沖縄住民投票:民主政は自由主義実現の手段にすぎない --- 五十嵐 哲也

2019年02月13日 06:00

沖縄の住民投票の是非について様々な識者が議論をしているが、県民の意見反映や法的位置づけといった側面からの議論が多い。しかしこれでは賛成派と反対派の議論が噛み合うことはない。県民の意見を政策に反映することも、法に則って政策を進めることも、理念として尤もであるからだ。しかし一歩下がって、本当に重要なものは何かを考えてみたい。

辺野古岬と大浦湾(写真AC:編集部)

そもそも歴史的に基本的人権の概念は、精神活動の自由や経済活動の自由等といった自由権を意味していた。始まりは自由主義なのだ。そこから自由権を保障する仕組みとして参政権、即ち民主政が生まれ、更に単なる自由放任主義では社会経済に問題が生じることが明らかとなり、生存権等の社会権が生まれている。

ここで重要なことは、理念として民主政よりも重要なものがあったということだ。また、そもそも民主政を成立させるための前提条件として、参政権だけでなく、法の下の平等、法の支配、権力分立といった理念がある。民主政は自由主義を実現するための手段であって、決して上記の理念と並列となるものではなかったのだ。

この点をきちんと意識せず、民主主義を金科玉条のように振りかざしてしまうと、日本でも大政翼賛体制があったように、国を誤った方向へ導いてしまう。

ただ日本では、日本人の多くに支持されている和の精神と親和性が高いからか、民主主義を他の理念よりも重要視する人が多い。

例えば、話が大きく変わるが2014年のロシアによるクリミヤ併合は、形式的には住民投票により多数の住民が支持した結果、帰属変更がなされたとされている。確かにクリミヤ半島ではロシア系住民が多数を占めているため、これを真に受けて、日本人にはロシアのクリミヤ併合を仕方のないものと考える人も多い。そうでなければ、現在の日本政府がロシアを危険視せず、日ロ平和条約交渉を積極的に進めたりすることは、あり得ないだろう。

しかしロシアによるクリミヤ併合は、欧米諸国から強い反発を受け、ロシアへの経済制裁まで招いている。クリミヤ半島ではロシア系住民が多数を占め、ロシアによる併合を支持している住民が多いとしても、そのことが決して国際秩序の維持、即ち国際法の遵守を上回ることはないのだ。

ロシアによるクリミヤ併合は、実態としてはハイブリッド戦争により住民の併合支持がお膳立てされたもので、とてもまともなものではない。少なくともロシアへの経済制裁を進めた欧米諸国は、そのように考えている。

残念ながら日本では、「民主主義」「住民の意思」といった言葉を聞くと、思考を停止して支持してしまう人が多い。これでは沖縄の基地問題だけでなく、上述の対ロシア政策の様に様々な場面で、政治家から一般市民まで多くの人に見受けられる。

しかし民主政は手段に過ぎない。このことを忘れると、国を誤った方向へ導きかねない。沖縄県民だけでなく、日本人全体が、一歩下がって本当に重要なことを考えなければならず、そしてその重要なことは、住民投票の結果ではない。基地問題は当然ながら安全保障、即ち生命に対する権利の問題であり、法の支配などを前提として考えるべきものである。

なお、普天間基地問題について筆者個人の意見は、海兵隊の基地を沖縄に無理に維持する必要はなく、中国への抑止力は別途考えるべきである、というものであることを補足しておく。即ちこの論評は、基地移転賛成のポジショントークから出たものではない。

五十嵐 哲也 過去中国駐在歴6年の、中国向け貿易商社社員
立場的に日中関係に深く関心を持つ。現在沖縄の基地問題や中台関係・日本の憲法改正問題などを研究中。

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