により養父が2度書類送検されたことなどの記載がありました。

との答弁にとどまりました。つまり、記載はあったが把握していたと明言していないことから5歳女児が虐待死してから気づいたということです。実際担当課長もすでに新聞報道がされていても、私が確認しても書類送検のことは知らなかったのです。さらに

2月7日、香川県の児童相談所から、今後、品川児童相談所が関与することを養父に伝えたとの連絡があり、2月9日、品川児童相談所職員が家庭訪問を実施しました。この際、母親と兄弟には会うことができましたが、本児を確認できなかったことから、同日、品川児童相談所は、区に対して、2月20日に実施される学校説明会にて親子の姿を確認するよう依頼しました。

2月20日、区の職員が、小学校で開催された学校説明会に行ったところ、説明会に来たのは母親のみで、本児の姿は確認できませんでした。

と続きます。この時に、女児を現認していたら命は守られたはずなのです。

こうした1年前の近隣自治体東京都の悲惨な事例があり、厚生労働省から児童相談所運営指針の改正について通知が出たにもかかわらず、千葉県野田市および児童相談所は「身体的な傷が薄いので、傷害事件としては考えなかった」として、県警への通報は見送ってしまう「ヒトゴト」であったことが悔やまれてなりません。さしもの県警も児相から連絡があれば直ちに対応してくれていたかと思うと、やはり、虐待情報の警察の全件共有の必要性を感じざるを得ません。

東京都も緊急対策を打ち出しましたが、その盲点については上田が指摘しているところです。(過去blog都の虐待防止緊急対策と条例方針発表も、見落とされる落とし穴ご参照)

事件発生した目黒区の決議

それでは、事件が起こったおひざ元の目黒区ではどうか…。決議は以下の通りです。

児童虐待のない目黒を実現するための決議

今年3月、あまりにもつらく悲しい、児童虐待死事件が発生し、尊い小さな命を救うことがかなわなかったことが悔やまれてならない。亡くなられた幼児に心からの哀悼の意をささげる。

目黒区は、これまでも児童相談所をはじめ関係機関と連携しながら、児童虐待の早期発見及び再発防止に努めてきたところである。本事件に関しては、児童相談所や警察署を所管する東京都、転入前の香川県、目黒区の子ども家庭支援センターなど複数の行政機関や自治体が関与する中で、深刻な事態を防げなかった制度上の仕組み等の課題に向き合っていかなくてはならない。

「子どもは、一人ひとりがかけがえのない存在である。」

目黒区議会は、広く児童虐待を未然に防ぐ観点から、子育て中の保護者の不安を払拭し、家庭が孤立することがないよう、さまざまな場面で訴えてきた。

さらに、児童相談所等の目黒区への運営移管に関して、財政支援・専門職人材の確保や育成支援について、既に国や東京都に強く要望しており、引き続き区行政と共に議論を重ねていく。

私たち目黒区議会は、この度の虐待事件の経緯を見つめ直し、今後とも児童虐待のない社会に向け、行政各機関との一層の連携や情報の共有を行っていく。

そして、すべての方々と手を携えながら、地域で子どもたちの命を守り、安心して生き生きと成長して行けるまちづくりに全力で取り組んでいくことを誓いここに決議する。

平成30年6月20日
目黒区議会

江戸川区では2020年に児童相談所が移管されます。当時あった墨田児相へも門前払いを食いながらも、私は問題提起を続けました。区議だから、児相は相手にしてくれない…。都議になろうと思った大きなきっかけは児童相談所の現状を憂慮したことが大きかったです。よって都議となっても変わらず声を届け、江戸川区も国や都の動向を待たず積極的に移管へ向けて働きかけをしていました。

江戸川区でできたのですから「児童相談所等の目黒区への運営移管に関して、財政支援・専門職人材の確保や育成支援について、既に国や東京都に強く要望」するのも大切ですが自前でやる意気込みをもって、児相移管を明言され、今日一日が命の分かれ目となってします、声を上げられぬ子ども達のため事件のあった当該区として先鞭をつけるため、一刻も早い実現に向けて取り組んで頂くことを願います。ヒトゴトとならないように…。

ちなみに、目黒区では、自由を守る会白川愛目黒区地域政策委員「目黒区児童虐待防止条例の制定を求める陳情」を提出し、現在陳情は継続審議となっております。東京都へ提出された同様内容陳情も警察消防委員会では否決、厚生委員会では継続審査という塩漬けを改めるよう再審査を求める陳情が出されおり、議会も本腰をいれて議論をすべきです。今後同様案件が発生したらどうするのか、議会も自治体も覚悟が問われる状況となってきているのです。

お姐総括!

東京都福祉保健局に私は合わせて極めてシンプルな問いを投げかけました。

お姐「過去10年間で児相・区市町村が関わりながら26名の子どもが虐待死したことに関しての反省を踏まえた所見は?」

東京都「都は、重大な虐待事例について検証を行い、児童虐待の再発防止策を検討するため、児童福祉審議会の下に児童虐待死亡事例等検証部会を設置しています。

検証部会では、これまで、児童福祉司の増員と資質の向上により児童相談所の体制の強化を図ること、地域のケースマネジャーとなる人材の配置を充実させることにより子供家庭支援センターの組織体制の強化を図ることなど、再発防止に向けた様々な提言がありました。

都は、こうしたことを踏まえ、児童福祉司や児童心理司の増員、児童相談所職員の人材育成体制の充実を図るとともに、区市町村に対しては、子供家庭支援センターへの専門職の配置を支援するなど、児童虐待の対応力を強化してきました。

今後とも、虐待への迅速かつ的確な対応を図るため、児童相談所の体制強化や区市町村の取組への支援などを行っていきます。」

ちゃんとやってました!…という制度の説明で終わってます(-_-メ)。さらにシンプルな真髄を突く問いも投げかけました。

お姐「なぜ、5歳女児の現認を怠ったのか、原因と理由を伺いたい。」

東京都「児童相談所は、母親が児童相談所に対して拒否的な態度であったことや、香川県からの引継においても児童相談所と距離を置きたいとの情報があったことから、目黒区など関係機関と連携しながら、本児と会うために、まずは保護者との関係性を構築する方針でした。」

…方針優先で、子どもの命が零れ落ちたわけです。方針よりも目の前の子どもをみてケースバイケースで判断するのがプロではないでしょうか。ことほどかように、そのたびに出される現場を見ない血の通わぬ方針などが、いかにアテにできないことがわかりますね。

実に情けなく悲しく…ことに毎年1月のこの時期は心が重くなります。2010年1月24日、江戸川区内で小1男児が、歯科医や地域住民からの声が寄せられたにも関わらず、江戸川区、児童相談所、学校現場の連携が図られず、義父に撲殺される事件が発生したからです。私は当時江戸川区議会議員でした。無力感でいっぱいになり、せめて自分にできることを、と「児童相談所の江戸川区への移管」を強く求めるきっかけの事件となりました。江戸川区も深い反省に立ち、東京都と根気強い協議を重ね今日に至ります。

100点取ることが多かった小1男児君の優秀作として展示された教科書書写。

ちゃんとやってたけどー
方針もつくってたけどー
連携もはかってたけどー
条例もつくったけどー

「不幸が重なった」「亡くなられたことは重く受け止める」

はもうたくさん!

失わた物言わぬ命が「ちゃんとやってなかったよ」「助けてくれなかったよ」と語っているのですから。

改めて、寒い季節の親の暴力で天へ召された三人の子どもたちの冥福をお祈り申し上げます。

お姐はじめ、各自治体で活躍する自由を守る会メンバーは、知事や市長・区長、行政側が出した骨抜き手打ち案にのっかることなく、虐待情報の警察との全件共有を基本とした抜本的対策を強く求め、一人でも議会を動かし、生きる自由すなわち小さな命を守っていく所存です。


編集部より:この記事は東京都議会議員、上田令子氏(江戸川区選出)のブログ2019年1月31日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は上田氏の公式ブログ「お姐が行く!」をご覧ください。