「スリーパー・セル」はどこに消えた?

2019年02月14日 06:00

昨年の2月11日に国際政治学者の三浦瑠麗氏が昼間のバラエティー番組で「スリーパー・セル」の存在を指摘し物議をかもした。

フジテレビ「ワイドナショー」より:編集部

三浦氏の「スリーパー・セル」発言は下記のとおりとなる。

テロリストが、仮に金正恩さんが殺されても、スリーパー・セルと言われて、指導者が死んだと分かったら一切外部との連絡を絶って都市で動き始める。スリーパ―・セルというのが活動すると言われている。

「大阪がヤバイと言われていて…」(1)

著名な国際政治学者が紹介し、また「大阪」という具体的な地名を出したためかこの「スリーパ―・セル」は注目を集めた。

特に「大阪」は在日コリアンが多数住んでいるため「注目」に留まらず「排外主義を煽る」といった批判がなされた。

このアゴラでもスリーパー・セルについての記事が書かれた。

“スリーパーセル” 読売が10年前に阪神の被災地から武器発見の報道

読売の“迫撃砲”報道への補足と疑問

三浦氏の発言から1年あまりが経過したが「スリーパー・セル」の議論が深まったとはとても思えない。

むしろの三浦氏が一方的な非難に晒され委縮してしまっただけではないか。

まさに「スリーパ―・セルはどこに消えた?」というやつで、それは安全保障論議の停滞を意味する。

もとより「スリーパー・セル」は議論しにくい分野であるのは間違いない。ともすれば平和の脅威は「隣国より隣人」であるという意見を誘発しやすい。だからといって議論を避けることはあってはならない。

「工作員」は何をするのか 

筆者は議論を円滑にするために本稿では「スリーパー・セル」ではなくシンプルに「工作員」の呼称を使用したい。

そしてこの「工作員」の存在を否定するものはいないだろう。CIAはよく知られているし何よりも日本は北朝鮮の工作員による拉致事件を経験している。

では「工作員」は日本で何をするのか。

三浦氏は「都市で動き始める」程度のことしか述べていないが、上記のアゴラの記事を参考にすれば工作員は「迫撃砲」を始めとした高度な武器を使用する恐れがある。

武装した工作員は多数の死傷者を発生させる恐れがあり最も関心が持たれる。

しかし工作員の活動は破壊活動だけではない。日本の外交・安全保障関連の秘密情報を収集する「スパイ活動」や政財界の有力者に本国の利益になるような働きかけを行うことも考えられる。

実際のところ日本は武器規制が極めて厳格な国だから可能性として高いのはスパイ活動と有力者への働きかけである。

そしてスパイ対策として安倍政権は2013年にいわゆる「特定秘密保護法」を成立させた。同法は「罰則強化」ばかりが喧伝されがちだが秘密情報の取扱者も指定するなど実際的なものとなっている。このことからスパイ対策は進歩したと言えよう。

問題は「有力者への働きかけ」である。最近でも外国籍の弁護士による辻元清美議員への献金が問題となった。この「有力者への働きかけ」が一番の難点だろう。

「有力者への働きかけ」は基本的には合法であり、また合法であるべきである。

「工作員対策」の名目で政治家・財界人の人的交流・接触を制限するわけにはいかない。

出来ることと言えば実際に「有力者への働きかけ」が行われた場合、有力者当人に相手が工作員だったことを告げることだろう。

とすると必要なのは工作員の存在をきちんと把握しておくことであり工作員の実態調査の徹底が求められる。

実態調査が必要だ

工作員の実態調査の徹底が工作員対策の基礎である。

ときおり警察による朝鮮総連関連施設への捜査がニュースになるが、これは警察が朝鮮総連関連施設を「工作員の出撃基地」と判断して捜査しているからである。

施設への立入は工作員の実態調査のみならず「出撃基地」としての機能も無効にできる強力な措置である。

このことから「工作員対策」として警察官・行政職員に施設への立入調査権を新たに付与することも検討できよう。

一方で日本社会における立入調査の衝撃・反響を考えれば、それがたとえ警察によるものであっても世論は反発する可能性が高い。
実際のところ実態調査として「施設への立入」は一足飛んだ議論でもある。

順序としては「工作員の出撃基地」に出入りしている者に協力してもらい内部の情勢を探るとか厳格な手続きを大前提に工作員の電話・メール等の通信傍受を行うといった方が平和的である。

電話・メール等の通信傍受は現行法では組織犯罪による重大犯罪に限定して認められているが組織犯罪に限定せず外国の工作員の活動も通信傍受の対象にすることも検討すべきではないか。

この場合、「外国」とは外国一般ではなく「日本の領土の一部を占領している国」「武力を背景に日本を威嚇・恫喝してくる国」「日本に対して著しい侮辱・挑発を行う国」いった具合で限定したほうが世論の支持も得やすい。

このように現行法を基礎に世論の合意を得やすい実態調査の方法を議論していくべきである。

「自由の追求」が工作員を無力化する

工作員の活動は本質的に秘密である。
では秘密とは何か。秘密とは他人が干渉できないものである。
そして他人からの干渉を排するためには一定の空間が必要である。要するに「秘密」を成立させるためには空間が必要である。これをここでは単純に「秘密の空間」と呼ぼう。

「秘密の空間」は工作活動の基礎だから社会から「秘密の空間」がなくなれば工作活動はできなくなる。

では社会から「秘密の空間」をなくすには何が必要か。街中に大量の監視カメラや警察官を並べることだろうか。もちろんそうではない。

そもそも我々が住む自由社会は本来的に秘密が少ない社会である。
自由社会で求められる「秘密」とは自由社会を守るためのものに限られる。

抽象的な言い方になるが我々が「自由」を追求して行けば「秘密」は最小限に抑えられる。
社会における「秘密」の絶対量が少なければその分、工作員の活動は制約される。

「工作員対策」では「情報収集」とか「規制」ばかりが強調されがちだが「自由の追求」こそが本質的な工作員対策である。

このことは忘れてはならないし本稿で筆者が最も主張したいことである。

新聞・テレビは「スリーパー・セル」の巣窟か?

自由を追求することが本質的な工作員対策であるが今の日本は日本国憲法で国民の人権が保障されている自由社会である。

だから工作員対策は特定秘密保護法や警察の情報収集能力の充実以外に特段、必要ないかと言えばそうではない。
日本国憲法で保障されている自由社会とはあくまでマクロの視点での話でありミクロの視点に立つと話が変わる。

工作員は他人が干渉できない「秘密の空間」を基礎に活動するわけだが、ミクロの視点に立てば「秘密の空間」はこの自由社会に案外、存在する。
いわゆる「既得権益」は「秘密の空間」を有していると言っても良いだろう。

既得権益はそもそも政治力が強く、だからこそ既得権益化している。そして政治力が強いがゆえに他人が干渉することは困難である。

さて筆者は前回の記事で日本のマスコミは「典型的な既得権益」と表現した。

単に不規則質問を繰り返す記者一人の行いを改めるよう「要請」しただけで騒ぎ出す集団はとても外部からは干渉できない。干渉しようならば「報道の自由の侵害」と騒ぎ立てるに違いない。望月衣塑子記者の一件を見ても日本の新聞・テレビは相当な「秘密の空間」を有しているに違いない。そしてそれは外国の工作員の活動を推測させる領域である。

もちろん新聞・テレビが既得権益だからと言って直ちに「新聞・テレビは『スリーパー・セル』の巣窟か?」とは言えないが、優遇措置を享受している限り常にその存在を指摘され続けるだろう。要するに後ろ指を指され続けるのである。

もちろん新聞・テレビに限らず常に既得権益は解体し自由社会の一員に組み込む努力が求められる。繰り返しになるが「自由の追求」こそが本質的な工作員対策である。

いずれにいろ「スリーパー・セルなんて妄想だ」と切り捨てずその存在を認め実態を調査・把握しつつ、彼(女)らが活動できないよう規制改革を通じて自由社会の建設に取り組んでいくことが最も有効な「スリーパ―・セル」対策である。

脚注
三浦瑠麗氏「スリーパ―・セル」発言で論議 「偏見」VS「(批判は)行き過ぎたポリコレ」(J-castニュース)

高山 貴男(たかやま たかお)地方公務員

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