米朝首脳会談で日本が置き去りにならない理由

2019年02月13日 06:00

今月末にベトナムのハノイで行われることになった二度目の米朝首脳会談で、トランプ大統領が日本を置き去りにするのではないかとの議論が日本国内に少なからずある。すなわち、米国に届くミサイルの開発さえ断念させられれば、それでトランプが手を打つとの論だ。が、筆者はそんなことはあり得ないと考えている。

官邸サイト、ホワイトハウスFBより作成:編集部

上下両院の捻じれがもたらす種々の苦境に悩まされるトランプが、この問題での成果を土産にしたいからだという。が、そんなことが果たしてトランプの一存でできるものだろうか。そう思う理由は大きく二つある。一つは日米安保条約の下に強大な米軍が日本に駐留しているという現実であり、他は北朝鮮に対する国連の制裁決議だ。聡明な読者諸氏にはここまでで十分だが少し蛇足する。

在日米軍をその指揮下におく米国インド太平洋軍は、陸・海・空の三軍と海兵隊、そして沿岸警備隊の五軍で構成されている。その守備範囲たるや、インド太平洋軍の名が示す通り、北東アジア、東南アジアとその沿岸、そして太平洋からインド洋と極めて広範だ。

その主力である在日米軍の兵力は約5万人といわれる。家族を含めれば10万人近い。仮にトランプが米国に届くミサイルの放棄だけで手を打ち、日本を射程に置く分が温存されるなら、この10万人のみならず、艦船や航空機を始めとする在日米軍の数多の兵器をも危険に晒すことになる。

それを避けるならこれらを日本から引かねばならない。が、それは取りも直さず日米安保条約の廃棄を意味する。それが如何に非現実的かは、インド太平洋軍の守備範囲の広さや担う任務の重要性、そして優秀な駐留軍要員がメンテナンスの一切までを引き受けている日本に代わって、その拠点となるべき代替地が他に存在し得るかどうかを考えるだけでも明らかだ。

ちなみに、我がふるさと横須賀は米第七艦隊の母港だ。幼少のみぎりから街には米国人が溢れ、我が家の周りにはいわゆるオンリーさんが大勢住んでいた。週末ともなれば、パンパンに膨らんだ薄茶のクラフト紙袋を肩にした米兵が谷戸の石段を昇って来たものだ。今もロナルド・レーガンが入港すれば6千人近い乗組員が繰り出して街が賑う。

他方、陸上イージスの配備を候補地が忌避しているとの報道がある。標的にされる恐れがあるかららしい。その伝で行けば横須賀のリスクはその比でない。が、日本中どこであろうとミサイル攻撃などした日には、その国は瞬時に米国の反撃を受ける。トランプならそれが均衡性の原則に基づくという保証もない。だから横須賀にその種の不安を懐く市民はいない。

次は国連の北朝鮮制裁決議だ。決議の頻度も多く内容も多岐にわたるので、詳細はNHK Webのサイトに譲るとして、回数に限れば国連安保理は2006年10月から17年12月までに10回も決議している。核実験とミサイル発射が特に頻発した17年だけでも6月・8月・9月・12月の4回だ。

これまでの制裁事項の主なものを上げれば以下のようだ。この他に米国と日本による独自制裁もある。

  • 石油精製品の北朝鮮への輸出を年間450万バレルから、18年1月以降は90%を削減。
  • 北朝鮮からの石炭、鉄、鉄鉱石、海産物、繊維製品、食品、機械、電気機器、木材の輸入禁止。
  • 北朝鮮への各種兵器、産業機械や運搬用車両の輸出禁止。
  • 各国が北朝鮮労働者に就労許可を与えることを禁止。
  • 北朝鮮の14の個人と4団体を対象に海外渡航禁止と資産凍結。
  • 国連の加盟国に対して北朝鮮を出入りする船舶の貨物検査を要請。などなど

ハノイ会談での北朝鮮の狙いはこれら制裁の解除だ。が、制裁決議は繰り返される核実験とミサイル発射を理由にその都度米国が主導してきた。一度目の首脳会談では朝鮮半島の完全な非核化が合意された。米国務長官は完全な非核化まで制裁は解除しないと繰り返し述べている。だのに米国に届くミサイルの放棄だけの(つまり日本に届くミサイルと核が温存される)合意内容で制裁を解くことを、トランプの一存でできると考えるのは荒唐無稽だ。

加えて米国議会には力がある。かつて1979年に民主党カーター政権は中国を承認して台湾と断交した。その時、米国議会は間髪を容れず台湾関係法を全会一致で決議した。国内法によって実質的な米台軍事同盟を維持したのだ。ことほど左様に、議会にも諮らず日米安保条約廃棄や対北経済制裁解除などという大事を大統領のその場の判断だけでできる訳がない。

よって、如何なトランプとはいえ、同盟国たる日本と在日米軍とを危機に晒すのみならず、国連の制裁決議をも反故にするような内容での北朝鮮との妥協を、その一存でできると考える方がどうかしていよう。ゆえに今度の米朝首脳会談で日本が置き去りにされるなどあり得ない、と筆者は思うのである。

高橋 克己 
年金生活の男性。東アジア近現代史や横須賀生まれゆえ沖縄問題にも関心あり。台湾や南千島の帰属と朝鮮半島問題の淵源である幕末からサンフランシスコまでの条約を勉強中。

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