東京商品取引所が生き残るには、JPXとの統合だけでは足りない

有地 浩

先週のいくつかのメディアの報道によれば、JPXはこの夏にも東京商品取引所(TOCOM)をTOBして、東京証券取引所や大阪取引所と同様にTOCOMをJPX傘下に入れるとのことだ。

私は以前、崖っぷちのTOCOMは安楽死するしかないと言ったが、JPXとただ単に統合するだけでは、この崖っぷち状態から抜け出せるわけではない。

東京商品取引所サイトより:編集部

もちろんTOCOMもただ手をこまねいているわけではなく、新商品の開発等、様々な取引の活発化に向けた努力をしていると聞くが、なかなか目を見張るような成果は出ていない。

TOCOMに残された時間は多くない。とにかく生き残りのためには、早期に現在極端に薄くなっている市場の厚みを増すこと、言い換えれば新しい資金を呼び込んでくることが絶対必要だが、これは言うは易く行うは難し、の典型だ。世界の取引所が新商品の開発や市場間の連携などでしのぎを削って、取引の拡大を図っている中でTOCOMに何ができるだろうか。

私は、外貨建て、特にドル建て商品の開発、ETF等の拡大、海外投資家の呼び込みがカギになると思う。

まず、ドル建て商品の開発だが、一般に大企業では、経理部等が全社の外貨建ての資産と負債を一元的に管理し、その上で為替リスクのヘッジをしていることが多く、原油やとうもろこし、大豆などを輸入する部門は基本的にドル建てのままで購入している。このため輸入部門にとって、ドル建ての輸入品の価格変動リスクをヘッジするには、ドル建ての商品先物でカバーするのが素直なやり方だから、現在のTOCOMのように円建ての商品だけでなく、ドル建ての商品のラインナップを揃える必要がある。

TOCOMも、こうしたことは先刻ご承知のことで、おそらくはシステム改編に、時間とお金がかかることが障害となっているのだろうが、この壁を乗り越えないことには法人需要は伸びない。

もう一つ、これは個人と機関投資家の参加拡大策として重要なことだが、JPXとTOCOMの統合が実現したら、TOCOMは証券会社等と密接に連携して、現在まだ数えるほどしかないETF(上場投資信託)やETN(指標連動証券)を証券会社にどんどん作ってもらい、販売してもらうことだ。

もちろんETNやETF自体はTOCOMの商品ではなく、JPXの市場に上場して売買されるものだが、これらのETF等のバックで、それらの証券の裏付けを確保するため、あるいは価格変動リスクをカバーするために、商品の注文がTOCOMに出されるため、間接的にTOCOMの取引高増加に貢献することとなる。

三つめは海外投資家の呼び込みだが、これは一つ目と二つ目の対策にも大きく関係している。つまり、ドル建て商品のラインナップができれば、アメリカやシンガポール、欧州など海外の市場との価格差に目を付けて裁定取引をしている海外の投資家等も参入しやすくなる。

また、海外の市場では様々な内容の商品価格に連動したETFが販売されており、アメリカの年金基金なども、ポートフォリオの一定比率をこれらで運用している。TOCOMの商品価格に連動したETFが充実すれば、海外の機関投資家もこれに目を向けるようになることが予想されるほか、アジアの富裕層を中心に海外の個人投資家からの注文も舞い込むことと思われる。証券会社が海外営業店網を活用して、これらの投資家にETFをどんどん売れば、TOCOMにとっても、また証券会社にとっても利益になるだろう。

JPXとTOCOMの統合はまだこれからのことだが、統合が実現した場合は上記の活性化策をとれば、TOCOMは復活する可能性が出てくる。それができないと、TOCOMの将来はないし、TOCOMを傘下に収めることとなるJPXにとってもメリットはなくデメリットだけが残ることとなろう。

有地 浩(ありち ひろし)
株式会社日本決済情報センター顧問、人間経済科学研究所 代表パートナー

岡山県倉敷市出身。東京大学法学部を経て1975年大蔵省(現、財務省)入省。その後、官費留学生としてフランス国立行政学院(ENA)留学。財務省大臣官房審議官、世界銀行グループの国際金融公社東京駐在特別代表などを歴任し、2008年退官。 輸出入・港湾関連情報処理センター株式会社専務取締役、株式会社日本決済情報センター代表取締役社長を経て、2018年6月より同社顧問。著書に「フランス人の流儀」(大修館)(共著)。