親の遺産はどこにある?

いつかは必ず経験するのが親の死。そしてその悲しみに暮れる暇なく現実に引き戻されるのが、葬儀の連絡や費用。さらには様々な支払いや親がやってきた債権債務やコミットメントといろいろ出てくるものです。ここで困るのが、「どこに何があるかわからない!」ではないでしょうか?

また、老化やがんなどの疾病でその死期がある程度分かっている場合はまだ準備期間がありますが、事故死のような場合にはある日突然その日は訪れます。これはもっと恐ろしい結末を迎えます。

皆様はIDとパスワードを要求されるサービスをどのぐらいお持ちですか?(編集部)

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私の周りでもそのような話を耳にすることは増えてきています。カナダである方が若くして突然亡くなりました。当然ながらこの方の預金にアクセスできなくなり、特殊事情もあり、銀行側がその相続者へのトランスファーを認めなかったのです。数年揉めて、訴訟も辞さない、というところまで行きますが、銀行相手に勝てない勝負と判断、そのお金は国庫行きとなりました。

認知症になった親を持つ人も一苦労です。キャッシュカードの暗証番号が分らないなど各種IDとパスワードが不明でどこに何があるかさっぱりわからないのです。

20年前の相続はまだ簡単でした。まだ、紙の時代だったことと親もパソコンを使わない世代だったからです。ところがこれからお亡くなりになる方はパソコンを通じて様々な取引をしています。その内容は本人だけしかわからないことが多いでしょう。

皆様はIDとパスワードを要求されるサービスをどのぐらいお持ちですか?私はざっと30近くあります。それこそ銀行や証券会社のアクセスから税務当局の個人アカウント、身近なところではクレジットカードや携帯電話のアカウントやアマゾンや長距離バスのアカウントまでそれこそ、世の中IDとパスワードだらけであります。

日本の銀行はパスワードを数カ月に一度変更しろ、とネット上で要求してきます。これがよいのか悪いのか、議論があるところですが、時として強制的にパスワードを変えさせられることもしばしばです。さらにシステム側がアップグレードしてもっと強化したパスワードを要求してくることもあります。英数文字に大文字を混ぜてさらに&%$#などの記号を入れさせることも増えています。その結果、昔は覚えやすいパスワードだったものがだんだん変形してきて自分でも覚えられないもので設定することも増えているはずです。もはや、本人だってわからなくなっています。

先日、堀江貴文氏の本を読んでいてへぇと思ったことがあります。それは彼がある仮想通貨を初期に買ったのですが、後日、値上がりしたその仮想通貨を売ろうと思ったらパスワードが分らなくなったというのです。結局、彼はかなりの額の「仮想資産」に手が届かない状態になってしまっているとのことです。あれだけ能書きが多いホリエモンですらそうなるのです。

ある私の知り合いも全く同様にビットコインを初期に相当額購入したもののその後、アクセスできず、死蔵している「仮想資産」は億単位だと自慢とも嘆きともいえない話を安居酒屋でしていたのが印象的でした。

この状況をどう打開するか、手を打つべきと思います。私は自分の対策は施していますのでIDやパスワードが分らなくなることは今のところありませんし、一応、暇を見て秘密ノートへ書き出しはしていますので完ぺきではないですが、ある程度の準備はあります。

私はカナダで近日中に「遺言のセミナー」に行かされます。「行かされる」というのは私の会社の会計士から強制的に勉強して来い、と送り出されるのです。理由は会社経営者たるもの、いつ何が起きても会社が困らないようにするのが役目、と指導されており、私のような個人会社は全ての情報が私に集約されている以上、その責務は大きい、というのです。なるほど、その通りです。

折しもカナダの仮想通貨業者の社長がぽっくり逝ってしまい、コールドウォレットに入っている220億円が引き出せなくなっています。裁判所は保全命令を出しましたが、暗証番号を知っているのはこの亡くなった創業者だけです。残された奥様には現物の遺産のための遺言は残されているようですが、裁判の行方ではこの遺産が遺産になるのかすらわかりません。

人生100年時代とは言いますが、複雑化する個人資産やコミットメントとその電子化への対策は不可欠となってきます。そのようなサービス(絶対安心な電子信託システムなど)の構築は必要でしょう。

なぜそのような仕組みができないのか私には不思議で仕方がありません。起業のアイディアなんて溢れ出てくるというのはこういうことに気が付くかどうかではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年2月8日の記事より転載させていただきました。