今更だが、森友土地と瑕疵担保責任(上)

高橋 克己

2月10日の朝日デジタルは、「森友への値引き、解けぬ疑問 3m以深にごみあったのか」との見出しで、この問題の2周年を記念するかのような記事を掲載した。この執拗さにはある種の尊敬すら覚える。

日経新聞より

森友問題は2018年3月の佐川前国税庁長官の辞任でほぼ落着したように見え、ネットで検索してもその後しばらくの報道は、火付け役の一つともいうべき朝日新聞を除けば、5月23日に日本経済新聞が図解入りで報じた次の記事が目立つ程度だった。

いまさら聞けない森友・加計問題とは なぜ問題になったか 森友学園:払い下げ価格が安すぎる

2016年6月、学校法人『森友学園』に大阪府豊中市の国有地が払い下げられました。不動産鑑定士が出した土地の評価額は9億5600万円でしたが、近畿財務局が出した払い下げ価格は『約8億円引き』の1億3400万円でした。

11月22日には、会計検査院が実施した追加検査の結果を参院予算委員会理事懇談会に提出したことから、毎日新聞が「森友土地売却 改ざん行為批判 検査院が追加報告書」「検査院は、約8億円の売却価格値引きの根拠については、改ざん前の文書を調べても『根拠が不十分』とした…」と報道した。

12月に入り、2日にしんぶん赤旗が、「森友8億円値引き売却直後13億円の不動産鑑定評価 衆院委 宮本岳氏追及」との見出しで以下の記事を載せた。

「日本共産党の宮本岳志議員は11月30日の衆院国土交通委員会で、学校法人『森友学園』との国有地取引をめぐって、国が8億円を値引きし1億3000万円で国有地を売却した直後、同じ土地に13億円の不動産鑑定評価が出されていたことを独自資料から明らかにしました。」

この赤旗報道に呼応するかのように12月19日の朝日新聞は、「森友問題は終わっていない 時系列で振り返る一連の経緯」と題して、2017年春からの一連の経緯を子細にお復習いし、森友問題がまだ終わっていないとシッカリ印象付けて2018年の森友報道を締め括った。そして冒頭の記事だ。

これら一連の報道からもマスコミ各社がこの問題のポイントを「値引き額8億円イコールゴミ撤去費用」と考えていることが判る。日本を代表する経済紙たる日経新聞の図表でさえ「ゴミ撤去費用8億2200万円適用」と書いている。が、筆者は「ゴミ撤去費用イコール値引き額」ではないと考える。

国有地に建設中だった森友学園の幼稚園園舎(Wikipediaより:編集部)

然らば値引き額の8億円とはどういう金額なのかといえば、それはこの土地にまつわる「瑕疵担保責任」を、売り手である国から買い手である森友学園に移す、すなわち国の責任を免責する時に、この土地の売払い額からマイナスすべき金額の評価額である。

瑕疵とは欠陥のことだ。土地でいえば土壌汚染や軟弱地盤など、買い手が目的とする土地活用に不具合を生じさせるリスクを指す。森友学園は小学校を建てるのだから、この土地が校舎建設のための諸基準を満たしているかどうかが鍵になる。が、その鍵は埋設ゴミだけでない。ここが肝心なのだ。

学校用地に基準を超える汚染物質などがあった日には、生徒の健康問題が生じたり、風評で生徒募集が出来なくなったりする恐れがある。また建設後に校舎が傾いてしまうような軟弱地盤なら土地改良に多額の費用を要したり、それでもなお建て直したりする必要が先々生じかねない。

瑕疵が事前に判明していればそれはもちろん土地の時価評価額に反映されよう。が、売り手が知らないか隠すかして、表に出ていない「隠れた瑕疵」が将来に顕在化する場合がある。森友土地の場合、その一つが校舎の建設途中、つまり貸付契約中に新たに噴出した深部の埋設ゴミだった。

このことに関連する箇所を書き換え前の財務省文書「3・売払決議書「普通財産売払決議書」(平成28年6月14日)」から引用する。因みに、他の文書と重複している(2)~(4)が書き換え時に削除された。

6.本件売払いに至る経緯について

(1)大阪航空局が行った事前調査により、本地には土壌汚染及びコンクリートガラ等の地下埋設物の存在が判明しており、国は、これらの状況を学園に説明し、関係資料を交付した上で貸付契約及び売買予約契約を締結している。学園が校舎建設工事に着手したところ、平成28年3月に、国が事前に学園に交付した資料では想定し得ないレベルの生活ゴミ等の地下埋設物が発見された。

(2)学園の代理人弁護士からは、本地は小学校を運営するという目的を達成できない土地であるとして、小学校建設の工期が遅延しないよう国による即座のゴミ撤去が要請されたが、大阪航空局は予算が確保できていない等の理由から即座の対応は困難である旨を学園に回答した。

(3)これを受けて学園の代理人弁護士から、本来は国に対して損害賠償請求を行うべきものと考えているが、現実的な問題解決策として早期の土地買受けによる処理案が提案された。具体的には、国が本地の現状を踏まえた鑑定評価による売払価格を示し、学園は、その金額が納得できれば本地に関する今後の損害賠償等を行わないとする条件で売買契約を締結するという提案であった。

(4)学園の提案に応じなかった場合、損害賠償に発展すると共に小学校建設の中止による更なる問題発生の可能性があることも含めて、当局及び大阪航空局にて処理方針を検討した結果、学園の提案に応じて鑑定評価を行い価格提示を行うこととしたものである。

貸付期間中の校舎建設過程で想定外のゴミが噴出して土地の時価額に影響を与える事態が生じたのだ。当然に買い手の森友は売り手の国に対して値引きを要求する。そこで理財局には貸付から売払いに移行する契約時の値引きに応じる必要が生じ、値引き額の算定を大阪航空局に依頼したのである。

そこで8億円の値引き額だが、筆者はこの金額にそれほどの不当性を見出さない。本件の場合、売払い契約時に双方の交渉で決まった「瑕疵担保責任免責特約」を含む価格が時価額だからだ。そう考える理由は以下に挙げる二つの案件における国の「瑕疵担保責任」の扱いだ(下に続く)。

高橋 克己 
年金生活の男性。東アジア近現代史や横須賀生まれゆえ沖縄問題にも関心あり。台湾や南千島の帰属と朝鮮半島問題の淵源である幕末からサンフランシスコまでの条約を勉強中。