学校や教育委員会が虐待親にビビって子どもの命を売り渡さずに済む方法

駒崎 弘樹

「ありえない・・・!」

最初に野田市教育委員会が、心愛(みあ)ちゃんのアンケートのコピーを虐待加害者本人に見せたニュースを知った時に、大声を出してしまうくらいに驚きました。

いじめ訴えアンケート父親に渡す NHKニュース

01月31日 11時51分

千葉県野田市で小学4年生の女の子が死亡し、41歳の父親が傷害の疑いで逮捕された事件で、女の子が「父からいじめを受けている」と訴えた小学校のアンケートのコピーを、市の教育委員会が父親からの要求を受けて渡していたことがわかりました。

今月24日千葉県野田市の小学4年生、栗原心愛さん(10)が自宅の浴室で死亡しているのが見つかった事件では、父親の栗原勇一郎容疑者(41)が暴行を加えたとして傷害の疑いで逮捕されました。

野田市などによりますと、心愛さんはおととし11月に当時通っていた小学校で行われたアンケートで、「父からいじめを受けている」と訴え、1か月余り児童相談所に一時保護されました。

一時保護が解除されたあとの去年1月、栗原容疑者が小学校を訪れ、「娘に暴力は振るっていない」とか、「人の子どもを一時保護といって勝手に連れて行くのはおかしい」などと抗議したうえで、アンケートの回答を見せるよう強く求めたということです。

学校側は「個人情報なので父親でも見せることはできない」と拒否しましたが、その3日後に栗原容疑者が心愛さんの同意を取ったとする書類を持って市の教育委員会を訪れたたため、教育委員会はアンケートのコピーを渡したということです。

これについて野田市は「一時保護に対する父親の怒りを抑えるため、やむなくコピーを渡してしまったが、著しく配慮を欠いた対応だった。亡くなった心愛さんに大変申し訳なく思っています」としています。

暴力的な親に「ビビって」子どもの命を売り渡す

非常に簡単に言うと、自分たちがabusive(虐待的な)父親に恫喝されて怖かったから、心愛ちゃんの必死のSOSのコピーを父親に渡した、となります。

それが父親の手に渡ったら、心愛ちゃんが更なる虐待や口封じをされて、もう二度と助けてと言えなくなるのは、火を見るより明らかなのに。

心愛ちゃんは、学校のアンケートに書かれていた、この文言を信じたでしょう。

「このアンケートは、みなさんが、いじめのないたのしいがっこうせいかつができるようにするためのものです。ひみつをまもりますので、しょうじきにこたえてください」

そして大人たちを信じ、こう書きました。

「お父さんにぼう力を受けています。夜中に起こされたり、起きているときにけられたりたたかれたりされています。先生、どうにかできませんか。」

この文章を見た時、僕は涙が出ました。

こんなにもはっきり、SOSを出しているのに。

ここで分かるのは、現在の教育委員会や学校に、子どもを守る能力は決定的に欠如している、ということです。

「スクールロイヤー(学校内弁護士)を配備する」という解決策

しかしここで野田市教育委員会に電凸(電話でクレームを入れること)しても、僕たちの怒りは少しは収まるかもしれませんが、現場の職員が疲弊して、経験のある職員が辞めてしまったり、次の虐待に備える力が削られてしまったりするだけです。

どうしたら、彼らのような「虐待親にビビってしまう」、ある意味ふつうの人たちが、虐待親に屈せずに子ども達を守れるようになるか、に知恵を絞らなければなりません。

そこで考えられるのが、「スクールロイヤーの全学校区への配備」です。

スクールロイヤーとは

スクールロイヤーは、いじめや虐待等、法律的問題を予防・対応するために学校をサポートする弁護士です。

最近だと、神木隆之介さんが出演した、NHKドラマ「やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる」で認知度を高めた制度です。

番組HPより

これは現実すでに一部の自治体で導入されていて、例えば、東京都港区では2007年に導入され、現在、21人の弁護士が計40校ある公立幼稚園・小中学校ごとに登録されています。

校長や教員は直接、電話で弁護士に相談でき、司法の観点を踏まえて助言を受けられ、話し合いに同席を求めることもできるそうです。

大阪でも2013年度から導入。学校側からは「法律家の助言を踏まえ、自信を持って対応できた」という声があったとのこと。
(出典: 日本経済新聞「学校トラブル、弁護士が助言 東京・港区教委などが導入」)

こうした先進的な自治体の取り組みを踏まえて、文科省は2018年度に10ヶ所に広げましたが、とはいえ、たったの10ヶ所です。

もし全ての教育委員会にスクールロイヤーが配備され、野田市教育委員会にもスクールロイヤーがいて、虐待親に恫喝された時に弁護士が出てきて「どうぞ訴訟でも何でもしてください。受けて立ちますよ。あと、大声出すのは恐喝になるので、警察も呼びますからね」と毅然と対応していたら?

悲しすぎる結果も、違っていたのではないでしょうか。

スクールロイヤーの課題

期待できるスクールロイヤー制度ですが、今はまだ「問題があったら派遣される」形式が多いようです。

それだと「現場を知らないで、法律だけでものを判断する人」となってしまう危険性もあるので、できれば専属で市教委と契約し、日々学校現場で先生の相談に乗ったり、先生方に研修をしたり、いじめや虐待の恐れのある生徒の話を聞いたり、という活動ができるような「ハンズオン型スクールロイヤー」へと進化していくのが望ましいでしょう。

また、学校側だけを守り、いじめ事件等の責任回避に使われる可能性も無いことは無いので、子どもの人権に沿った対応をしているのか、日弁連の第三者機関にチェックしてもらう等のアップグレードも必要でしょう。

まだまだ発展途上の制度ですが、スクールソーシャルワーカーのように、発展させていくポテンシャルは十分にあると思います。

まとめ

もう「学校や教育委員会だけ」で子どもたちの抱える課題に対応できる時代は、残念ながら過ぎ去りました。

教育機関が、福祉や司法に自分たちを開き、助けを求め、がっつりと連携していかなければ、いじめや体罰、虐待でどんどんと子どもたちの人権と、時に命が削り取られていくだけです。

野田市の学校や教育委員会に石を投げたい気持ちをグッと押さえて、考えないといけません。

どうすれば次の心愛ちゃんが生まれないか。どうすれば、怖くて子どもの命を差し出す大人が生まれないか。
そのために、どのように学校を強化すれば良いのか。

そこにこそ、我々の意識と発想を向けなくてはなりません。

悔しさと悲しさと怒りとやるせなさを乗り越えて。

みんなで考えましょう。


編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2019年2月3日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。