明石市長辞任に見る「暴言」の意味

2019年02月02日 11:30

明石市長の泉さんが辞任した。

「すまんですまん」
「立ち退きさせてこい お前らで火をつけてこい」
「今日火をつけて捕まってこい」
「燃やしてしまえ ふざけんな」

こうした発言が全国的に注目を集め、世間で大騒ぎになっていた。そして、市長はこの発言の責任を取った。

この騒動、多くの議論を生んだ。テレビ・ネットなどコメンテーターが色々ない意見を述べていた。ネットでも同様だ。特に、パワハラ論、条件的擁護論、失脚論、これくらい普通だろ論、市職員怠慢論など大きく分類するとこんな感じだが、こうした主張がメディアを賑わせた。私は、多くの識者や人々が自分の都合の良いようにネタにする姿に、少し当惑を覚えた。いや、疑問を持ったといったほうが正確ではあるだろう。中には、僕が尊敬する社会活動家の方もいたからだ。

単純に思う。

みなさん、この発言の全体像を理解しているのだろうか?

直接知っているわけではないのに、「暴言」だと思えるのはなぜ?

多くの人がメディアで流れてその発言を知ることになった。そして、単純にそれを聞いて「暴言」と評価を下したわけだ。

私は、その前後を聞いたが、「暴言」かどうかはわからない。いつ、どこで、何を、どの場面での発言なの事情をわからないので「暴言」かどうかは判断できないというのが正直なところだ。

そもそも、知らない人同士の会話なので、評価は下せない。あなたがこの発言を言われた市幹部の立場だったら、「暴言だー」といってもいいだろう。しかし、その立場ではないし、第三者しかすぎないのだ。

文脈はどこいった?

メディアの「切り取り方」が一部には指摘されているように、文脈も踏まえていないことが問題であろう。まずは、1年半前の発言であること。

「ここは人が死にました。角で女性が死んで、それがきっかけでこの事業は進んでいます。そんな中でぜひご協力いただきたい、と。ほんまに何のためにやっとる工事や、安全対策でしょ。あっこの角で人が巻き込まれて死んだわけでしょ。だから拡幅するんでしょ。2人が行って難しければ、私が行きますけど。私が行って土下座でもしますわ。市民の安全のためやろ」という発言に示されているように「市民のため」の思いは強く、だからこそ、この道路拡幅工事が進んでいないことに感情的になったのだろう。

さらに、発言の前後を見てみよう(出典:神戸新聞記事)。

(1)背景

職員「(立ち退き対象だった建物の)オーナーの所に行ってきた。概算で提示したが、金額が不満」

市長「そんなもん6年前から分かっていること。時間は戻らんけど、この間何をしとったん。遊んでたん。意味分からんけど」

職員「金額の提示はしていない」

(2)「暴言」後の発言

職員「担当はおります。課長が待機していますが」

市長「上は意識もしてなかったやろ。分かって放置したわけやないでしょ。任せとっただけでしょ。何考えて仕事しとんねん。ごめんですむか、こんなもん。7年間放置して、たった1軒残ってもうて。どうする気やったん」

市長「無理に決まっとんだろ、そんなもん。お前が金積め。お前ら1人ずつ1千万円出せ。すぐ出て行ってもらえ。あほちゃうか、そんなもん。ほんま許さんから。辞表出しても許さんぞ。なめやがって。早くやっとけばとっくに終わってた話を。どないすんねん。悠長な話して。たった1軒にあと2年も3年もかけんのか。何をさぼってんねん、7年も。自分の家売れ。その金払え。現場に任せきりか。担当は何人いるの」

職員「1人しかいません」

立ち退き交渉が進まないことへの不満が見てとれる。

確かに、用地買収や交渉事は非常に難易度が高く、私が職員だったらやりたくない仕事の1つではある。だから、職員サイドにも同情の余地はある。しかし、その場合、どういった点が難しいのか、自分ではでいないなどの確認を取り、適切なタイミングで上に報告をあげていなかったのはなぜなのかな?と思う。

さらに、この会話前後の状況、例えば

  • どういった目的の会議だったのか?
  • 本事業についての庁内での認識はどうだったのか?
  • お互いの考え方の違いはどうだったのか?
  • 市長にとっての重要性はどれくらいなのか?
  • なぜ激高したのか?それは普段もそうなのか?
  • 職員が何年間もできなかった理由が何なのか?
  • 職員の言い分や主張は何なのか?
  • 事業が進捗しない理由はどこにあるのか?市職員の人事配置か?それとも職員の能力か?市長のサポート不足か?

といったことはわからないわけだ。


【出典】明石市役所HP

2人の関係性

暴言を吐かれた相手と市長との関係性も不明だ。

暴言かどうかは本人の受け止め次第である。評価基準は言われた当人の考えにあるはずだ。
つまり、聞いていた100人のうち99人が「暴言だろう」と評価を下しても、言われた側が「その通り」と思っていれば、それは「暴言」ではない。99人が「暴言」という解釈をしただけにすぎない。

では、職員はどう思っていたのか。ニュースで聞いたところだが、気にしていないようで、よくある発言との発言をしている。市長の感情的な発言で精神的なショックを受けた・・・ということでもなさそうだ。

もう一度、冷静な反応を

しかも、この1年半前の発言がなぜこのタイミングで、というのは皆さんも疑問をもったところであろう。4月には市長選挙がある。子育て施策で全国的な注目を浴びる泉市政に対して、前市長であり、兵庫県議が対抗馬として出てきて、激戦になることが明らかだった。なので、そこは注意しないといけない。

また、明石市に「発覚2日で市に意見1200件」というのは常軌を逸している。

職員が電話で対応を受けたり、メールを読んだり、1件平均3分と試算すると3600分、60時間。職員2人が4日程度、この業務にかかりっきりになったということだ。精神的にも負担を与えるし、役所の業務を停滞させる。

ニュースを聞いて脊髄反射し、わざわざ電話までかける人は、なんのためにしたのだろうか?

自分の感情?何らかの不満を解消したい?文句を言いたい?

泉市長のこれまでの政策は、社会的な弱者を支える、居場所を与える先進的な政策を進めてきたことも知ってから、電話して欲しかった。

ネットでも多くの人が意見を言うのは自由だけど、事情を想像して、少しは冷静になりたいものだ。1つの言葉をネタにするのもいいけど、ネタにして大騒動にすることで、誰か・何かの思惑に乗っているのでは?という冷静な目を持ちたいものである。当事者間の言い争い、政治的な思惑などから、市民社会は冷静になりたいもの。

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西村 健
日本公共利益研究所 代表・主席研究員

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