ウソや不正が「森羅万象」に宿る時代

2019年02月12日 06:00

見抜く力を磨くしかない

官邸サイトより:編集部

「私は総理ですから、森羅万象を担当している」との安倍首相発言を借りれば、「ウソや不正が森羅万象に宿る時代」です。政府の統計不正問題で厚労省が集中砲火を浴びています。厚労省に限らず、ウソや不正、虚偽と疑われることが国内では、安倍政権、主要官庁、大企業、大学、さらに海外では米中のトップ、世界的自動車メーカーに広がっています。なぜでしょうか。

首相の「森羅万象」発言は、この言葉の意味をよく考えないで口走ったのでしょう。真意は「あらゆる分野の情報が飛び込んでくるので、ひとつひとつを十分にチェックできないこともある」という程度だったのでしょう。しかも、できもしない「森羅万象を担当」の「担当」はさらに余計でした。神になったとしてとしても、「担当」できるものではありません。

ともかくこの「森羅万象」といえば、ウソ、不正、虚偽が今や「森羅万象」に広がっていることです。「限りなく茂る樹木、および万物やあらゆる現象」に広がっています。厚労省の毎月勤労統計の不正、不明朗な扱いについて、各紙の社説「統計の正確性に対する認識があまりにも軽い」(朝日、1月24日)、「調査実態を解明し、再発防止の徹底」(読売、2月5日)などはまとも過ぎて視野が狭い。

リーマンショックが不正を生む

Wikipediaより:編集部

うその世界的な広がりのなぜを考える必要があります。日産会長だったゴーン被告の話をしますと、捜査が進むにつれ、「絶対絶命」との見方がやはり広がっています。並はずれた金銭欲の持ち主がリーマンショック(世界金融危機、08年秋)で、私的な投資に巨額の損失が発生した。銀行から数十億円の追加担保を要求され、次々に不透明な資金操作を始める発端となったと考えられます。

次に、経済統計で最も悪質なのは、厚労省どころか、中国のGDP(国内総生産)の伸び率(経済成長率)です。17年の成長率は6.8%で、当初発表の6.9%から下方修正しました。景気が急減速していますから、引き下げたのは当然としても、実態はマイナスという見方は根強い。

中国の景気減速につれ、中国市場への輸出が落ち込み、日本含めた海外の景気に重大な影響を与えていますから、虚偽の成長率は罪が重い。習近平体制を維持するために、停滞が始まった経済実態を正直に伝えることがますますできなくなった。だから厚労省の不正統計問題は大したことではないということではありません。視野を広げ、ウソや虚偽の広がり見つめる時です。

トランプ米大統領は株価の下落を防ぐために、FRB(連邦準備理事会=中央銀行)の利上げの動きをけん制しました。FRBの政治からの独立性に踏み込むことは禁じ手(禁止事項)のはずで、法を逸脱しています。株価の下落は大統領選に不利となると、考えているのです。

粉飾に近い財政再建計画

安倍政権はどうでしょうか。粉飾に近いのが財政健全化計画です。基礎的財政収支を26年度に黒字化するとしています。それができると信じている人はまずいません。前提となる経済見通しが甘く税収が高く見積もられている。名目成長率を3%前後としています。高成長だったバブル期以来、実現していない高い数字です。アベノミクスが成果をあげているというために、辻褄を合わせたのです。

厚労省の不正統計の話に戻れば、統計という地味な分野は職員数、予算を削られ、職員は連日の深夜勤務、残業で睡眠時間をですり減らしている。発端の毎月勤労統計では、全数調査すべきところを3分の1の事業所(東京の大企業の場合)しか調査を実施していなかった。それなら始めから抽出調査にし、倍数を掛けて全数に近づければいい。誰かがそれを認めなかったのでしょう。

そのうえ、安倍政権の官邸からは、働き方改革だの、待機児童の解消だの、外国人労働者の受け入れ拡大だのと、課題は矢のように飛んでくる。現場はへとへとなり、国会では野党の集中砲火を浴びる。叩きやすい、いじめやすいところを狙い、得点を稼ごうとする。

そうした連鎖があるのに、安倍政権は4月の地方統一選前には区切りをつけようと焦ったのか、生煮えの調査結果が提出され、それがまた国会、メディアから叩かれる。よくお目にかかる構図です。森友学園問題でも現場に責任を押し付け、官僚は文書改ざんに手染め、政治は官僚叩きを眺めるだけでした。

「森羅万象」広がるウソ、不正、虚偽の背景は様々でしょう。いくつか指摘すると、「かつては問題が起きても、経済が成長し、好景気の波で失態が埋め戻され、ばれないで済んだ。最近は、金融危機や世界的な成長鈍化で、失態が隠せなくなった」がまずあります。

次に「内部告発が増え、第三者のチェックも厳しくなった」ですか。身内だけで処理してごまかすことは難しくなった。厚労省の場合は、「内部で不正に気付いても、ばれるまで口を割らない。ばれた時には不正が長期化ており、傷口は深くなっている」ということでしょう。

「成長鈍化の中で、各国間の競争が激化し、政治的な動機、思惑が強まり、無理な政策を主導するようになった」という面もありましょう。

この3、4年、フェーク(ニセ、虚偽)ニュースという言葉がはやっています。メディアや第三者が意図的に流すウソ情報です。それに対して、この1,2年は当事者が不正な行為をして、それが発覚する傾向が強まっているように思います。虚偽を見抜く力がますます要求されるようになってきました。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2019年2月11の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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