バロンズ:富裕層向け増税と自社株規制は、最悪なアイデアか

2019年02月12日 11:30

バロンズ誌、今週のカバーは年次の”最もサステナブルな米企業100社”を挙げる。今回で2年目となるリストの1位は電化製品小売大手ベスト・バイが前年の3位から浮上、フランス育ちでアルプスでの環境破壊を見てきたヒューバート・ジョリー最高経営責任者(CEO)の下、スコアを伸ばした。また、保険大手ボヤ・フィナンシャルは親会社の蘭INGが出資を引き揚げた後も劇的は変化に挑み、幹部に多様性を、取締役には男女同数を取り込み、前年の46位から6位へ急上昇している。気になる今年のランキングは、本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測する名物コラムはアップ・アンド・ダウン・ウォールストリートだが、今週はストリートワイズを取り上げる。抄訳は、以下の通り。

ワシントンは、富裕層叩きをやめるべし—Washington Should Stop Bashing Billionaires.

チャック・シューマー上院院内総務(NY州)とバーニー・サンダース上院議員(バーモント州)が提案した自社株買い制限案は、富裕税や富裕層向けの所得税引き上げに続くワシントンから浮上したバッドアイデアの一つだ。ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙に寄稿した両名は、自社株買いを行う条件として①最低時給を15ドルへ引き上げ、②労働者を含めた長期的な企業の力強さに向けた投資——を挙げた。自社株買いが、工場や研究開発、従業員への投資を犠牲にしているとの論理的根拠に基づくためだ。

しかし、その根拠は証明されていない。米企業はこれまでになく健全で、ストラテガスのダン・クリフトン氏によれば、2018年の7〜9月期までの3期で固定投資は2,080億ドルと、自社株買いの1,910億ドルを上回る。また、同氏は「2017年末に成立した税制改革法に基づき、州税・地方税(SALT)の控除額の上限を年万1万ドルとした結果、実質増税を強いられ、米国民の9割が減税の恩恵を受けたほか、平均時給は3.2%上昇しており、所得格差は縮小しつつある」と主張する。

バロンズ読者の世論調査では、自社株買いを支持する声が6割に。

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(出所:Barron’s

実際のところ、政府は利益の使い途に対し企業に介入すべきではない。同時に、幹部が会社のオーナーである株主に還元するなら、制限を設けるべではない。年始のビックリ10大予想で知られるブラックストーンのバイロン・ウィーン副会長も、「一部の企業、産業は最低賃金15ドルに応じられるが、ホテルやレストランではそうはいかない」と発言していた。また「自社株買いは賃金水準と紐付けすべきではない」とも語る。

これまでのところ、米株相場は民主党の提案を受けて下落していない。トランプ政権下で共和党が上院で多数派を握る限り、実現性は低いためだ。しかし、2020年の大統領選で状況が変化してもおかしくない

ゴールドマン・サックスのロイド・ブランクファインCEOは、シューマー氏などによるNYタイムズ紙の寄稿を受けて「企業はリターンを狙って自社に再投資できないタイミングで株主に利益を還元してきた。カネは消えていない、さらなる業績改善に加え、経済や雇用を押し上げるために再投資されてきたのだ」とツイートし、反発したものだ。

サンダース氏はこれに応じ、自社株買いはブランクファイン氏をはじめとした億万長者の富を増大させたと指摘した上で「米国人労働者の賃金を引き上げたらどうか」と問い返す。ブランクファイン氏の答えは「サンダース上院議員から私が働く会社で賃金を引き上げていないと批判を受けるとは思わなかった」だった。GSと言えば、高賃金で知られるため、皮肉で返した格好だ。GSは2018年に3万6,600人の従業員に123億ドルを給与として支払い、平均年収は単純に33万6,000ドルと考えられる。

その他、オカシオ−コルテス下院議員が提示した最高所得税率引き上げ案は、1,000万ドル以上の富裕層を対象としており、例えばブラックストーンのスティーブン・シュワルツマンCEOがそれに該当するだろう。同氏の2017年の年収は、7億8,600万ドルだった。同氏の税還付額は知らないが、その納税額はNY州で最も高額に違いない。そして、彼のような上位1%は、NY州の所得税収全体の46%を担う

ウォーレン上院議員の富裕税に考えてみよう。同案は資産5,000万ドル以上の富裕層に2%、10億ドル以上に3%の富裕税を課すというものだ。同案は施行が困難で、憲法違反と判断される恐れがあり、フランスでもオランド政権で富裕税(年間100万ユーロ以上の高額所得者に最高75%の税金を課す、ISF)が導入されたが、まもなくほぼ廃止の憂き目に遭い、マクロン政権で富裕税(ISF)が不動産富裕税(IFI)に転換された。

バークシャー・ハサウェイのウォーレン・バフェットCEOに、富裕税について尋ねてみたが、返答は得られなかった。仮に富裕税が導入されれば、810億ドルの資産を保有する同氏は、年間25億ドルを支払う羽目になる。従ってバフェット氏は株式を売却し、寄付金を引き下げる余地が出てくるだろう。

バフェット氏は自身に課された所得税率が秘書より低いと発言したことで知られるように、富裕者の税率の低さを批判する一方で、自ら多くの所得税負担を強いているわけでもない。2016年の開示書類によれば、連邦税を180万ドル支払った程度だ。バフェット氏はこれまで、300億ドルもの寄付金を投じてきた。仮に富裕税が導入されれば、未来の企業家が寛大に寄付を行うかは、不透明だ。


さすが金融経済誌バロンズ、トランプ大統領が一般教書演説で社会主義にならないとあらためて断言したように、民主党によるプログレッシブな提示を否定する論陣を張りました。否定する理由もあって、例えばフランスだけでなく日本でも富裕税が導入されたものの、廃止された過去があるんですよね。そもそも戦後、日本では最高所得税率が高かった事情から労働意欲を妨げるとし、1949年のシャウプ勧告により1950年に所得税率を引き下げとともに、累進課税での富裕税が導入されました。しかし、富裕税の税収が微々たるものだった上、資産価値把握について税務上の問題が生じ、1953年に廃止されたのです。

資産を簿価、時価で判断するかで保有資産が変わるなどの問題もあり、富裕税は悩ましい限り。ただ、米国での世論調査をみると、ウォーレン氏が提示した富裕税に対し61%のアメリカ人が支持を表明、オカシオ−コルテス氏が主張する最高所得税率引き上げの45%を上回っていました。何より驚くべきは、富裕税を支持した内訳として民主党が74%に対し、共和党が50%だったこと。共和党支持者でも、富裕税に賛成する声がこれだけ高いと、never say never=決してない、とは言い切れない?

(カバー写真:Romain/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2019年2月11日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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